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  • 2008年1月15日
マウナ・ケアの「スターゲイジング・ツアー」
〜天上の世界を染める落日と満天の星〜


ハワイ島・コナの空港に降り立つとすぐ、目の前にそびえる壮麗な山々に圧倒される。標高4205メートルのマウナ・ケアをはじめ、マウナ・ロア、キラウエア、コハラ、ファラライと5つの山がそびえ、「威風堂々」という言葉では例えきれないほどの大きさに、一瞬にして心をギュッと捉まれてしまった。特に、マウナ・ケアは海面下まで含めれば、裾野が幅約40キロメートル、長さ82キロメートルを超える世界一「大きな」山。このマウナ・ケアで人気のアクティビティ「スターゲイジング・ツアー」に参加してみると、一見の感動以上の感情が、雄大な山の頂きでこみ上がった。
(現地取材:宮田麻未 写真:神尾明朗)



周囲が息を呑んだ一瞬

当初のツアー予定日の朝、気温がグッと下がって雨になった。常夏のイメージの強いハワイで不思議かもしれないが、山頂では雪になり、道路事情のためツアーがキャンセルとなった。マウナ・ケアとはハワイ語で「白い山」との意味で、冬季には白銀の世界になることもあるという。人気のツアーだけに、1度キャンセルとなると次の予約を取るのは簡単ではないとのことだが、運良く翌日に参加できることになったという背景があり、道中は「山頂は晴れているのだろうか」との期待と不安が交錯する。

標高2804メートル地点にあるビジター・インフォメーション・ステーション、通称「オニヅカ・センター」で、夕食を取りながら高地に体を慣らす。ここからさらに未舗装の道を登っていく。かつてこの山が氷河に覆われていたことを示す氷原跡、雲のかなたに頭を除かせるマウナ・ロア、赤茶けた古い噴火口など、次々と驚くような光景が広がり、車の激しい揺れも気にならない。30分もすると頂上付近に到着。ツアー会社が用意してくれた厚手のパーカーを着て天文台の横に立つと、確かに外は空気が薄く、少し動くだけで体が酸素を求めるように呼吸が速くなる。

すると、空が少し赤みを増してきた。太陽が急に赤く燃え出したように見えると、今までおしゃべりしていた人々がふっと口をつぐむ。あちこちから聞こえていたカメラのシャッター音も一瞬止まった。目前の雲海に沈む太陽の壮麗さに、心打たれたからだろうか。はしゃいだ声が聞こえ始めたのは、太陽が完全に雲に飲み込まれ、空がピンク色に染まってから。日が落ちたら、天文学者の観測を邪魔しないように、速やかに下山するのが約束らしいが、できればもう少し、オレンジ色に染まった空を眺めていたかった。

さて、いよいよスターゲイジングの時間。山の中腹まで降りて天体望遠鏡をセットする。周辺は見事なまでの漆黒の闇。目が慣れてくると、空に輝く星が一つ、また一つと、ビロードの上にダイヤモンドを撒き散らしたようにきらめく瞬きがはっきり見える。天体望遠鏡で星雲を見るのも良かったが、頭上にくっきりと「河」になって流れる銀河を肉眼で見ることができたのが忘れられない。手を伸ばせば、きらきらと輝く流れに指が触れそうな気がするほど空が近く感じられた。


ポイント1:マウナ・ケアならではの体験

夕陽と満天の星空を楽しむツアーは、マウナ・ケアに限ったものではない。ただ、このツアーを「マウナ・ケアならでは」のものにしてくれるのが、マウナ・ケアが世界でも最も天体観測の条件が整い、日本のスバル天文台を含む世界中の天体観測所のメッカである地理的優位性に加え、山自体がもつ神秘的な雰囲気だ。

もともとマウナ・ケアはハワイの人々にとって最も聖なる山。神の子として生み出された山はハワイ人の祖先と信じられており、入山の際は祖先を敬うのと同じ礼をつくすのだという。こうした言い伝えを聞いたことのない人でも頂上に近づくにつれ、畏敬の気持ちが沸いてくるだろう。道中は太古から続いてきた火山活動を想像させる溶岩原が続き、時折、岩の間に高山植物が咲いている姿に生命の不思議を感じさせる。

例えば、「オニヅカ・センター」でも、そうした面に触れられる。この裏手にある銀剣草とクアフ・レレ(祭壇)は見逃せないポイントだ。銀剣草(シルバー・ソード)は標高2000メートル以上に生息するハワイ固有の高山植物で、生育に50年以上の長い月日がかかる。そして一度だけ花を咲かせて枯れてしまう。火星のような荒涼とした大地に美しい銀色の葉が輝くようすは、神々からのメッセージのようだ。花を咲かせている株にいくつ出会えた幸運を嬉しく思うと同時に、生命の哀れさにも心を打たれた。一方、レレはハワイの人々が山に祈りを捧げる祭壇。伝説を信じるか、信じないかは人それぞれだが、レレの周辺には確かに心をゆさぶるパワーがある。自然に祭壇に向かって、祈る気持ち
にもなるのだ。


ポイント2:ツアーの注意と期待

ツアーはホテルからの送迎を含め、約9時間の長時間におよぶ。ホテルに戻ったときは午後11時近くになっていた。星の観察は頂上から下がった地点で行われるが、それでも3000メートルを超える高地に4時間以上いることになるので、高山病を避けるためにも前日にはしっかり睡眠をとって体調を整えておきたい。特にシニア層には高血圧、糖尿病、心臓や腰痛などの持病がないかどうか、水分の摂取は十分かなど、細かい配慮が必要だ。

また、「オニヅカ・センター」では、どの会社のツアーもほぼ同じ時間に集まってくるので、落ち着いて食事できる場所が少ない。また、一番の問題はトイレ。山頂にも簡易トイレはあるが、ここでトイレをすませておくようにガイドから言われるので、長蛇の列となる。他の場所の選択がないとはいえ、食事やトイレ事情の乗り切り方にも良いアイディアが求められるところだろう。

マウナ・ケアでの「スターゲイジング・ツアー」は現在、5社以上のツアー会社が催行。サービスの内容はほとんど同じだが、山頂への道が悪路なので、四駆車の性能やドライバーの腕などが満足度を左右するポイントになるだろう。そしてこれは個人的な意見だが、ガイドも重要だ。ガイドが最も恐れているのは高山病で、頂上付近では酸素の量は40%薄く、気圧も40%低くなる。居眠りをすると危険度が増すのだという。そのためか、各社のガイドは「ノリの良い」話術を繰り出してくる。

もちろん、ガイディングを心から楽しむ人も若者を中心に多く満足している人もいるが、ツアーの振舞い方などに変化をつけるのも、差別化の1つとなるのではないだろうか。「パワースポット」としてのマウナ・ケアに興味のある人、ロマンチックな雰囲気を望む人、知的好奇心を満足させたい人など、同じ素材でもガイドのまとめ方しだいで満足度は大きく違ってくるだろう。ほんの短時間でも歩いてみるとか、山すそ周辺にある噴火の跡の見学をルートに入れるなどの工夫の余地もあるように思える。素晴らしい素材を活かす今後の可能性に期待したい。