MICEインタビュー:イベントサービス代表取締役の森本福夫氏

  • 2010年3月2日
MICE成功のキーワード(12) 「人を楽しませることを楽しもう」

 イベントに特化した会社として1981年に設立し、国内外でさまざまなインセンティブイベントを開催してきたイベントサービス。早くからインセンティブの分野に取り組み、最近は海外の媒体にもアプローチをするなど、アウトバウンド、インバウンドの両方にわたって積極的な展開を続けている。同社代表取締役森本福夫氏に、MICEイヤーの展望と、インバウンドのインセンティブの課題について語ってもらった。
      
      
      
      
Q.香港のメディアに会いに自ら現地へ行かれました。どのような目的があったのですか

森本氏 日本のインバウンドは発信力が弱い。世界的な流れからも日本でも2010年はMICEイヤーとなります。しかしインセンティブについては、海外のバイヤーが何を求めているのか、インセンティブツアーやイベントがどういうものなのか国はまだよく理解していない。これまで日本は主に都市などハードの宣伝で、インセンティブのソフトの部分を打ち出していなかったのです。

 クライアント自身はもちろん、いろいろな国にクライアントを連れて行っているバイヤーに対し、おもしろいベニューがある、こんな風に会場を使える、空港に着いたら特別なお迎えができる、といったソフトの部分、何ができるかの発信が少ないことが前から気になっていました。同時にビジネス拡大のためにインセンティブイベントに特化した当社の存在を知らせたかったというのが目的です。

 例えばMICEチャイナ、シンガポールのTTGアジア、香港のceiというアジアの3大誌には、日本のユニークベニューやイベント会社、ケーススタディの記事が極めて少ない。媒体の人々は、新しいベニューの情報などに関する日本からの発信がないといいます。これに危機感を覚え、香港の媒体に会いに行きました。すると、ぜひケーススタディを送ってくれとなり、発信をはじめました。


Q.観光庁MICE推進方策検討会の分科会にも出席されていますね

森本氏 インセンティブツアー、イベントの双方に通じている専門会社としてたまたま話が来ました。インセンティブトラベルは特別な経験、たぐいまれなる旅行というのが定義。それにはレジャーやパッケージツアーでは普通使われない特別な会場を使います。だから、ユニークベニューが必要だと話しました。国が国策としてMICEを増やすために必要なことのひとつがこの会場の開放です。お金を払えば解決する民間の会場でなく、美術館や博物館などの公的施設を開放し、民間が売れば、国の目標達成にもなるし、民間のビジネスにもなります。

 海外では、例えばサンフランシスコの市役所、ミラノの運河博物館をはじめ、ルーブル美術館も貸してくれます。タイでは王宮を貸すことを検討しているし、中国では万里の長城や紫禁城も利用できます。ところが日本では、チームビルディングで必要な公園は企業には貸してくれない。美術館も閉館日しか使えない。こういうところの解決が必要です。JATAからも会場に対する要望書を出しています。

 観光庁のアクションプランで、国として初めてユニークベニューを取り上げたことは評価しています。ただし、「具体的な案件について必要に応じ開放に向けた働きかけを行う」とあり、これではまずいと思いました。海外企業が500人連れてくるとき、当方からの企画提案段階で公園でのチームビルディングが決まらなければ他の国に行ってしまい日本へは来ません。具体的案件ができてからの交渉では遅い。バイヤーはあらかじめ参加者に発表し、「行くために頑張ろう」と動機付けさせる必要があるのです。


Q.自治体の動きはどうでしょうか

森本氏 最近、沖縄MICEコンテンツトレードショーに行きましたが、ユニークベニューやインセンティブ関連会社、こんな使い方はどうかというソフトのトレードショーという意味でピカイチでした。沖縄は産業としてMICEに力を入れており、エージェントやミーティングプランナーを呼んで万国津梁館でのパーティ、コンベンションセンターのトレードショーをおこない、ユニークな乗り物やサービス、こんなチームビルディングの手法がある、こういう表彰式演出ができるという例を実際に見せていました。首里城と美ら海水族館がまだ使えないのは残念ですが、今後の沖縄県の動きに注目しています。


Q.関係者がインセンティブを体験することが必要ですね

森本氏 実際のインセンティブツアーでは、表彰式やガラディナーのほかにも、事前に行き先に関連したものを送付して興味を高めたり、空港やホテルでの歓迎やもてなし、ハーレーやビンテージカー、馬車などでのトランスファーなど、いい成績を達成した人に対する最高のサプライズが求められています。しかし日本はいろいろな規制があって、白バイが先導したり、空港でチンドン屋が歓迎、銀座の歩行者天国でランチビュッフェといったおもしろい演出が提案できません。これらができる他国と比べて、成熟した海外のバイヤーがどっちへ行くのかは自明の理。インセンティブでどのようなことをやっているのかを見聞きしていない方が多いので、日本が遅れていることに気が付くチャンスがないのが問題です。

 今、日本はクレームに対して過敏になっている。120人くらいの庭園ランチで琴や尺八の演奏をしたかったが、一度苦情が来て以来一切禁止になっています。それなら、近所にちょっと音が出るからと前もって告知し、協力を求めればいい。チームビルディングでボートレースをやるにもお堀端では競争してはいけない。一定区域だけ区切って、一般利用者は少しの間だけ我慢してもらえばいい。ところが、それをやってしまうと、見ている人があの企業だけに優先したという。それが怖いからとにかくNOになるのです。

 大事なことは、国は国民に対して、MICEで大きな団体が来ることで大きな経済効果があり、しかも日本の理解者になって帰るのだから協力して、と声高に言うべきでしょう。国民がそういう意識を持つ土壌作りを急ぎたいですね。


Q.森本さんを動かしている原動力は何でしょう

森本氏 どうしたら楽しくなるかを考えることが単純に好きなのです。こんなものはないかと探していると、現実に見つかることがよくあります。透明なテーブルスカートの明かりにバッテリーで付くLEDライトがあるといいなと探していると、何かのときにそれが見つかる。パリの企画を作らなきゃと、写真展に行ってみるとパリの下町の風景がある。ウエルカムで入口を下町風に飾って、俳優が写真のように熱い抱擁を再現したらおもしろい。こういうことを考えるのが苦痛でなく、自然とアイデアが湧いてきます。

 最近、パーティプランナー向けの講演で、「人を楽しませることを楽しもう」といった。そういう人はインセンティブイベントプランナーになれると。インセンティブツアーやイベントは企画がすべて。これは、組織でなく個人に帰するものです。会社の規模も関係ない。その人の情熱や技量と、いかに突っ込んだ企画をするかで比較されるのです。

 旅行会社がMICEでビジネスをするなら、社内で人を楽しませることをやりたいというパッションのある人を集めて指導すれば良いと常々思っています。旅行会社が成長して業界全体のレベルを上げることで、日本に人がいっぱい来る。その中で競争すればいいと思っています。

ありがとうございました


取材:平山喜代江


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