トップインタビュー:中国国家観光局首席代表 范氏
「旅行品質の向上を共通の目標に」
−将来見据え、利益生む環境整備を
日中間は国交正常化35周年を迎える記念の年で、日本から中国へ約2万人規模、中国から日本へ約1万人の訪問団で交流を盛り上げている。今後の日本の海外旅行市場の拡大を語る上で、大切なパートナー国のひとつである中国側が日本からの受入れをどのように考えているか。8月に中国国家観光局(東京)の首席代表に就任した范巨レイ氏に、現地の意見も含め、現在の動向と将来に向けた展望を聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
※レイはヨ(けいがしら)の下に火
−中国への日本人訪問者数の推移がやや停滞している。今後、どのような推移を見通しているか
范巨レイ氏(以下、范) 日本人の中国への訪問者数は、2004年まで国別は第1位であった。韓国が2005年に第1位となったが、この要因は韓国と中国の一部地域が航空自由化を実現したことが後押ししたほか、韓国での中国行き旅行商品の多様化が増加につながったという動きだ。今年も現在のところ韓国が第1位で、日本は第2位だが、訪問者数は増加しており、堅調な推移といえる。
今後の目標は、とにかく前年より多い訪問者を誘致することだ。期待として、今後は約400万人の訪問者数にまで伸びると考えて良いのではないだろうか。具体的な数値は読めない部分もあるが、旅行業界には送り手、受け手の双方が利を得られるよう「がんばろう」と呼びかけていきたい。
−今年は日中国交正常化35周年で交流が活発になった感があるが、その所感と今後のイベント活用に向けた抱負は
范 35周年は、交流拡大の大きなチャンスとして日中の関係当局、旅行業界がイベントを企画した。30周年の時は東京、北京とそれぞれの大都市1ヶ所でイベントを実施したが、今年は双方の人的交流をさらに活発化するため、中国側では北京以外の都市も巻き込んだ一大イベントとなった。先ごろ就航した羽田/上海間の定期チャーター便もビジネス旅客の輸送に期待が高いものの、観光目的の利用でも増加が期待できるものだ。
今後は間近に、中国の国家的な一大行事として北京オリンピックが控えている。オリンピックでは、開催前、開催中、開催後の3段階に分けた観光PR戦略を考えている。オリンピック期間中は、競技観戦チケットは国際オリンピック委員会(IOC)が管轄しており、日本側の要望に応じて割当分以上に増加させることは出来ない。そうすると、オリンピック前、さらに期間中には北京から発信される情報にメディア露出による北京、あるいは中国への関心の高まりにつながるのではないか。オリンピック後には、開催時の雰囲気が残る競技施設が観光スポットに加えられるほか、北京周辺の世界遺産などとあわせ、訪れていただきたい。その後は上海万博へと展開していく必要があり、うまく次のステップにつなげていきたいと思っている。
−今後のデスティネーション開発の方針と、日本市場への期待をお教えください
范 中国は広大な国土があり、同様に観光素材も豊富にある。日本で人気の旅行パターンであれば、例えば1週間で代表的な地を巡る場合でも、何度も訪れていただかなければ、全てを見尽くすことが出来ない。中国は「過去、現在、未来が同時進行している」といわれているが、観光資源にも同様のことが言える。例えば、青海チベット鉄道は開発前には訪れにくい地の一つであったが、今は大いに関心を集め、交通アクセスも改善した。課題は列車の便数が少ないことだが、予約ができないなどの場合には、ぜひ次回の中国への旅行への意欲につなげていただきたい。こうした一連の動きによって、現地でも急激に多くの人を受け入れることによる過度な負担を避けることができ、持続的に、より多くの人々に楽しんでいただける観光地となる。
持続的という視点からは、中国への旅行で訪れた方が楽しんでいただける、そして満足してもらえる旅を提供し続けたい。こうした方向性において、JATA国際会議でも議論されたが、日本側の一部に見られる「送客する=偉い」という考えから、送客と受け入れが対等のビジネスをすることで、顧客満足度が高められるのではないだろうか。
−旅行品質の向上という共通の目標を掲げようということですね
范 訪問者数が伸びるだけでなく、質の高い旅行を楽しんでもらえるような環境になっていくと良い。個人的には、旅行市場の価格設定は旅行内容と旅行者が求める価格に大きなギャップがあると思う。お金、時間とゆとりのある人に対して、相応の商品が設定されていることも認識しているが、市場全体の環境としてみれば、低い価格帯に引きずられた競争をしている感がある。廉価な商品を否定するわけではないが、日本市場での競争だけでなく、中国のサプライヤーを含む旅行業界全体がそれぞれの取引や影響に責任を持つことで、より良い環境になっていくだろう。
−こうした方向性の中で、日本の独資法人が担う役割は何か
范 日本の独資法人の中国進出は、世界各国と比較すれば多い。この理由は、日本の旅行業界はいろいろな観点から先を進んでおり、日本の旅行会社の管理ノウハウを中国に紹介していきたいからだ。2005年から独資法人が認可を受けているが、この中でもジャルパックの活動について紹介したい。例えば、ガイド教育、研修制度など特筆すべき点が多いが、特に良い点はツアーに参加した旅行者を対象に実施したアンケートをもとに、評価の高い企業、人物を表彰する制度があることだ。これは、現地にもプラスの効果を生み、これを支えにさらに努力する人も多い。これからは、こうした両国の旅行業界が支えあう体制になっていく期待をしたい。
