シリーズ「MICE市場はどう変わったか」
③ 韓国マーケットのキーワードは「女性」
日本政府観光局(JNTO)ソウル事務所がこの6月に公表したレポート「韓国の海外旅行市場」によれば、昨年の韓国の海外インセンティブ旅行市場規模は海外旅行市場全体の1割程度、約110万人、その内20万人程が日本へ訪問したと推測されている。訪日韓国人旅行者数が約260万人であったから、その8%近くということになる。平均をやや下回る比率である。
韓国のインセンティブ旅行は、①永年勤続者等への褒賞など人事対策、②研修・視察など公務員や社員の能力開発、③営業スタッフのモチベーション向上を目的とするものに大別されるそうだが、このうちの②の研修・視察関係の割合が高いのが訪日インセンティブ旅行の特徴だという。モチベーション向上を目的とするようなインセンティブ旅行の行先としては、東南アジアに大きく水を開けられているのが実情のようである。
さて、数多くの自治体が、韓国からの旅行客誘致に向けて精力的に活動している昨今だが、個人客とともにモチベーション向上を目的とする企業インセンティブの誘致も重要な目標となっているものと思われる。しかし、東南アジアのそれぞれのデスティネーションが持っている魅力を上回るだけのものを、何をもって訴えかけようとしているのだろうか。
韓国の老若男女に広く浸透している日本の観光地としての魅力が、温泉とそこでのリラクゼーションであるというのは間違いないようだ。温泉ブーム、といっても過言ではない状況がみられ、九州の温泉地だけでなく、東北の温泉に滞在する個人型旅行も人気が出てきているという。刺激的なものを求める旅行から、健康で、静謐な時間をじっくりと楽しむ旅行へと、徐々に好みが移りつつあるのかも知れない。こうした傾向が生まれた背景には、女性の社会進出の進展が存在するようだ。女性の好みが、マーケットのトレンドに大きく影響を与える時代になったということであるらしい。
先に北海道洞爺湖で開催されたサミットでも、各国の首脳が配偶者を同伴してきた(フランスのサルコジ大統領などを除き)が、韓国においても配偶者同伴の、あるいは女性だけのコンベンションやインセンティブ旅行が珍しくもない時代が近いうちに到来するのではないだろうか。
そうした時代の流れが韓国内で芽生えつつあるとしたら、韓国からのインセンティブ旅行誘致の仕掛けは自ずと決まるはずだ。そのキーワードは、温泉と自然に包まれた静かな環境、といった女性の心に優しく触れるイメージづくりということになるだろう。そして、これこそが東南アジアとは異なる、日本独自の“魅力”を韓国インセンティブ市場にはじめて強く訴えかけるものとなるのではないだろうか。