シリーズ「MICE市場はどう変わったか」① キーワードは「グローバル化」
(株)ツーリズム・マーケティング研究所主席研究員 磯貝政弘氏
グローバル経済の波、それによって変化した社会構造と精神構造。こうした変化とともに、企業が実施してきた報奨旅行も大きく様変わりしている。
目標を達成した販売店、セールスマンを海外団体旅行に招待し、現地で表彰式やレセプションを催すよりも、個人で好きなところへ行かせてくれという要求が出てきた。次いで旅行よりも現金、という要求が目立つようになり、その規模は収縮へと向かった。そもそも、流通構造の変化によって、招待されるべきチェーンストアや代理店といった組織が極端に減ったことも、その傾向に拍車をかけた原因といえる。国内の大規模温泉旅館の経営が厳しくなった要因の一つも、ここにある。
多くの日本企業が経済のグローバル化という未曾有の“現実”への対処を厳しく迫られるようになったのも、この頃からではないか。そして、飽くなき経営の効率化、生産拠点の海外移転、雇用構造の変化、新規マーケットの開拓が急がされた。
日本人の訪中旅行者数が急激に増加するのもちょうどその頃からである。勿論、その大半はグローバル化の尖兵たるビジネスマンであった。MICEの世界も、そうした流れのなかでグローバル化へと向かった。すでにグローバル化を成し遂げた企業が、本社が所在する日本ではなく、生産拠点などが立地する第三国で国際会議を催すことも珍しくはなくなった。
こうした動きに先鞭をつけたのは、やはりアメリカのグローバル企業であった。昨今、アメリカ本国での会議が減り、ヨーロッパや中南米で開催されることも多くなった。
グローバル化の流れを好機と捉え、積極的なMICE誘致活動に国家事業として取り組む国も目に付くようになった。シンガポールやタイなどのアジア諸国でも、MICEの専門セクションが続々と設けられている。日本も、国土交通省が「MICEを通じた観光交流の拡大のための連絡協議」を発足させたほか、JNTOでも海外事務所にMICE担当を増員させている。また、積極的な海外プロモーションを推進する地方自治体も目立つようになり、台湾などからのインセンティブツアーを増加させることに成功した自治体も幾つか知られる。
MICEマーケットの行く末をみるうえで最も重要なキーワードが「グローバル化」であるということは、いまさらながら間違いないようだ。