新春トップインタビュー:ジェイティービー代表取締役社長 佐々木隆氏
リスクを取って魅力ある商品造成を
将来の礎を築く2008年に
分社化に加え、昨年は韓国でのロッテグループとの提携、中国での統括会社の設立、ヨーロッパでのツムラーレの買収など、積極的なグローバル化も展開中だ。ジェイティービー(JTB)はこれから何をめざすのか。分社化を決断、新たなM&Aを手がける代表取締役社長の佐々木隆氏に方策を聞いた。(聞き手:編集長 鈴木次郎、構成 松本裕一)
−昨年の海外旅行市場は弱含みで推移しましたが、JTBグループの売上総利益は前年実績を上回りました。この要因をお聞かせください
佐々木隆氏(以下、敬称略 佐々木) 2007年の海外旅行は、燃油サーチャージの影響で団体がかなり減ったが、厳しい環境の中でプラス成長を維持できたのは、社員に感謝するところ。要因はやはり分社化による好影響だ。特に、モチベーションの向上が大きい。これは、初めて会社の業績と自分の働きとの連関性が、賃金の変化という形で明確に目に見えたこと、各社の社長に営業現場のたたき上げが就任し、現場から見た経営陣との距離が縮まったことの2点による。
−分社化の成果や新たに浮き出た課題を伺えますか
佐々木 分社化は営業面からみて成功で、特に店頭販売と比べセールスが好調。懸念材料は、地域間格差の拡大だろう。九州で航空路線の撤退など、環境が厳しい地域がある。しかし、各社とも自立心が強く、本社側に助けを求めてくることはない。事業会社の労使が生き残り策を模索するなかで、本社が水を差さないようにしている。
厳しいとは言え、各社が独自に取り組んでいることも多い。九州ではチャーター便、クルーズ貸切などに取り組んでいる。リスクは大きいが、結局のところ旅行会社は、あえてリスクを負わなければ魅力ある商品を提供することができない。本社が求められる機能は、各事業会社のリスクが最小限となるようなコンサルティングをすることだ。
―業界で勢いがある会社が絞られている、との声を聞きますが、どうお考えですか
佐々木 今後5年ほどの間、もう1度乗り越えなければならない壁が出現するのではないか。壁とは、「システム投資」と「リスクを取った商品戦略」の2点だ。
システム投資には莫大な資金が必要で、JTBでは年間250億円ほど費やしている。個人の趣向が多様化している現状に対応するには、オンラインで効率よく、かつ正確に処理する顧客一人ひとりのデータベースを構築、維持するために費用がかかる。システム投資を諦めることは、ホールセールを諦めることだと思うほど、重視している。
2点目は、魅力ある商品を提供するために、相当額の資金が必要になる。例えば客室を押さえるために、何百億円という金を用意せねばならず、リスクは格段に大きくなる。負荷は1000億円単位かも知れない。それに耐えられなければ2社に絞られることもあり得る。
−今後、ゼロ・コミッションなどの大きな変化が予想されます。今後の方針をお聞かせください
佐々木 私の役割は、「バランス」をとること。各事業会社が一定のバランスの中で経営できているかを確認し、できていなければ目標数値を調節して均衡を整える。
もし、燃油サーチャージが今以上に高騰し、以前のように限られた人しか海外旅行に行けなくなったら、あるいはコミッションの問題が、9.11やSARSのような衝撃を持つようになったら、どう耐えるか。我々は規模を縮小し、かつリスクを取って魅力的な商品を提供する分野に優秀な人材を集中していくだろう。
とはいえ、マーケットには明るい話題もある。2007年のヨーロッパの伸びが約6%を確保したことは、ユーロ高や燃油サーチャージ額の水準から考えると、団塊世代が動き出したとしか思えない。これは今後、3年から4年続くと期待している。
また、団体も海外が減少したが国内は売れており、需要は底堅い。燃油サーチャージも、日本航空(JL)と全日空(NH)で対応が分かれ、消費者の動きは流動性が増していくだろう。
厳しい環境に見えるかもしれないが、総じて緩やかな追い風とみている。消費者の海外旅行を規定するのは、旅行会社が投入する商品なのだという意識を再認識し、旅行会社として打ち出す新商品で、海外旅行の魅力を示していけば、結果はついてくる。
−団塊の世代は、10年もすればマーケットが小さくなってしまうのではないでしょうか
佐々木 そのためのグローバル化で、世界市場でグループの利益を残したい。例えば中国でも、持株会社に収益を集めて再投資をし、予定通りであれば今年中にも許可されだろう中国人向けの旅行商品の販売をしたい。いつかルックJTBのような商品を販売するのが夢だ。もちろん、韓国も同様で、良質な旅行商品を届けたい。
