旅行者の「体験」に焦点-トラベルポート、次世代プラットフォーム開発も

Slowing Growth, Growing Risk

アンドリュー・ステープルズ氏

 旅行業界を離れてより大きな経済情勢について概説したのは、エコノミスト誌でグローバル・エディトリアル・ディレクターを務めるアンドリュー・ステープルズ氏。同氏によると、現在は「成長が鈍化してリスクが拡大している(Slowing Growth, Growing Risk)」局面で、米中貿易摩擦などのトランプリスクに代表される地政学リスクを指摘。

 また、グローバライゼーションが鈍化する現状を「スローバリゼーション」とも表現。多国籍企業による国境を越えた投資が18年だけで2割減するなど各種の指標でグローバライゼーションにブレーキが掛かっている(ただし、それを穴埋めするようなかたちで国際郵便の件数や国境を越えるデータ量は急増)という。さらに、中国の通信機器メーカー「ファーウェイ」の受け入れ方針による国家間の分断にも懸念を示した。

 このほか、2020年の経済成長率は欧州やロシア、インド、中東、アフリカ、豪州、ラテンアメリカで2019年を上回る予測だが、日本や中国、ASEAN、北米はマイナス予想。また、2021年から2024年の成長率は平均2.8%で、日本は1%だが、インドの6.4%、中国の5.2%、ASEANの4.9%などAPAC諸国が牽引。このほかでは、中東とアフリカも平均を上回っている。

 なお、別のパネルディスカッションではアジアでの競争環境などについて意見が交わされ、「アジアは人口は多いものの、池のまわりに数百人の釣り人が群がってどんな魚でもいいから捕まえようとしているような状態」とのコメントもあり、「言語が違えば決済手段も違い、流通チャネルも異なる。色々なものが断片的に存在している」状況であるという。

カスタマーエクスペリエンスが購買判断に影響あり、73%

クレメント・イップ氏

 PwCエクスペリエンスセンター&デジタルサービスの中国・香港地区におけるパートナー兼リーダーであるクレメント・イップ氏は、同社が2017年から2018年にかけて実施した調査の結果とともに、カスタマーエクスペリエンス(CX)を重視した経営のあり方を解説した。

 調査では、CXが購買の判断を左右すると答えた回答者が73%(ただし日本は31%)に。さらにより良いCXのためであれば追加で費用を払うこともいとわないのが43%いたといい、イップ氏はテーマパークのファストトラックや動画サイトで広告を表示しないようにできる有料プランなどを例示して浸透度合いを伝えた。

 そして、消費者がCXで重視する点は主に「スピード、効率性、快適性、便利さ、フレンドリーであること、決済の簡単さ」と説明。そのうえで、PwCとしては「Business」「eXperience」「Technology」、「BXT」の観点からCXをビジネスの中心に置くことを重視しているといい、顧客へのコンサルティングでは「課題解決への専念、最適なテクノロジーやツールの選択、従業員の教育、スピード感と協調性」などの点からアプローチすると語った。

 また、パーソナライゼーションでのデータ活用についてのセッションでは、ビヨンド・アナリシスCEOのポール・アレクサンダー氏が「データに関する考え方を変え、PIIデータ(個人を特定できる情報)を使わずにCXを改善することを考えるべき」と指摘。同社が関わったアパレル系企業の例では、PIIデータに触れずに在庫や販売のデータを分析した結果、特定の服の特定のサイズが毎年売り切れていて機会損失が年間50万英ポンドに達していたことを突き止めたという。