MICEビジネストレンド:インセンティブ誘致が始動(2)中国市場

  • 2010年2月3日
JNTOが注力する訪日の中国インセンティブ市場
〜中国3億人の検索エンジン百度のプレゼンテーションより〜


 日本政府観光局(JNTO)は中国のインセンティブ市場を有望市場と位置づけ、昨年から取り組みを開始している。昨年12月に開催された国際ミーティング・エキスポ(IME)2009では、JNTOが中国の検索エンジンである百度(Baido)の駐日主席代表、陳海騰氏によるプレゼンテーションを実施。今回はこのプレゼンテーションなどからうかがえた、中国人のインセンティブ旅行のトレンドを伝える。
          
          
      


中国市場は成長エンジン

 「中国市場は今年10月に25.1%増、11月も11.4%増となり、12月もプラス成長の見込み。訪日外客数が2割近く落ち込んだなかでの成長エンジン」と、日本政府観光局(JNTO)コンベンション誘致部長(MICE推進担当)の小堀守氏は述べる。2009年の中国市場における主要なトピックとして、7月の個人観光ビザ創設、映画『非誠勿擾』ヒットによる北海道人気、台湾市場開放による快進撃のほか、インセンティブツアーの目的地多角化があった。「中国発のインセンティブが今年夏から大型案件も含めて伸びている。個人観光ビザも10月までに5000件発給された。現在の試行期間を経て、今年7月に予定する全土への解禁後は広い地域からの増加を期待する」と小堀氏はいう。


1000人以上の大型団体も

 IME2009に招聘されたキーパーソンの一人で、さまざまな国へのインセンティブを実施している北京の港中旅国際旅行社のプロジェクトマネージャーである尹路氏によると「その国の観光資源や信用度が目的地を決める大きな要素だが、一番重要なのは顧客の会社の業務内容。お客様の多い国やどの国と合弁関係にあるかなど、顧客とのかかわりで決定することが多い」。人気があるデスティネーションは英語が通じる国で、「クライアントから特に要望がないときは英語が通じる国に行く。現地で交流するときに言葉の障害が少ないので、マレーシアやシンガポールが多くなる」。

 実際に動きがあるのはIT、医療・医学、保険業界。「会議をともなうもので200人くらいから約500人規模、受け入れ側のキャパシティがあれば1000人以上の場合もある。招待旅行は100人から300人ほど。各都市から100人から200人が出発し、宿泊は受け入れ能力によって同一ホテルか隣接した2つのホテルを利用する」と尹氏。また、インセンティブ旅行での日本の魅力として「国際間や国内の交通がスムーズで、サービスもとても便利でいい。ストレスがなく旅行ができる」と便利さをあげる。

 実際、JNTOでもグローバルホテルチェーンと組み、11月にインセンティブハウス(インセンティブ旅行の企画・演出の専門会社)の訪日視察の実施など誘致活動をしている。「中国市場は反応が早く、意思決定が早い。視察をするとすぐにリターンがある」と小堀氏。これに日本の受け入れ側も対応していかなければならない。「大都市以外の認知度の改善、各地域でのユニークベニューやプログラムの開発が必要。さらに、中国では企業や自治体の代表者が歓迎の気持ちを表すことを評価するので、市長の挨拶や挨拶状の発行がスムーズにできる体制を作ってほしい」と改善点をあげた。


125名のインセンティブで9000万円を消費

 百度(Baido)では広告クライアントに対して、毎年インセンティブツアーを実施しており、2009年は11月に日本で実施。約125人が北京、上海、広州から訪れた。参加者は平均20代から30代の部長クラス。東京3泊、箱根1泊、合計5日間の日程だ。

 同社の駐日主席代表である陳海騰氏は、「屋形船をチャーターし、芸者さんを独自にアレンジ、箱根では浴衣姿で宴会、国旗での歓迎などインセンティブならではの手配をした」と内容を語る。このツアーの経済効果として「ツアーの代金自体は3000万円。さらに御殿場のアウトレットモールでの買物(1日2時間)を含め、滞在期間中に合計6000万円の買い物をし、ツアー代金とあわせて9000万円を使ったことになる」と明かし、「インセンティブが個人旅行と違うのは、競争して買い物をする効果があること。有名企業からの参加なので、いい印象を持てばそれが口コミで広がる」と話す。さらに、訪日中国人は自由時間が限られているために、帰国後も行った店の検索をして、ネットショッピングをする傾向があるのだという。

