取材ノート:「付加価値を高めるホンモノのサービス」とは−JATA経営フォーラム
日本旅行業協会(JATA)が2月26日に開催したJATA経営フォーラムの分科会F「付加価値を上げるホンモノのサービスとは?‐ホスピタリティ力・感動力が旅行業を救う‐」で、ホスピタリティを重視するサービス業の取組みから本物のサービス、また、何が付加価値か議論された。モデレーターはANAセールス取締役東京支店副支店長の伊豆芳人氏、コメンテーターは加賀屋女将の小田真弓氏、ザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー日本支社アソシエイト・セールス・ディレクターの伊崎留為子氏、東京ディズニーリゾート舞浜ビルメンテナンス代表取締役の君塚健氏、スターバックスコーヒージャパン東日本店舗営業本部南関東エリアマネージャーの巌真一宏氏。
▽加賀屋女将/小田真弓氏
創業102年を迎える加賀屋は、「絶対にNOと言わない」お客様第一主義を掲げた商売を続け、顧客と信頼関係を築いてきた。従業員教育の一環で、週に一度、クレームをまとめて発表し、月に一度クレーム大会を実施。クレームの最も多い従業員を明らかにしているという。クレーム報告だけでなく、従業員のケアが細部まで行き届いているかについて「現場や顧客の表情を見れば一目瞭然」と小川氏はいう。また、全従業員に対して「笑顔」でいることを重要視しており、ただ働くという場にするのではなく、笑顔のために休む時間を与えたり人間的な輝きを発するために「一人一芸」をめざし、各自が身に付けたいことを習ったり、勉強させるような各自の時間をとるように奨励している。従業員への配慮はこれだけに留まらず、能登地震の際、1ヶ月ほど館内修復に時間がかかるため、全従業員に休暇を与えた。ただし、給与は保障し、各自が他の旅館に宿泊して体験したり、地元住民と触れ合いながら温泉街の清掃を行うなど、厳しい状況の中でも有意義な時間を過ごしたという。小川氏はこれにより従業員との距離が縮まり、さらに協力し合い助け合う精神が強まったという。
▽ザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー日本支社アソシエイト・セールス・ディレクター/伊崎留為子氏
ザ・リッツ・カールトンは業界でも有名な「クレド」がある。これは、マニュアルではなく「守るべき信条」であり、従業員は常にこの信条を掲げながら仕事に臨んでいる。内容はニーズに応えること、安全な環境をつくることなど、12項目。これは従業員からの提案を取り入れたり、日々変わるサービス内容を反映したもの。顧客が期待していないニーズにもこたえる人間的なホスピタリティがクレドカードの精神であり、顧客満足度を高める要素だ。
ザ・リッツ・カールトンでは、従業員ひとり一人にエンパワメントという1日2000ドルの決済権が与えられている。ただし、実際には「感動体験はエンパワメントを使わず、顧客に対するホスピタリティが生み出すもの」と伊崎氏はいい、社内でもそうした精神が根づいている。そのホスピタリティを提供するためには、ただ仕事をこなすだけでなく、個人の日々の生活の中で感性を刺激することが大切だという。自然に感動を体験することで、顧客には本質的な感動を提供でき、従業員満足度(ES)が上がれば顧客満足(CS)も上がる。ザ・リッツ・カールトンはホテル業界で初めて、アメリカの経営品質賞「マルコムボルドリッジ国家品質賞」を1992年、1999年に受賞。今後は、ホテル・旅行業界を含むサービス産業ではなく、ホスピタリティ産業として発展していくと述べた。
▽東京ディズニーリゾート舞浜ビルメンテナンス代表取締役/君塚健氏
