MICEインタビュー:エーペックスインターナショナル 石川香氏
MICE成功のキーワード「旅行という枠に限定しない」
アジア地域を専門とするランドオペレーターのエーペックスインターナショナルでは、カンボジア、ベトナムを中心にMICEの手配と企画を手がけている。1975年創業の同社は、1977年に他社に先駆けてアンコール・ワットを商品化、1984年にはベトナム旅遊局と契約して観光手配を開始した、カンボジア、ベトナム旅行のパイオニアだ。長年現場を見つめてきたランドオペレーターはMICEをどう捉え、今後どのように発展させていくのだろうか。アシスタントマネージャーマーケティングの石川香氏に見解を聞いた。
Q.なぜアジアのなかでもカンボジア、ベトナムでMICEを推進しているのですか
第1の理由は、キャパシティが充実していること。ベトナムには100名から500名規模の受け入れ態勢が十分整っており、最大約1500名でも実施できる。カンボジアでも世界遺産アンコール・ワットがあるシェムリアップに、広いバンケットルームを備えたラグジュアリーホテルがそろっている。近年はプノンペンにも大きなホテルが増えてきた。キャパシティの問題のないデスティネーションはあるが、差別化という意味でもベトナム、カンボジアでのMICEに注力している。
もうひとつの理由は、カンボジア、ベトナムでの豊富な実績があること。今ではすっかり人気の定着したベトナムも、まだ国営企業しか旅行を取り扱っていなかった時期から駐在員をおいていた。日本の旅行業界で最も早いといえるだろう。ベトナムは日本に政府観光局がないので、当時から観光局の代わりとなって、ベトナム航空とともに情報提供やプロモーションに努めてきた。セミナーや講演を依頼されることも多い。それだけの情報量を蓄積しているので、漠然と「100名のインセンティブ旅行で何ができるか」と聞かれても、さまざまな提案をあげられる。
ベトナムは今、特に注目している。日本とベトナムはODA(政府開発援助)などの国家間関係や投資先などの経済関係でつながりが強く、日系企業の進出も盛ん。アジアでは中国と並んで、活発な動きがある国だろう。
Q.MICEの素材や情報を集める秘訣とは
現地の駐在員は常に「何か新しい動きはないか」とアンテナを張っており、ホテルやクルーズ会社など関係者との会話で面白そうなトピックを耳にすると、すかさず詳細を聞き出している。日本市場には一切知られていないが、ヨーロッパ市場では実績のある企画も存在するので、そういった事例は逃さないようにしている。日本人駐在員には現地に移り住んで10年、15年のベテランが何人もいて、人脈ができているのが強みだ。
私は日本でマーケティングや広報ツールの作成を業務としているが、自分もしばしば現地へ視察に行く。近々ベトナムに行き、現在は取引のないホテルのテーマパーティの情報を収集しようと考えている。全世界のデスティネーションをカバーしている旅行会社では、特化した地域を掘り下げて情報を集めることが難しい状況にあると思う。MICEに力入れているランドオペレーターを、効率よく利用してほしい。
Q.旅行会社とはどのように連携していますか
MICEのシェアは取り扱い全体の半分強で、ほとんどがインセンティブ旅行。主旨や規模を判断した上で、ベトナムやカンボジアのMICE概要をまとめたパンフレットを見せて紹介する。依頼事項を受けるだけでなく、積極的に企画も提案していることが当社の特徴。企画段階では、現地の状況を詳しく説明するため、オーガナイザーのところへ同行することもよくある。実質的な話しあいを進めるのに効果的な方法だ。
現地に拠点があっても、旅行会社が当社に手配を依頼するのは、「安心」が求められているからだと思っている。実績が長く、日本人駐在員が多いので、日本人の喜ぶポイントを心得ている。レストランやガイドのレベルもしっかりチェックする。ツアー中は日本人の感覚で参加者のケアができるので、安心を感じてもらえるのだと思う。
ツアー中の万全なケアは、最も重視するところだ。例えば以前、ベトナムで屋外でのパーティが予定されていたとき、異常気象の影響でとても寒い日が続いていた。結局、当日は思ったほど寒くならず事なきを得たが、スタッフはカイロや毛布をたくさん用意して備えていた。
Q.インセンティブでは企画力が要求されますが、ランドオペレーターならではの提案はありますか
クライアントからはやはり、「他の国ではできないこと」を求められる。ベトナムで提案しているのは、メコン川での貸し切り船上パーティ。フレンチコロニアルとアジアンテイストの融合した洗練されたクルーズ船や、メコン川という舞台は、訴求力が高くておすすめだ。また、世界遺産ハロン湾の洞窟でのディナーパーティも成功している企画。カンボジアでもアンコール遺跡内での貸し切りパーティが可能だ。遺跡はたくさんあるので、人数に応じて選ぶことができる。夜はライトアップすると雰囲気が良く、プライベート感があるのでとても喜ばれる。世界遺産ハロン湾を貸し切ってのパーティは、この場所でしかできない体験だ。
また、MICEではパーティだけではなく、ボランティアなど企業としてその国に貢献するCSR活動を求められることも少なくない。たとえばカンボジアでは、会社名を入れた井戸を寄贈する活動ができる。駐在年数が長いので、知人を通して活動先を見つけやすい境遇にあると思う。
インセンティブ旅行はここ数年下火だったが、最近需要が戻りはじめた。今年来年でさらに回復するだろう。日本の人口に対し、海外渡航者は1700万人程度。まだまだ潜在需要はあると前向きに捉えている。MICEでは「旅行」という枠に限定せず、「特別な時間」「特別な体験」という価値観をアピールしていくべきではないだろうか。
