現地レポート:ヨーロッパ・アルペンルート オーストリア編

  • 2008年7月11日
オーストリア・アルプスの手付かずの自然と
歴史と文化、自然が融合したチロル州


3ヶ国にまたがる「ヨーロッパ・アルペンルート」のなかで、オーストリアのチロル地方は、アルプスの自然にあふれた旅の中継地点として、さまざまな提案ができる場所だ。インスブルックは、ハプスブルグ家がチロル州に大公を置き、宮殿があったことから歴史的なテーマを持たせることもできる。また、チロル州全体は2000メートル級の山と平地、森林が入り組んでいることから、自然の多様性にあふれた地域だ。厳格な法律によって守られた、ありのままの自然と人々の素朴さを感じるための体験も豊富にある。

▽関連情報
アルペンルートだから際立つ、幾多の表情〜人気のヨーロッパ・アルプスで新商品の可能性〜(2008/07/10)


インスブルック、アルプスが抱く中世の街並み

 ハプスブルグ家の支配下で栄えたインスブルックには、15世紀当時の建物が現存し、今もそこに人々の暮らしが息づいている。アルプスの山並みに四方を囲まれ、中世の街並みと調和する景観は、人の心を癒す美しさを持っている。ヨーロッパ・アルペンルートの旅では、他国との中間地点として欠かせない街だ。

 古いものを大切に守ってきた街の見どころは、旧市街。現在も半日程度の市内観光が組み込まれているが、最近はその市内観光の時間が短くなる傾向にあるという。しかし、ヨーロッパ・アルペンルートでこの町を訪れるなら、ぜひじっくり街を楽しみたい。それは、自然がテーマのルートの中で、文化や歴史、ショッピングなどのアクセントとしての素材がしっかりしているからだ。

 ショッピングや散策なら、オーストリアやチロル特有の商品を取り揃えるアーケードの商店、中世から使用されている看板を眺め歩くのも楽しい。また、少しでも日光を取り入れようと窓をせり出した、この地域特有の建物を探すのも良いだろう。歴史あるホテルには、映画「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ一家や音楽家・モーツアルトなど歴史上の著名人たちが名をきざんでいる。

 歴史に関心の高いツアーの場合、ホーフブルグ宮の訪問は欠かせないだろう。ロココ様式の華麗な城には、ハフスブルグ家の調度や肖像画が数多く展示され、当時のままの豪華な室内が往時をしのばせる(※注)。そして、宮廷教会では、栄華を極めたハプスブルグ家の初代といえるマクシミリアン1世が祀られている。ヨーロッパ史や日本でも人気が高い皇女エリザベートの生涯など、様々な観点から関心を持って見学することができるはずだ。
※注 現在は2010年を目安に大規模な修復をしているので、見られないものもある。




気軽に足を伸ばしてアルプスの自然に触れる

 インスブルックの街から眺めるアルプスは、5月ごろまでが雪景色。6月から豊かな新緑が美しく、市内を流れるイン川の水量が一気に上がる。それは、アルプスの雪解け水が大量に川に流れ込む現象だが、山の生命力を市内で一番感じられることかもしれない。その時期は、マロニエの木が、白やピンクの花を咲かせ、町が美しい季節でもある。

 そんな自然と隣り合わせのインスブルックからは、町の中心から気軽に足を伸ばしてアルプスの山に向かうことができる。それは、ケーブルとロープウェイを乗り継いで行くノルドパーク内の標高2000メートルの山頂だ。春から夏にかけて、高山植物や季節の花が色を添えて美しく、山頂では6月、7月には、アルペンローゼ、リンドウ、アネモネやエーデルワイスなどが花を咲かせる。ロープウェイに乗車中の山の中腹ではレンギョウや木蓮を見つけることもでき、ハイキングや登山をせずに、山の自然に手軽に触れ合う機会がある。

