旅行業の人材戦略、女性・若手の活躍に必要な視点-経営フォーラム
働き方改革やダイバーシティ推進などに加えて
業界の魅力と将来性を伝える努力を
旅行業と学生の「やりがい」のズレ
人材戦略ではもう1つ、旅行業が直面する壁がある。それは人材・採用マーケットの変化。例えば、国内最大手のJTBは就職人気ランキングで上位に入るケースが多かったが、今は女子学生の1位の座は変わりがないものの、男子学生では143位に大きく後退。モデレーターの田中氏は「この数字をどう見るか」と、大きな変動が起きていることを示唆する。
横浜商科大学教授の宍戸氏は、「旅行会社への就職志望者が減っている。観光系学生はホテルやブライダル、街づくりを希望することが多い」と直球で指摘。旅行サイトやLCCなどによって特別なものでなくなった旅行に対する意識変化も影響しているという。
また、旅行業の事業・業務紹介の内容が、現在の学生のスキルや志向にフィットしていない現状もある。宍戸氏によると、大学ではアクティブラーニングやPBL型授業(問題解決学習法)が進み、学生は主体的に学び、自ら考え、プロジェクトに関わる経験が増えている。就職先は「自分がそこで何ができるか」で考えており、旅行会社の業務を「旅行商品の造成と販売」と説明するだけでは、「学生には響かない」という。
さらに宍戸氏は「観光学部で学んだ専門性が旅行業にどう生きるのかもわかりにくい」と言及。大学では旅行業の研究が深化しておらず、授業は業界出身の教育者が自身の経験を踏まえたビジネスの話や、大手企業の話をするケースがほとんどのため、学生からは「中小企業や旅行業界の将来が見えない」という辛辣な意見もあるという。宍戸氏は、「旅行業界の専門性や仕事の魅力を言語化し、キャリア形成や将来の展望が分かるメッセージを発信しなければ反応してくれない」と提言する。
包み隠さず知ってもらうことが大切
JATAの矢嶋氏は、JATAが毎年、観光系学部3年生を中心に実施しているインターンシップと、そこで触れる学生像を紹介。9日間の日程で、3日間の座学と旅行会社2社での計6日間の実務をおこなうもので、17年の参加者にインターンの前後に実施したアンケートでは、「旅行業に絶対就職したい」および「かなり就職したい」と回答した旅行会社への就職に積極的な学生の割合は、81.8%から88.7%へと6.9ポイント増加した。このうち「絶対就職したい」については27.3%から45.5%へと大幅な伸びを示したという。
矢嶋氏は「観光に関心を持つ学生は体系的に旅行業を俯瞰し、現場を知れば、旅行業を志望するケースが高い」と主張。ただし、「福利厚生や職場環境、成長性は(シビアに)よく見ている」と語り、宇宙旅行など、旅行業の将来の広がりをしっかり話すことで「学生は腑に落ちる」と手ごたえを語った。
さらに矢嶋氏は、某就職セミナーで観光系ではない一般の学生向けに旅行業のセミナーを実施したところ、早々に整理券配布が終了し、学生に関心が高い業界であることを肌で実感したという。セミナーでは旅行会社の業務の多様性や市場環境などについて、良い面だけでなく課題も含めて丁寧に話をしたところ、好評だったという。矢嶋氏は、「わかりやすく話をすればこちらを向いてくれる。これから旅行業が向かう先を示すことが大切」とアドバイスした。
旅行業の業務内容が学生に知られておらず、就職先として魅力的に映らないという事実。それは、旅行業界が今の学生を知らないことの裏返し。無形商品の旅行を説明するのと同じように、学生にもその現実と魅力を伝えることが重要であり、魅力ある業界であるためにも環境整備が必要だ。