 こういった中国人のインセンティブ市場発達の背景には、米国債保有額、贅沢品消費額、新車販売台数が世界1位となった経済成長がある。今や中国では年に約4800万人が海外旅行をするほどになった。2008年の中国人訪日観光客数は100万人以上だが、「ビザを解禁するとものすごい数の中国人が来日する。個人ビザ解禁後3ヶ月で発給が4000件を超えた」と陳氏は話す。「対象地域となった北京、上海、広州ではビザ解禁後、『日本旅行 ショッピング』というキーワードが検索ランキングで40%上昇した」と、関心度の高さも示した。


日本のサービスに大満足、最大の目的はショッピング

 訪問先として日本が人気の理由について陳氏は、飛行機で3、4時間という近さ、北海道から沖縄まで見どころの多さ、とりわけサービスがいちばん評価がよいという。「デパートの係員や客室乗務員など、自分より低い目線での接客に中国人は感動する。グルメも人気。和食、寿司、焼き肉、魚やカニなど日本食の多様性も魅力」。

 そして、最大の目的はショッピングだ。平均支出は10万円から20万円ほど。「先日案内した旅行者10名は、秋葉原で30分間のうちに全員で2000万円分を購入した。キヤノンのカメラなど、今の中国人は店で一番高い商品を買う」と陳氏。上海から福岡へクルーズで訪れる中国人客は、1000人が1度に合計2、3億円分を購入していくという。これらの高額ショッピングを可能にしているのが、デビッドカードである銀聯カード。「ヨドバシカメラが2006年にカードリーダーを導入したときは1日の売り上げは1400円だったが、今年の国慶節(10月)では1日で1億円になった」。これは、この3年間でいかに多くの中国人が訪れるようになり、日本で買い物を楽しむようになったかを示す例だ。

 陳氏によれば、高速道路インフラやホテルなどすでに中国はハード面が進んでいるため、日本に対して特別な最新インフラを求めてはいないという。「世界中を旅行する富裕層はプレミア感のあるサービスを求めている。そういう富裕層に対して、日本人の細かいサービスがいいと案内している。東京での滞在なら、帝国ホテルの16階以上のスイートルームをすすめ、着物を着用したスタッフが丁寧なサービスをしていることを伝えたり、椿山荘には2万坪の庭園があるなどの特徴を説明することも必要」。


幅広く詳細なコンテンツが必要

 さらに、日本企業の中国語サイト展開に対するコンサルタントもしている陳氏は、インターネットで得られる日本の情報について、「まだ中国語による日本の情報が足りず、コンテンツが少ない」と、中国語サイトの不十分さを指摘。「温泉なら、中国で有名な箱根とほかの温泉との違いや、食の楽しみでは人気の神戸牛と他産地の牛肉の違いを説明するくらいの特集記事なしには伝わらない」という。さらに、「リゾートも単に海がきれいというアピールでは駄目で、ピークシーズンを外した具体的な設定が必要。また、2度目以降の訪日では滞在型になるため、温泉やゴルフなど滞在型観光に対応した情報が求められる」ときめ細かい情報の必要性を説く。こうした嗜好性を理解し、準備を整えることが、中国市場のインセンティブはもちろん、MICE受け入れの重要なポイントとなるようだ。


百度はGoogle、YAHOO!に次いで世界シェア3位の中国の検索エンジンで、中国では
シェア73.2%の最大手。中国語検索の強みを活かしたウェブマーケティングに長け、
30万社の広告主を抱える。駐日主席代表の陳海騰氏は、中国国際旅行社日本部、
NTT西日本、インデックス中国駐在、DAC(博報堂DYとADKの出資会社)現地法人
などを経て、2006年12月から現職。



取材:平山喜代江