今年で25周年を迎える東京ディズニーランドを含め、東京ディズニーリゾート全体では、これまでの入場者数が4億4000万人を越え、その中でもリピーターは93%を占める。君塚氏は「リピーターが再び訪れるためには、スタンダードを維持しつづけること」とし、「基本や本質が曲がってしまっては意味がない」という。スタンダードを維持しながら従業員(キャスト)が成長し、サービスを継続していくことが重要な要素になる。同リゾートの目的は「不特定多数の人に内的幸福を与えること」で、純粋な想像力から生まれる幸福感を感性と理性でとらえ、自然界に存在する無垢なものや人とのコミュニケーションのことを指す。同リゾートではキャストに対し、「サービスとは何かを教育するのではなく、キャスト自身が抱く幸福感を大切にしている」ため、その環境から来場者に対して感動のストーリーが生まれるサイクルが形成されている。
▽スターバックスコーヒージャパン東日本店舗営業本部南関東エリアマネージャー/巌真一宏氏
全世界1万5000店舗、日本では750店舗を展開している同社に訪れる顧客は、スターバックスを「体験」するために訪れるリピーターとなる場合が多い。スターバックスならではの魅力を感じ訪れる、というのは旅行にも通じる。このため、チェーン店であっても、店舗毎にオリジナリティを持った展開をめざすという。コーヒーをただ提供するのではなく、コミュニティを作ることで感動を与えることができるとし、コーヒーの生産者、コミュニティの顧客、パートナーである従業員というビジネスの資源を提供する人たちへ責任を果たすことでモチベーションが向上し、継続して発展していくという。また、昨年は京都の14店舗において「京都まちなか観光案内所」を設置、旅人との触れ合いの場を提供し、旅行業とも繋がるコミュニティとつくりだした。同社では今後も地域や人とのコミュニケーションを重視し、巌真氏は「旅行においても地域と触れ合って一緒に感動体験を作り出せるようなプランがあれば発展できるのではないか」と語った。
▽観光立国設立に向けてホスピタリティある商品作りを
旅行業界では、収益性の低迷、将来への不透明感がただよう中、観光立国をめざして観光庁が設立される「ツーリズム時代」が到来し、価格志向がある一方で感動体験を求める消費者も増えている。旅行を心から楽しいと感じ、感動することで旅行需要の喚起に繋がるのであれば、旅行業をサービス業の一つとして位置付けることができる。他のサービス業と競争し、旅行需要喚起を行うためには、消費者のニーズに付加価値を付け、企画力のあるサービスを超えた感動体験を提供していくことが必要となる。伊豆氏は「付加価値そのものがホスピタリティの価値そのものとしてとらえるべき」と語った。
▽加賀屋女将/小田真弓氏
創業102年を迎える加賀屋は、「絶対にNOと言わない」お客様第一主義を掲げた商売を続け、顧客と信頼関係を築いてきた。従業員教育の一環で、週に一度、クレームをまとめて発表し、月に一度クレーム大会を実施。クレームの最も多い従業員を明らかにしているという。クレーム報告だけでなく、従業員のケアが細部まで行き届いているかについて「現場や顧客の表情を見れば一目瞭然」と小川氏はいう。また、全従業員に対して「笑顔」でいることを重要視しており、ただ働くという場にするのではなく、笑顔のために休む時間を与えたり人間的な輝きを発するために「一人一芸」をめざし、各自が身に付けたいことを習ったり、勉強させるような各自の時間をとるように奨励している。従業員への配慮はこれだけに留まらず、能登地震の際、1ヶ月ほど館内修復に時間がかかるため、全従業員に休暇を与えた。ただし、給与は保障し、各自が他の旅館に宿泊して体験したり、地元住民と触れ合いながら温泉街の清掃を行うなど、厳しい状況の中でも有意義な時間を過ごしたという。小川氏はこれにより従業員との距離が縮まり、さらに協力し合い助け合う精神が強まったという。
▽ザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー日本支社アソシエイト・セールス・ディレクター/伊崎留為子氏
