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MICEインタビュー:ジャパトラ代表取締役社長の柏倉幸彦氏

  • 2009年12月1日
MICE成功のキーワード(10)
「テーマを絞った戦略で、ニーズを掘り起こす」


 貸会議室事業や、旅行を通じたCSR(企業の社会的責任)としてのボランティア活動、スポーツイベント、田舎暮らしに触れる旅…時代を反映した数々のソリューションビジネスを手がけるジャパトラは、小回りとアイディアを活かして独自の市場を開拓している。美しい写真を盛り込んだ旅行誌を企業担当者へ無料で配布するなど、自社媒体によるプロモーションも特徴だ。代表取締役社長の柏倉幸彦氏と、フリーマガジン制作に携わった営業本部営業2部課長の堀裕一氏に話を聞いた。





Q. MICEにはどの程度の比重を置いていますか

柏倉氏 当社の事業でMICEが占める割合は、全体の7割くらいでしょうか。顧客は、金融、食品、IT業界と幅広く、500名前後の国内での大会や表彰式が主になります。「M」の会議はMICEのうち2割、「E」のイベントは3割程度です。

 昨今は、スポーツイベントに最も力を入れています。健康、エコというキーワードとともに、これからスポーツはますます盛んになるでしょう。特に注目しているのは自転車、水泳、ウォーキングやノルディック・ウォーキング。ノルディック・ウォーキングとは、スティックを持って雪の上ではなく普通の道を歩くスポーツです。スティックがあるので、膝を痛めず楽に歩くことができます。

 スポーツ分野でも、イベントを開催する際には移動と宿泊を伴う場合が多いので、旅行会社としては協力しやすい領域だといえます。イベント主催者に代わって事務局を運営し、事務局代行費として手数料をいただくビジネスモデルも考えられます。単にエントリー手続きを代行するだけでなく、食事などのサービスも提供するので、催行の仕組みは学会の場合と同様ですね。イベント運営は細かい作業が多いだけに、大手旅行会社があまり参入しないのが利点の市場だと思います。

 
Q. MICE事業の傾向に変化はありますか

柏倉氏 以前は手配を一社にまかせていましたが、今後はさまざまな会社と協力して分業する「パートナーシップ制」が強まると想定しています。当社の役割はいわば、演出家や各専門家を包括するプロデューサー業務。顧客に対してはワンストップ・ソリューションに価値を置き、我々にいえばすべてが揃うよう、各社と連携体制を整えています。

 会議に関しては、「会議室21」という都内近郊を中心とした貸し会議室事業を立ち上げています。人気の高い都心エリアに限定した貸し会議室の提供で、ウェブで検索することができます。全国規模の会議室検索サイトはありますが、エリアを絞ったモデルはほかにありません。このサイトは、直接利益を得るためというより、ニーズのある顧客との接点と位置付けて運営しています。今後はポータルサイトとしてさらに充実させるつもりです。

 また、スポーツだけでなく、ミュージシャンのファンツアーなど特化した分野を伸ばしていく方針です。デスティネーションの掘り起こしや、ホテルグループとの協同企画も考えていきたいですね。


Q. プロモーションへの取り組みを教えてください

堀氏 当社は、「トラベルコンシェルジュ」という媒体を持っているのが強みです。ビジュアルも内容もハイクオリティに構成した雑誌ですが、無料で一部上場企業や外資系企業の担当者に配布していました。MICEという言葉が旅行業界だけで独り歩きしている感じがあるので、一般の方が楽しめるような読み物にMICE情報を載せて広めていく目的で、航空会社、ホテル・旅館、各政府観光局のご協力のもと、制作していました。

 雑誌の発行元とグループ会社になることにより、その読者から旅行客を取り込むというシナジーを得ることを目的としていましたが、現在は雑誌を一時休刊にし、ウェブに重点を移行しています。今後のプロモーションは雑誌とウェブ、そのほかを絡めて展開していけたら面白いですね。ウェブをどのように活用するかが鍵になるでしょう。

 MICEという用語は旅行会社の中での区別としては必要ですが、オーガナイザー側ではふだん使う言葉ではありません。インターネットで検索しても以前はほとんどヒットしませんでした。近年はだんだん増えてきましたね。言葉が浸透することで顧客にもその概念を理解してもらいやすくなるという側面は、あると思います。


Q. 海外市場にはどのような展望を持っていますか

柏倉氏 アウトバウンドだとインセンティブが主力となるところですが、海外市場はどうしても競合が激しく、参入の余地が限られているのが実情です。将来的には従来のMICE市場よりさらに専門性の強い分野で取り組んでいきたいとは考えています。たとえば自転車によるファンライドツアーなどです。

 行き先として期待を持っているのは、中国、グアム、マカオです。中国は経済発展や日本との関わりから見て需要が高いですし、上海万博も控えています。グアムは、3時間で行ける利便性が魅力。ゴルフ場を備えた大手ホテルとの話しあいも進めており、現段階ではMICEとまでは至っていませんが、今後MICEへとシフトしていきたい考えです。

 そしてマカオは、海外の主軸としてとりわけ重視しています。ホテルのキャパシティや世界遺産でもあるコンパクトな街は、MICEに最適ですよね。日本人タレントのファンクラブツアーをマカオでシリーズ化するといった企画も検討中です。課題のひとつは、フライトの本数。成田からの直行はビバマカオ航空(ZG)のチャーター便のみで、香港経由だと7時間かかります。2つ目の課題が、人材教育です。ホテルのスタッフで英語が通じるのはまだ一部。現地スタッフが行き届いたサービスとホスピタリティを提供できるようになるまでには、これから時間が必要ではないでしょうか。

ありがとうございました


取材:福田晴子


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