ヨーロッパではホールセールができる段階ではなく、オペレーターとしての実力を付けることが最重要の課題だ。現地で旅行販売はするが、あくまでリテールのみ。「海外のマーケットで、現地の人をスタッフに抱え、現地の人向けに商品を売る」技術を学んでいる段階にある。すでに日本から現地に行った社員の2名が才覚を見せてきているが、いつか彼らが旅行業の経営に関する経験を積み、10年後くらいにリテール業だけでは満足できない、ホールセールも展開したいとなれば可能性はある。
−2010年の羽田空港と成田空港の拡張など、大きな変化が予想されます。JTBの中期計画の予定を伺えますか
佐々木 現在の中期計画は2009年3月までで、次の中期計画は今年の6月までに策定する予定。この狙いは就任時にも語ったとおり、100億円投資して200億円の経常利益を生むような安定的な体質の確立だ。「安定的」というのは、「絶対に数値を割らない」ということ。例えば5年間連続で、よほどのことがない限り数値を達成できる、という体質だ。新中期計画の年度となる2011年までに確立できることをめざしたい。
そのためには取扱人数、額などのシェア拡大が必須の条件だ。マーケットを細分化していくと、依然として他社に及ばない部分も多い。まだJTBは伸びきっていない。
−特に業界で2000万人の目標もあるなかで、マーケット自体の拡大についてはいかが考えていますか
佐々木 正直なところ、マーケット拡大は日本旅行業協会(JATA)の仕事だと考えている。JTBは一企業であり、マーケットシェアの拡大が最重要だ。
JATA海外旅行委員会委員長の立場から2000万人は、達成できると楽観的な考えだ。ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)との関係で言えば、「来てもらうために出る」という雰囲気ができるといい。VJCは「富が入ってくるようなイメージ」で価値観が受け入れられたが、ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)は初めての試みで、経済的ではなく精神的なイメージのため効果は読めない。しかし、成功すれば業界全体としても自信に繋がるだろう。私は2000万人の達成を悲観していない。
−ありがとうございました
将来の礎を築く2008年に
分社化に加え、昨年は韓国でのロッテグループとの提携、中国での統括会社の設立、ヨーロッパでのツムラーレの買収など、積極的なグローバル化も展開中だ。ジェイティービー(JTB)はこれから何をめざすのか。分社化を決断、新たなM&Aを手がける代表取締役社長の佐々木隆氏に方策を聞いた。(聞き手:編集長 鈴木次郎、構成 松本裕一)
−昨年の海外旅行市場は弱含みで推移しましたが、JTBグループの売上総利益は前年実績を上回りました。この要因をお聞かせください
佐々木隆氏(以下、敬称略 佐々木) 2007年の海外旅行は、燃油サーチャージの影響で団体がかなり減ったが、厳しい環境の中でプラス成長を維持できたのは、社員に感謝するところ。要因はやはり分社化による好影響だ。特に、モチベーションの向上が大きい。これは、初めて会社の業績と自分の働きとの連関性が、賃金の変化という形で明確に目に見えたこと、各社の社長に営業現場のたたき上げが就任し、現場から見た経営陣との距離が縮まったことの2点による。
−分社化の成果や新たに浮き出た課題を伺えますか
佐々木 分社化は営業面からみて成功で、特に店頭販売と比べセールスが好調。懸念材料は、地域間格差の拡大だろう。九州で航空路線の撤退など、環境が厳しい地域がある。しかし、各社とも自立心が強く、本社側に助けを求めてくることはない。事業会社の労使が生き残り策を模索するなかで、本社が水を差さないようにしている。
厳しいとは言え、各社が独自に取り組んでいることも多い。九州ではチャーター便、クルーズ貸切などに取り組んでいる。リスクは大きいが、結局のところ旅行会社は、あえてリスクを負わなければ魅力ある商品を提供することができない。本社が求められる機能は、各事業会社のリスクが最小限となるようなコンサルティングをすることだ。
―業界で勢いがある会社が絞られている、との声を聞きますが、どうお考えですか
佐々木 今後5年ほどの間、もう1度乗り越えなければならない壁が出現するのではないか。壁とは、「システム投資」と「リスクを取った商品戦略」の2点だ。
