現地レポート−日中韓教育旅行シンポジウムと西安

  • 2008年3月7日
青少年交流の活性化に大きな期待
3ヶ国の相互交流の可能性も


海外修学旅行は2000年の約19万6000名をピークに、9.11事件とそれ以降のSARS、鳥インフルエンザ、燃油サーチャージの高騰、少子化などの影響で減少していたが、2006年には前年比率で増加に転じ、回復傾向にある。さらに追い風となりそうなのが、昨年の日本と中国、韓国の大臣会合による「青島宣言」。これを受け、政府が東アジア圏における青少年の相互交流を推進し、修学旅行を含む教育旅行は、経済・文化・スポーツなどの民間交流の中で、より一層の拡充が求められる分野として期待されている。2007年12月に西安で開催された日本と中国、韓国による教育旅行シンポジウムと、それにあわせて実施された西安での教育旅行視察をレポートする。
(取材協力:中国国家観光局、陜西省人民政府)

日中韓観光大臣会合、連携・協力強化へ−青少年、国際イベントなどで協同(2007/06/27)
18年度の海外修学旅行、校数は過去最高、生徒数は少子化影響するも回復基調(2007/11/13)


日本は最多の139名が参加
中国、韓国からの訪日教育旅行の人気も高まる


 日中韓教育旅行シンポジウムは「青少年旅行と東アジアの未来」をテーマに、東アジアの経済、文化、観光面での交流と活発化と需要拡大、特に3ヶ国のさらなる青少年交流促進により同地域の安定と平和友好関係の強化とその実現を目的とするもの。2007年の日中韓観光大臣会合で採択された「青島宣言」でも、教育旅行シンポジウムの開催が明記されている。

 シンポジウムは今年で2回目の開催で、今回は3ヶ国から政府や関係団体、教育関係者、旅行業界、メディアなど約300名が参加。このうち、現地で合流した関係者をのぞくと、韓国からは45名、中国からは81名で、日本からは139名と最も多く、日本市場のシンポジウムと3ヶ国間の教育旅行、とりわけ中国に対する関心の高さを示した。特に修学旅行の実施基準が規定され、費用・期間などの縛りがある日本の公立校にとっては、距離が近く、比較的安く行けるアジア圏への期待は大きいようだ。ある私立高校の教頭先生は「現在の修学旅行先は国内の関西だが、今後もこうしたシンポジウムやセミナーに参加し、可能性を探りたい」と意欲的。「もっと3ヶ国の教育担当者と話す時間が欲しかった」との声も聞かれたほどだ。

 各国からの発表で、特に中国と韓国が共通して強調したのが、教育旅行目的地としての日本の重要度。現在、韓国から約1万名、中国から約5000名の生徒が訪日教育旅行を実施しており、人気が高まっているという。京都府立久御山高等学校校長の日野純一氏もシンポジウムの講演で「京都の府立高でも中国からの教育旅行を受け入れており、授業参加やホームステイなどを通じて学校交流をしている。相互信頼を深める良い機会」と、この流れを評価。中国と韓国からはさらなる活性化に向け、生徒、教職員のみならず、通訳ガイドなど同行者のビザ発給の
緩和措置について、日本側に検討を要望する意見も多く
寄せられ、今後の日本の取組みに期待が感じられた。


西安−教育旅行の素材は豊富、旅程の工夫次第

 陝西省の省都である西安は市内に350万人、周辺部を含めると約800万人の人口をもつ大都市。紀元前11世紀から1000年以上もの間、さまざまな王朝が都を置いた古都であり、兵馬俑をはじめ、芸術的な仏教建築である大雁塔・小雁塔などの史跡が多く、歴史学習をフックとした教育旅行の素材に恵まれた地だ。日本修学旅行協会の理事長の河上一雄氏もシンポジウムでの講演で「西安は古くから東西文化が融合する国際都市。ある意味で日本文化の源流ともなった地で、教育旅行の目的地としては最適な場所」と、教育旅行訪問地としての西安の優位性を語った。

 空港から市内までの所要時間は、車で1時間ほど。各観光地は市の中心から1時間程度の場所に集まっているため、アクセスは容易だ。受け入れ面も、西安には教育旅行に適した3ツ星クラス以上のホテルだけで30軒以上ある。ただ、空路は日本からの直行便がなく、「往復の移動時間はなるべく省きたい。直行便の利用が前提」という学校関係者の声も多く聞かれた。これに対し旅行会社は、チャーター便利用だけでなく、「移動にストレスを感じたくないという学校の要望を加味して検討する場合、北京など経由地となる都市との組み合わせで行程を組むことが現実的」と、周遊型のプランも構想する。