ザ・リッツ・カールトンは業界でも有名な「クレド」がある。これは、マニュアルではなく「守るべき信条」であり、従業員は常にこの信条を掲げながら仕事に臨んでいる。内容はニーズに応えること、安全な環境をつくることなど、12項目。これは従業員からの提案を取り入れたり、日々変わるサービス内容を反映したもの。顧客が期待していないニーズにもこたえる人間的なホスピタリティがクレドカードの精神であり、顧客満足度を高める要素だ。
ザ・リッツ・カールトンでは、従業員ひとり一人にエンパワメントという1日2000ドルの決済権が与えられている。ただし、実際には「感動体験はエンパワメントを使わず、顧客に対するホスピタリティが生み出すもの」と伊崎氏はいい、社内でもそうした精神が根づいている。そのホスピタリティを提供するためには、ただ仕事をこなすだけでなく、個人の日々の生活の中で感性を刺激することが大切だという。自然に感動を体験することで、顧客には本質的な感動を提供でき、従業員満足度(ES)が上がれば顧客満足(CS)も上がる。ザ・リッツ・カールトンはホテル業界で初めて、アメリカの経営品質賞「マルコムボルドリッジ国家品質賞」を1992年、1999年に受賞。今後は、ホテル・旅行業界を含むサービス産業ではなく、ホスピタリティ産業として発展していくと述べた。
▽東京ディズニーリゾート舞浜ビルメンテナンス代表取締役/君塚健氏
今年で25周年を迎える東京ディズニーランドを含め、東京ディズニーリゾート全体では、これまでの入場者数が4億4000万人を越え、その中でもリピーターは93%を占める。君塚氏は「リピーターが再び訪れるためには、スタンダードを維持しつづけること」とし、「基本や本質が曲がってしまっては意味がない」という。スタンダードを維持しながら従業員(キャスト)が成長し、サービスを継続していくことが重要な要素になる。同リゾートの目的は「不特定多数の人に内的幸福を与えること」で、純粋な想像力から生まれる幸福感を感性と理性でとらえ、自然界に存在する無垢なものや人とのコミュニケーションのことを指す。同リゾートではキャストに対し、「サービスとは何かを教育するのではなく、キャスト自身が抱く幸福感を大切にしている」ため、その環境から来場者に対して感動のストーリーが生まれるサイクルが形成されている。
▽スターバックスコーヒージャパン東日本店舗営業本部南関東エリアマネージャー/巌真一宏氏
全世界1万5000店舗、日本では750店舗を展開している同社に訪れる顧客は、スターバックスを「体験」するために訪れるリピーターとなる場合が多い。スターバックスならではの魅力を感じ訪れる、というのは旅行にも通じる。このため、チェーン店であっても、店舗毎にオリジナリティを持った展開をめざすという。コーヒーをただ提供するのではなく、コミュニティを作ることで感動を与えることができるとし、コーヒーの生産者、コミュニティの顧客、パートナーである従業員というビジネスの資源を提供する人たちへ責任を果たすことでモチベーションが向上し、継続して発展していくという。また、昨年は京都の14店舗において「京都まちなか観光案内所」を設置、旅人との触れ合いの場を提供し、旅行業とも繋がるコミュニティとつくりだした。同社では今後も地域や人とのコミュニケーションを重視し、巌真氏は「旅行においても地域と触れ合って一緒に感動体験を作り出せるようなプランがあれば発展できるのではないか」と語った。
▽観光立国設立に向けてホスピタリティある商品作りを
旅行業界では、収益性の低迷、将来への不透明感がただよう中、観光立国をめざして観光庁が設立される「ツーリズム時代」が到来し、価格志向がある一方で感動体験を求める消費者も増えている。旅行を心から楽しいと感じ、感動することで旅行需要の喚起に繋がるのであれば、旅行業をサービス業の一つとして位置付けることができる。他のサービス業と競争し、旅行需要喚起を行うためには、消費者のニーズに付加価値を付け、企画力のあるサービスを超えた感動体験を提供していくことが必要となる。伊豆氏は「付加価値そのものがホスピタリティの価値そのものとしてとらえるべき」と語った。