欧米豪の訪日客、10年で約3倍 家族旅行も増加、JNTOがウェルネスと高付加価値旅行を強化
JNTO出口まきゆ理事
日本政府観光局(JNTO)は2026年7月22日のメディアブリーフィングで、欧米豪市場からの訪日客が2015年から2025年の10年間で約3倍に増え、家族旅行や地方滞在も拡大しているとの分析を示した。米国市場では、地域文化や自然を通じて心身を整える「日本ならではのウェルネス」を訴求するとともに、欧米豪の高付加価値旅行会社を招く「Japan Luxury Showcase 2026」を通じて地方商品の造成と商談を促進している。
2026年上半期の訪日外客数は前年同期比2.0%減の2108万4800人となった。月毎では春節やイースターの時期のずれ、一部市場での航空便減便などが影響した一方、6月は15市場で同月として過去最高を更新した。欧州5市場と米州・豪州などの長距離市場は、2026年に入っても多くの月で前年同月を上回っている。4~6月期の訪日旅行消費額は0.2%増の2兆5096億円で、国・地域別では米国が首位となった。
米国、カナダ、豪州、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペインの8市場からの訪日客数は、2015年の245万人から2025年には703万人へと約3倍に拡大した。訪日市場全体に占める割合も12.4%から16.5%へ上昇しており、東アジアに偏っていた市場構成の多様化が進んでいる。2024年度の調査では、欧米豪の6カ国で日本が「今後行きたい国」の1位となり、前年調査と比べて7カ国で順位が上昇した。
客層にも変化が表れている。2015年と2025年を比較すると、欧米豪8市場で「自分ひとり」の旅行者は3.7ポイント減少した一方、「家族・親族」との旅行は2.6ポイント増加した。訪日客全体が2.9倍となるなか、0~9歳は3.2倍、10~19歳は4.0倍に伸びており、子どもを伴う旅行先として日本が選ばれる傾向が強まった。JNTO出口まきゆ理事は、背景について「未知な目的地から旅行先として認知が高まってきた」と述べ、日本文化やコンテンツへの理解、継続的なプロモーションなど複数の要因を挙げた。
地方への波及も進む。2026年1~4月の地方部における延べ宿泊者数は17市場で前年同期を上回り、カナダや欧州市場の多くでは前年同期比110%超となった。
なかでも米国は、2025年の訪日客数が過去最高の331万人に達し、韓国、中国、台湾に次ぐ第4位の市場となった。2026年上半期も前年同期比7.1%増と好調を維持している。2025年の1人当たり旅行支出は33万9708円で、2019年から約79%増加しており、人数と消費額の両面で重要度が高い市場である。
JNTOは米国向け施策として、スパやヨガに限定しない「Beyond Spa」の考え方を打ち出している。伝統文化、地域住民との交流、食文化、自然の中での滞在を通じ、内面的な充足や自己回復につなげる旅行を提案するもので、地方誘客と滞在日数の延伸を狙う。海外プロモーション部の熊野伸彦氏は「日本の旅の起源は祈りと癒し」とし、伊勢参りや善光寺参り、温泉での湯治、禅やマインドフルネスなどを日本の競争力として挙げた。
具体策では、近藤麻理恵氏を起用した動画「Breathe in JAPAN」を制作し、島根県の出雲大社や稲佐の浜、三重県の伊勢神宮、海女文化、伊勢茶、伊賀組紐などを紹介した。2026年2月にはニューヨーク・ブルックリンでメディアイベントを開催し、旅行分野だけでなく、ライフスタイル、ウェルネス、食分野のメディアやインフルエンサー39人が参加した。参加者のうち13人がSNSなどで情報を発信し、三重県、島根県以外の地域についても取材やファムトリップへの関心が寄せられた。
高付加価値旅行では、JNTOが5月17~22日に「Japan Luxury Showcase 2026」を実施した。欧米豪とシンガポールの16カ国から、1人当たりの着地消費額100万円以上の旅行を扱う旅行会社40社を招き、東北海道、山形、那須、新潟、富士山麓、松本、伊勢志摩、紀伊山地、せとうち、山陰の10コースで視察・体験ツアーを行った。その後、大阪のウォルドーフ・アストリア大阪で、ホテル、旅館、DMC、運輸事業者など国内セラー60社との商談会を開催した。2017年の事業開始以来、大阪での商談会は初めてで、開催時期も従来の2月から5月に移し、グリーンシーズンの訴求を強化した。
商談会では12分の商談を35セッション、計1400件実施し、バイヤー満足度は100%、セラーは97%となった。参加者からは「ファムトリップで実際に目的地を体験した後に商談することで、より深く有益な会話が可能になる」との声が上がり、視察と商談を連動させる意義が確認された。
ファムトリップでは、山伏修行や職人との交流、巡礼道、地域の食文化、プライベートクルージングなど、地域固有の体験が評価された。海外バイヤーは「ラグジュアリーとは必ずしも高価なものだけでなく、むしろ希少性にある」と指摘しており、高級ホテルだけでなく、一般の旅行者が立ち入りにくい場所や地域住民との交流、専門家による案内を組み合わせることが商品価値につながる。
前回のJLS2025に参加した旅行会社30社による訪日送客実績は1万1000人、ツアー平均単価は国際航空券を除き1万9164米ドル、約311万円となった。ファムトリップで訪れた九州、奈良・和歌山、北陸などが実際の商品ラインナップに採用された例もあり、JNTOは継続的な招請と商談を通じて、欧米豪市場から地方への高付加価値旅行の拡大を図る方針だ。