ありがとうございました
アジア地域を専門とするランドオペレーターのエーペックスインターナショナルでは、カンボジア、ベトナムを中心にMICEの手配と企画を手がけている。1975年創業の同社は、1977年に他社に先駆けてアンコール・ワットを商品化、1984年にはベトナム旅遊局と契約して観光手配を開始した、カンボジア、ベトナム旅行のパイオニアだ。長年現場を見つめてきたランドオペレーターはMICEをどう捉え、今後どのように発展させていくのだろうか。アシスタントマネージャーマーケティングの石川香氏に見解を聞いた。
Q.なぜアジアのなかでもカンボジア、ベトナムでMICEを推進しているのですか
第1の理由は、キャパシティが充実していること。ベトナムには100名から500名規模の受け入れ態勢が十分整っており、最大約1500名でも実施できる。カンボジアでも世界遺産アンコール・ワットがあるシェムリアップに、広いバンケットルームを備えたラグジュアリーホテルがそろっている。近年はプノンペンにも大きなホテルが増えてきた。キャパシティの問題のないデスティネーションはあるが、差別化という意味でもベトナム、カンボジアでのMICEに注力している。
もうひとつの理由は、カンボジア、ベトナムでの豊富な実績があること。今ではすっかり人気の定着したベトナムも、まだ国営企業しか旅行を取り扱っていなかった時期から駐在員をおいていた。日本の旅行業界で最も早いといえるだろう。ベトナムは日本に政府観光局がないので、当時から観光局の代わりとなって、ベトナム航空とともに情報提供やプロモーションに努めてきた。セミナーや講演を依頼されることも多い。それだけの情報量を蓄積しているので、漠然と「100名のインセンティブ旅行で何ができるか」と聞かれても、さまざまな提案をあげられる。
ベトナムは今、特に注目している。日本とベトナムはODA(政府開発援助)などの国家間関係や投資先などの経済関係でつながりが強く、日系企業の進出も盛ん。アジアでは中国と並んで、活発な動きがある国だろう。
Q.MICEの素材や情報を集める秘訣とは
現地の駐在員は常に「何か新しい動きはないか」とアンテナを張っており、ホテルやクルーズ会社など関係者との会話で面白そうなトピックを耳にすると、すかさず詳細を聞き出している。日本市場には一切知られていないが、ヨーロッパ市場では実績のある企画も存在するので、そういった事例は逃さないようにしている。日本人駐在員には現地に移り住んで10年、15年のベテランが何人もいて、人脈ができているのが強みだ。
私は日本でマーケティングや広報ツールの作成を業務としているが、自分もしばしば現地へ視察に行く。近々ベトナムに行き、現在は取引のないホテルのテーマパーティの情報を収集しようと考えている。全世界のデスティネーションをカバーしている旅行会社では、特化した地域を掘り下げて情報を集めることが難しい状況にあると思う。MICEに力入れているランドオペレーターを、効率よく利用してほしい。
Q.旅行会社とはどのように連携していますか
MICEのシェアは取り扱い全体の半分強で、ほとんどがインセンティブ旅行。主旨や規模を判断した上で、ベトナムやカンボジアのMICE概要をまとめたパンフレットを見せて紹介する。依頼事項を受けるだけでなく、積極的に企画も提案していることが当社の特徴。企画段階では、現地の状況を詳しく説明するため、オーガナイザーのところへ同行することもよくある。実質的な話しあいを進めるのに効果的な方法だ。
現地に拠点があっても、旅行会社が当社に手配を依頼するのは、「安心」が求められているからだと思っている。実績が長く、日本人駐在員が多いので、日本人の喜ぶポイントを心得ている。レストランやガイドのレベルもしっかりチェックする。ツアー中は日本人の感覚で参加者のケアができるので、安心を感じてもらえるのだと思う。
ツアー中の万全なケアは、最も重視するところだ。例えば以前、ベトナムで屋外でのパーティが予定されていたとき、異常気象の影響でとても寒い日が続いていた。結局、当日は思ったほど寒くならず事なきを得たが、スタッフはカイロや毛布をたくさん用意して備えていた。
Q.インセンティブでは企画力が要求されますが、ランドオペレーターならではの提案はありますか
クライアントからはやはり、「他の国ではできないこと」を求められる。ベトナムで提案しているのは、メコン川での貸し切り船上パーティ。フレンチコロニアルとアジアンテイストの融合した洗練されたクルーズ船や、メコン川という舞台は、訴求力が高くておすすめだ。また、世界遺産ハロン湾の洞窟でのディナーパーティも成功している企画。カンボジアでもアンコール遺跡内での貸し切りパーティが可能だ。遺跡はたくさんあるので、人数に応じて選ぶことができる。夜はライトアップすると雰囲気が良く、プライベート感があるのでとても喜ばれる。世界遺産ハロン湾を貸し切ってのパーティは、この場所でしかできない体験だ。
また、MICEではパーティだけではなく、ボランティアなど企業としてその国に貢献するCSR活動を求められることも少なくない。たとえばカンボジアでは、会社名を入れた井戸を寄贈する活動ができる。駐在年数が長いので、知人を通して活動先を見つけやすい境遇にあると思う。
インセンティブ旅行はここ数年下火だったが、最近需要が戻りはじめた。今年来年でさらに回復するだろう。日本の人口に対し、海外渡航者は1700万人程度。まだまだ潜在需要はあると前向きに捉えている。MICEでは「旅行」という枠に限定せず、「特別な時間」「特別な体験」という価値観をアピールしていくべきではないだろうか。
ありがとうございました
取材:福田晴子