 まずは、ホーフブルグ城のすぐ近くにある始発駅のコングレス駅へ。2007年11月に開通した新しいケーブルカーで標高860メートルのフンガーブルへ向かう。かわいらしい山小屋風のホテルやおしゃれなカフェが立ち並ぶ別荘エリアに、市内から約20分で到着する。

 そこから、ロープウェイに乗り継ぐ。傾斜は強くなり、徐々に市内を一望できるようになってくる。眼下には、インスブルック市内とチロルの山並み、空港、オリンピックのジャンプ台、イタリアとの国境付近が見えてくる。約15分のぼると、ゼーグルーベ駅に到着。この地点ですでに標高1905メートルだが、所要は30分ほどでこの高さの山に足を伸ばすことができる。山小屋風のレストランもあるので絶景をながめながらの軽い食事もいいだろう。もうひとつのロープウェイを乗り継げば山頂まで上ることも可能だが、徒歩では約5分。気軽に体験できるアルプスの高山ハイキングを勧めたい。




チロル地方の旅の印象を深める体験

 チロル州観光局日本担当オフィス所長のモラス雅輝氏によると、オーストリア西部を
訪れる日本人観光客の傾向としてはテーマ型のFIT、なかでもハイキングツアーの需要
が増えているという。こうした旅行者は、インスブルックを起点に、周辺の小さな村へ
向かう。交通の要所としての歴史から、それぞれ独特の表情を見せる村と山と渓谷がお
りなす景観は、かわいらしい素朴さにあふれている。チロル地方の旅を、より印象深い
ものにする体験素材も豊富だ。代表的な周辺の村を以下に紹介する。

▽ゼーフェルト
インスブルックから車で30分、標高1180メートルに位置する高級リゾート。周辺の標高
約2200メートルのゼーフェルダーシュビッツェのトレッキングでは、ドイツとの国境の
山々をのぞみ、360度見渡すことができる展望が人気だ。また、この地域一帯では、リ
キュールに加工されるリンゴやナシ、ジャムに使われるフルーツの栽培が盛んで、季節
ごとに美しい花を咲かせる。果実を使ったジャムつくり体験も可能。

▽サンクト・アントン
インスブルックから西、ヨーロッパ・アルペンルートをスイスへ向かうルート上に位置
する村。山の谷間に広がる小さな村には、アルプスの山々を背景に色鮮やかな花が咲き
誇る。このなかをガイドつきのツアーで歩くハイキングが人気だ。花畑のハイキングは
ブルーメンワンダリングと呼ばれ、素朴で手付かずの自然に触れ合うことができる。

▽レッヒ
サンクト・アントンから北へ車で30分。レッヒの村は2003年「オーストリアで最も美し
いお花の村」、2004年「ヨーロッパで最も美しい村」に選ばれた。アルプスの山並みと、
その谷間の集落、広大に広がる牧草地帯が調和した絵はがきのような美しい景観がその
理由だ。ヨーロッパでは高級リゾートとして知られ、各国の王室も訪れることがある。
ここは、ハーブが多い土地としても知られ、専門家の解説を聞きながらのハーブ摘み、
ハーブ作りの体験ができる。



2009年は日本/オーストリア交流年、渡航者数の増加に期待


 2009年、日本とオーストリアは国交樹立140周年を迎える。
これは、2007年4月にされた開催された日本/オーストリア
首脳会談で、当時の小泉総理とシュッセル首相との間で合意
されたもの。2国間の文化に関するさまざまな記念行事を開催
することで、両国の関係をさらに深めていくことが目的だ。

 この交流年のイベント運営を委任された、チロル州観光局
日本担当オフィス所長モラス雅輝氏によると、「2009年はチ
ロル地方だけで1500人以上の交流事業による渡航が見込まれ
ている」という。また、交流事業の方向性として、展示など
にとどまらず、人と人が交流する茶道や音楽など体験型のも
のを提案していく予定だ。モラス氏は「そうしたテーマを持
った旅はキャンセルも少なく、小さなホテルが多い地域には
最適」と説明し、チロル州と日本にある10の姉妹都市を活か
しながら事業を運営していく方針だ。