海外医療通信2022年9月号 【東京医科大学病院 渡航者医療センター】
※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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海外医療通信 2022年9月号
海外感染症流行情報 2022年9月
(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況
新型コロナウイルスの全世界の新規感染者数は9月になり減少傾向にあります(WHO Corona virus disease22-9-21)。ほとんどの地域でオミクロン株BA.5に置き換わっており、BA.2.75など新たな派生型の増加は今のところみられていません。なお、ヨーロッパの一部の国では9月末から感染者数がやや増加しており、秋から冬の流行再燃が始まりつつあるようです(ヨーロッパCDC 22-9-22)。
日本では第7波の流行がピークを越え、感染者数が減少しています。(厚労省アドバイザリーボード 22-9-21)。9月中旬からはオミクロン株(BA.1)ワクチンの追加接種が開始されました。9月7日からは水際対策も緩和され、有効なワクチン接種証明書があれば、検査陰性証明書は不要となりました。詳細は厚生労働省検疫所のホームページを参照ください。水際対策|厚生労働省|日本政府 (mhlw.go.jp)
(2)全世界:サル痘流行状況
サル痘の患者は9月22日までに105か国から64,561人が報告されました。(WHO Monkeypox Outbreak 22-9-23)。この1か月間の患者発生数は約2万人で、世界的に減少傾向にあります。国別ではブラジル、コロンビア、メキシコ、ペルーなど中南米での発生が多くみられます。なお、日本では9月21日に5例目のサル痘の患者が報告されました(厚生労働省 22-9-21)。
(3)全世界:季節性インフルエンザの流行状況
南半球では冬も終わりに近づき、季節性インフルエンザの流行が収束してきました(WHO Influenza22-9-19)。ただし、南アフリカではB型の流行が続いています。北半球では本格的な流行がまだ始まっていませんが、ヨーロッパではスペイン、ポルトガル、スコットランドなどでA(H3N2)型の患者が増加傾向にあります。また中国北部でA(H3N2)型の患者がやや増加しています。
(4)アジア:アジア各地でデング熱患者が増加
今年はアジア各地でデング熱患者の増加が報告されています。8月末までに、ベトナムで19万人、フィリピンで12万人、マレーシアで3万6000人、シンガポールで2万4000人と、昨年に比べて2倍~4倍の患者数になりました(WHO西太平洋22-9-14)。台湾でも高雄などで今年は18人の患者が確認されています(Outbreak news today 22-9-18)。各国ともに患者発生は今後も続くことが予想されており、現地滞在中は蚊に刺されない対策をとってください。
(5)アフリカ:ウガンダでエボラ熱の流行発生
ウガンダの中央部に位置するムベンデで、9月にエボラ熱の患者が発生しました(WHO 22-9-20)。ウガンダ保健省によれば死亡者数は12人に達している模様です(ProMED 22-9-22)。同国でのエボラ熱患者の発生は2012年以来になります。今回、ウガンダで流行しているエボラウイルスはスーダン株と呼ばれる種類で、隣国のコンゴ民主共和国で流行しているザイール株とは異なる種類です。ムベンデは交通の要衝であることから、周辺地域への拡大が懸念されています。
(6)北米:米国のニューヨーク州でポリオ患者発生
本誌22年8月号でも報告したように、今年7月、米国・ニューヨーク州のRocklandでポリオ患者が1名発生しました(WHO 22-9-14)。この患者はワクチン由来の2型ポリオウイルスに感染しており、最近の海外渡航歴がないことから、国内感染例とみられています。この患者が発生した地域の下水からは、同一のポリオウイルスが検出されており、複数の感染者が存在しているものとみられています。なお、今回と同一のウイルスは英国のロンドン、イスラエルのエルサレムの下水からも検出されています。現時点で、日本から米国に滞在する場合、ポリオワクチンの追加接種は推奨されていませんが、今後の経過を見ていく必要があります。
(7)南米:ブラジルで蚊媒介感染症が増加
ブラジルでは今年になり蚊媒介感染症が増加しています。デング熱患者は130万人発生しており、サンパウロなどで多くなっています(Outbreak news today 22-9-5)。死亡者数は800人を越え、昨年の3倍以上の数です。同国ではチクングニア熱の患者数も今年は16万人を越えており、昨年の倍近くになっています。
日本国内での輸入感染症の発生状況(2022年8月8日~9月4日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査2022年 (niid.go.jp)を参考に作成しました。新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2022年9月9日)000990801.pdf (mhlw.go.jp)を参考にしています。
(1)経口感染症:輸入例としては腸管出血性大腸菌2人、チフス2人、赤痢アメーバ2人が発生しています。チフスはインドネシアとインドでの感染例でした。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱が10人発生し、前月(8人)とほぼ同数でした。感染国はフィリピン、ベトナム、インドが各2人でした。マラリアの感染は3人で、スーダン、ナイジェリア、インドでの感染でした。
(3)その他の感染症:タイで類鼻祖に感染した事例が報告されました。東南アジアで流行しており、水や土壌中の細菌を吸い込むことで感染し、肺炎や敗血症を起こします。東欧のエストニアでライム病に感染した事例も報告されました。
(4)新型コロナウイルス感染症:2022年7月31日~8月27日までに輸入例として846人が報告されており、外国籍は473人(56.9%)でした。前月(847人)とほぼ同数です。感染者の滞在国ではベトナムが430人(外国籍287人)と半数を占めており、以下はインド90人(43人)、米国87人(53人)、トルコ27人(11人)、スリランカ16人、パキスタン16人、タイ14人、フィリピン14人、インドネシア14人でした。