欠かせない学校交流、授業風景を見学

 今回の視察で、特に教育担当者が期待していたのが、近年の教育旅行で重要なポイントとなっている学校交流の視察だ。陝西省人民政府副省長の趙徳全氏は「128の大学、約100万人の学生がおり、中国の中でも教育環境が整っている」と、学校交流にも自信を示す。

 訪問したのは西安の市街地から1時間ほどにある西安高新第一中学の国際部。1995年に開校した西安でも屈指の設備を備えた進学校で、全体の教職員数は約450名、生徒数は約6000名の大規模校だ。アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本など多くの国の学校団体との交流を受け入れてきた実績を持つ。

 当日は同校校長と訪問団代表の挨拶に加え、学校プロモーションビデオの放映、校内見学を実施。訪問が午後の遅い時間であったため、実際の交流プログラムは視察できなかったものの、実際の体育の授業を見学した。同行した専修大学付属高等学校校長の鈴木高弘氏は「西安でも屈指の学校を訪問でき、感動している。本校でも中国からの留学生を受け入れていることもあり、中国文化を学ぶ機会をもつ必要性を感じているところ。修学旅行、ホームステイ、短期留学など今後の可能性を踏まえながら、西安、北京の学校との姉妹校締結も検討している」と語るなど、期待と手ごたえを感じた人が多い。

 特に、室蘭大谷高等学校校長の金澤孝祐氏は「中国は修学旅行目的地として魅力がある。個人的な機会を設けても、再度の訪中を考えている」というほど。そのほか、先生からは「街を歩き、現地の様子を肌で感じられる時間がほしかった」「交通の面で、渋滞やそこを横断する人々の様子をみると、生徒達の街歩きに不安を感じた」などの声もあったが、それは教育旅行先を真剣に検討しているからこそ、でてくる意見だろう。「国際理解と体験、交流の場」とともに、重要課題として「生徒の安全、旅行の利便性」を求める声が多く、これらを意識した提案が受け入れられていくものと思われる。また、日中韓のシンポジウムを通して学校関係者が交流することで、それぞれの国の周遊型はもちろん、3ヶ国から集まった学校交流を含めた教育旅行の実現も考えられるだろう。


日中韓教育旅行シンポジウムに3ヶ国の要人が出席

 シンポジウムでは、3ヶ国のさらなる青少年交流の促
進により、東アジア地域の安定と平和友好関係の実現に
向け、相互に尽力していくことを確認した。冒頭、中国
国家観光局副局長の杜江氏が「日中韓の緊密な連携は、
東アジアの安定平和に欠かせない。相互における観光面
の交流活性化、とりわけ次世代を担う青少年による交流
の充実が重要である」として、引き続きの努力が重要と
の認識を示した。


 日本からは国土交通省総合政策局国際観光課国際観光振興室長の飯島康弘氏が挨拶。
今年、観光庁が発足することを触れ「日本としても国レベルでさらなる交流の拡大に
努める」と意気込みを語った。また、財団法人日本修学旅行協会理事長の河上一雄氏
は「日本の海外修学旅行は9.11事件やSARSなどの影響で減少し、現在は回復基調にあ
るものの、アジア地域は弱含みで推移する傾向にある。しかし、今回のシンポジウム
を機に3ヶ国の行政・民間レベルの尽力で増加していくのでは」と、期待を述べた。
旅行業界からは日本旅行業協会の研修・試験部部長の岡野貢氏が「観光全体に占める
青少年交流、教育旅行の重要性が認識されており、業界としての継続的な取組みを推
進していく必要がある」と、日本の旅行業界がこの分野を重視している姿勢を強調した。


ポイント−上海浦東での入国と乗継

 今回の視察では中国東方航空便を利用、上海を経由し
て西安へ向かった。日本から上海に到着後、入国検査と
なる。利用便は成田を午前10時30分発のMU522便で、上
海到着は現地時間で午後12時台。この時間帯は韓国や香
港など、近隣からの到着便と重なり、状況によっては入
国審査に1時間から2時間程度、かかることもあるという。
入国時には出入国カードと税関申告書の提出が必要。ま
た、出国時の手荷物検査とボディチェックは比較的厳し
いので、注意を促したい。

 西安線への乗換えだが、徒歩で国内線ロビーに移動する。大きな空港のため、到着
までの距離が比較的長く、途中の経路が分かりにくい部分もあり、大勢の生徒を安心
して移動するためには、移動時の案内が必要だろう。また、バリアフリーも公共施設
として一定の条件を満たしている。ただ、安心・安全がテーマの修学旅行の場合、や
はり介助者があったほうが良いだろう。