−ありがとうございました。
−将来見据え、利益生む環境整備を
日中間は国交正常化35周年を迎える記念の年で、日本から中国へ約2万人規模、中国から日本へ約1万人の訪問団で交流を盛り上げている。今後の日本の海外旅行市場の拡大を語る上で、大切なパートナー国のひとつである中国側が日本からの受入れをどのように考えているか。8月に中国国家観光局(東京)の首席代表に就任した范巨レイ氏に、現地の意見も含め、現在の動向と将来に向けた展望を聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
※レイはヨ(けいがしら)の下に火
−中国への日本人訪問者数の推移がやや停滞している。今後、どのような推移を見通しているか
范巨レイ氏(以下、范) 日本人の中国への訪問者数は、2004年まで国別は第1位であった。韓国が2005年に第1位となったが、この要因は韓国と中国の一部地域が航空自由化を実現したことが後押ししたほか、韓国での中国行き旅行商品の多様化が増加につながったという動きだ。今年も現在のところ韓国が第1位で、日本は第2位だが、訪問者数は増加しており、堅調な推移といえる。
今後の目標は、とにかく前年より多い訪問者を誘致することだ。期待として、今後は約400万人の訪問者数にまで伸びると考えて良いのではないだろうか。具体的な数値は読めない部分もあるが、旅行業界には送り手、受け手の双方が利を得られるよう「がんばろう」と呼びかけていきたい。
−今年は日中国交正常化35周年で交流が活発になった感があるが、その所感と今後のイベント活用に向けた抱負は
范 35周年は、交流拡大の大きなチャンスとして日中の関係当局、旅行業界がイベントを企画した。30周年の時は東京、北京とそれぞれの大都市1ヶ所でイベントを実施したが、今年は双方の人的交流をさらに活発化するため、中国側では北京以外の都市も巻き込んだ一大イベントとなった。先ごろ就航した羽田/上海間の定期チャーター便もビジネス旅客の輸送に期待が高いものの、観光目的の利用でも増加が期待できるものだ。
今後は間近に、中国の国家的な一大行事として北京オリンピックが控えている。オリンピックでは、開催前、開催中、開催後の3段階に分けた観光PR戦略を考えている。オリンピック期間中は、競技観戦チケットは国際オリンピック委員会(IOC)が管轄しており、日本側の要望に応じて割当分以上に増加させることは出来ない。そうすると、オリンピック前、さらに期間中には北京から発信される情報にメディア露出による北京、あるいは中国への関心の高まりにつながるのではないか。オリンピック後には、開催時の雰囲気が残る競技施設が観光スポットに加えられるほか、北京周辺の世界遺産などとあわせ、訪れていただきたい。その後は上海万博へと展開していく必要があり、うまく次のステップにつなげていきたいと思っている。
−今後のデスティネーション開発の方針と、日本市場への期待をお教えください
范 中国は広大な国土があり、同様に観光素材も豊富にある。日本で人気の旅行パターンであれば、例えば1週間で代表的な地を巡る場合でも、何度も訪れていただかなければ、全てを見尽くすことが出来ない。中国は「過去、現在、未来が同時進行している」といわれているが、観光資源にも同様のことが言える。例えば、青海チベット鉄道は開発前には訪れにくい地の一つであったが、今は大いに関心を集め、交通アクセスも改善した。課題は列車の便数が少ないことだが、予約ができないなどの場合には、ぜひ次回の中国への旅行への意欲につなげていただきたい。こうした一連の動きによって、現地でも急激に多くの人を受け入れることによる過度な負担を避けることができ、持続的に、より多くの人々に楽しんでいただける観光地となる。
持続的という視点からは、中国への旅行で訪れた方が楽しんでいただける、そして満足してもらえる旅を提供し続けたい。こうした方向性において、JATA国際会議でも議論されたが、日本側の一部に見られる「送客する=偉い」という考えから、送客と受け入れが対等のビジネスをすることで、顧客満足度が高められるのではないだろうか。
−旅行品質の向上という共通の目標を掲げようということですね
范 訪問者数が伸びるだけでなく、質の高い旅行を楽しんでもらえるような環境になっていくと良い。個人的には、旅行市場の価格設定は旅行内容と旅行者が求める価格に大きなギャップがあると思う。お金、時間とゆとりのある人に対して、相応の商品が設定されていることも認識しているが、市場全体の環境としてみれば、低い価格帯に引きずられた競争をしている感がある。廉価な商品を否定するわけではないが、日本市場での競争だけでなく、中国のサプライヤーを含む旅行業界全体がそれぞれの取引や影響に責任を持つことで、より良い環境になっていくだろう。
−こうした方向性の中で、日本の独資法人が担う役割は何か
范 日本の独資法人の中国進出は、世界各国と比較すれば多い。この理由は、日本の旅行業界はいろいろな観点から先を進んでおり、日本の旅行会社の管理ノウハウを中国に紹介していきたいからだ。2005年から独資法人が認可を受けているが、この中でもジャルパックの活動について紹介したい。例えば、ガイド教育、研修制度など特筆すべき点が多いが、特に良い点はツアーに参加した旅行者を対象に実施したアンケートをもとに、評価の高い企業、人物を表彰する制度があることだ。これは、現地にもプラスの効果を生み、これを支えにさらに努力する人も多い。これからは、こうした両国の旅行業界が支えあう体制になっていく期待をしたい。
−ありがとうございました。