システム投資には莫大な資金が必要で、JTBでは年間250億円ほど費やしている。個人の趣向が多様化している現状に対応するには、オンラインで効率よく、かつ正確に処理する顧客一人ひとりのデータベースを構築、維持するために費用がかかる。システム投資を諦めることは、ホールセールを諦めることだと思うほど、重視している。
2点目は、魅力ある商品を提供するために、相当額の資金が必要になる。例えば客室を押さえるために、何百億円という金を用意せねばならず、リスクは格段に大きくなる。負荷は1000億円単位かも知れない。それに耐えられなければ2社に絞られることもあり得る。
−今後、ゼロ・コミッションなどの大きな変化が予想されます。今後の方針をお聞かせください
佐々木 私の役割は、「バランス」をとること。各事業会社が一定のバランスの中で経営できているかを確認し、できていなければ目標数値を調節して均衡を整える。
もし、燃油サーチャージが今以上に高騰し、以前のように限られた人しか海外旅行に行けなくなったら、あるいはコミッションの問題が、9.11やSARSのような衝撃を持つようになったら、どう耐えるか。我々は規模を縮小し、かつリスクを取って魅力的な商品を提供する分野に優秀な人材を集中していくだろう。
とはいえ、マーケットには明るい話題もある。2007年のヨーロッパの伸びが約6%を確保したことは、ユーロ高や燃油サーチャージ額の水準から考えると、団塊世代が動き出したとしか思えない。これは今後、3年から4年続くと期待している。
また、団体も海外が減少したが国内は売れており、需要は底堅い。燃油サーチャージも、日本航空(JL)と全日空(NH)で対応が分かれ、消費者の動きは流動性が増していくだろう。
厳しい環境に見えるかもしれないが、総じて緩やかな追い風とみている。消費者の海外旅行を規定するのは、旅行会社が投入する商品なのだという意識を再認識し、旅行会社として打ち出す新商品で、海外旅行の魅力を示していけば、結果はついてくる。
−団塊の世代は、10年もすればマーケットが小さくなってしまうのではないでしょうか
佐々木 そのためのグローバル化で、世界市場でグループの利益を残したい。例えば中国でも、持株会社に収益を集めて再投資をし、予定通りであれば今年中にも許可されだろう中国人向けの旅行商品の販売をしたい。いつかルックJTBのような商品を販売するのが夢だ。もちろん、韓国も同様で、良質な旅行商品を届けたい。
ヨーロッパではホールセールができる段階ではなく、オペレーターとしての実力を付けることが最重要の課題だ。現地で旅行販売はするが、あくまでリテールのみ。「海外のマーケットで、現地の人をスタッフに抱え、現地の人向けに商品を売る」技術を学んでいる段階にある。すでに日本から現地に行った社員の2名が才覚を見せてきているが、いつか彼らが旅行業の経営に関する経験を積み、10年後くらいにリテール業だけでは満足できない、ホールセールも展開したいとなれば可能性はある。
−2010年の羽田空港と成田空港の拡張など、大きな変化が予想されます。JTBの中期計画の予定を伺えますか
佐々木 現在の中期計画は2009年3月までで、次の中期計画は今年の6月までに策定する予定。この狙いは就任時にも語ったとおり、100億円投資して200億円の経常利益を生むような安定的な体質の確立だ。「安定的」というのは、「絶対に数値を割らない」ということ。例えば5年間連続で、よほどのことがない限り数値を達成できる、という体質だ。新中期計画の年度となる2011年までに確立できることをめざしたい。
そのためには取扱人数、額などのシェア拡大が必須の条件だ。マーケットを細分化していくと、依然として他社に及ばない部分も多い。まだJTBは伸びきっていない。
−特に業界で2000万人の目標もあるなかで、マーケット自体の拡大についてはいかが考えていますか
佐々木 正直なところ、マーケット拡大は日本旅行業協会(JATA)の仕事だと考えている。JTBは一企業であり、マーケットシェアの拡大が最重要だ。
JATA海外旅行委員会委員長の立場から2000万人は、達成できると楽観的な考えだ。ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)との関係で言えば、「来てもらうために出る」という雰囲気ができるといい。VJCは「富が入ってくるようなイメージ」で価値観が受け入れられたが、ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)は初めての試みで、経済的ではなく精神的なイメージのため効果は読めない。しかし、成功すれば業界全体としても自信に繋がるだろう。私は2000万人の達成を悲観していない。
−ありがとうございました