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MICEインタビュー:アジア・アシスト・ネットワーク代表の沓名豊明氏

  • 2009年9月29日
MICE成功のキーワード(7)
「旅行業の新たな魅力を創造する考え方」



 「MICEをもっと大きな形で捉えるべき」と語るのは、バリ島のツアーオペレーター「バリ・アシスト」の日本事務所、アジア・アシスト・ネットワーク代表の沓名豊明氏。通常、「M=会議」「I=インセンティブ」「C=コンベンション、コングレス」「E=展示会・見本市、イベント」を指すが、「それはMICEの考え方のひとつ」といい、「単なる大型集客ではなく、ニーズにあった商品を作り出すことが真の姿」と話す。MICEで実施してきた提案型営業を幅広い視野で実践していこうと、現地手配のオペレーターの側から旅行会社に提案し、プロデューサー・協同プランナーの意識で取り組んでいるという沓名氏に話を聞いた。


Q.幅広くMICEを捉えるべき、という考え方をもう少し教えてください

 MICEは「M、I、C、E」の大型受注で、収益率が高い点が注目されています。インドネシアでは国際会議やインセンティブが多く開催されていることから、本社では12年ほど前から600名規模を中心としたMICEの手配を受注しており、その効果も理解しています。ですから私は、そういう利益をもたらす、MICE受注のアプローチに注目したいのです。お客様の満足いくサービスを提供するために一番大切なことは、求められていることを把握して理解し、オーダーメイドで手配すること。これがMICEの基本であり、重要な考え方です。

 一方で、現在の旅行業界は成熟し、転換期にあります。これまでは旅行がファッション商品のようにトレンディであり、外国への夢があった時代のなかで作られて推移してきましたが、現在、従来型で提供される商品は消費者にとって魅力が少なくなってきているように思います。以前は商品に組み込んだ利用航空会社やホテルなどの素材が主な魅力付けともなっていましたが、現在は旅行者がしたいことをいかに作り上げていくかが求められ、素材はそのために必要な付属品になっています。つまり、消費者ニーズを前提としたプログラム作りをするMICEの考え方は、いわゆるMICE以外の旅行商品にもあてはまるということを広めたいのです。


Q.具体的にはどういう分野が入りますか

 大量販売が使命であるホールセールのパッケージツアー以外は、すべてあてはまるのではないでしょうか。特にウェディングなどは範疇として考えてよいですよね。MICEのオーガナイザーはある程度予算が決まっているなかでより効果があるものを実施したいと考えていますし、ウェディングも予算のなかで自分たちらしいプログラムの内容を求め、吟味するお客様が相手になります。そのほか、エコツアーや業務渡航など、大量販売が使命となるパッケージ商品以外のほとんどは、MICEの考え方としてよいのではないでしょうか。

 消費者のニーズ、旅行者の欲求が主役で、それを旅行会社が形作る。転換期にあるなかで、新しい魅力を作り出していけるかが旅行業の岐路であると考えており、そうなってくると近い将来、MICEはひとつの産業形態になるのではないかという予感もあります。今、MICEは各国・地域の政府観光局が主体となって取り組んでいますが、今後は機能的に取り組むことができる企業が誘致できる力を持っていく必要があるでしょう。そこで、オペレーターとして現地を手配するだけでなく、現地側からのプロデューサー&プランナー的な考えでMICEに取り組んでいます。


Q.どのような提案をされますか

 1社たりとも同じ商品はありませんし、お客様によって内容が変わるので具体例が出しにくいですが、例えば5日間のバリの日程を組む場合、最初の2日間でお客様が希望する主体的なプログラムを持ってくるようにします。ワイン好きのグループなら、意外なことにバリ島にも2ヶ所のワイナリーがあるので、ワイナリーを訪れてワインを楽しむ企画をメインとし、その後の日程をフリーにして女性ならエステ、男性ならゴルフ、さらにエコツアーやウォーキングなどを提案します。

 参加者主体の商品をプランニングするという付加価値があれば、価格競争をする必要がなくなります。既存商品の利益率と比べると、25%程度の上乗せも可能なのではないでしょうか。こうしたアプローチ専門店を中心に前向きに考えていただいているようです。


Q.MICE誘致に向けた工夫や今後の予定は
 
 実は私は35年前、送客側の旅行会社にいました。そのとき、旅行に出かけたお客様から「ガイドが良くない」「サービスが不満」など、日本での説明と逆のことが起きて、クレームになることがあったのです。旅行業界では現地が大切だと思い、25年前にツアーオペレーターに転身しました。現地手配のみならず、ツアーガイドの採用や教育などを進めており、今ではエコやウェディングなど専門的なプロの育成にも力を入れています。

 11月にはFAMツアーを実施します。11月9日から13日の日程で、弊社がレップを務めるホテル「バリ・トロピック」を中心に6ホテルと協賛し、バリがMICEの受け入れを歓迎していることを伝えていきます。MICE関連施設のインスペクションのほか、フィールドプログラムでは旅行会社の要望の高かった内容を組み込みました。営業担当者のみならず、MICEの可能性に触れていただくためにも経営幹部クラスの方々にも参加していただきたいですね。

 これまで、MICEが幅広い範疇であることをお話しましたが、それでもMICEの中心はやはり「M、I、C、E」であることには変わりません。弊社ではこれらの「MICE」でまず、日本から月1本のMICEプログラムの受注を目標に取り組んでいます。


ありがとうございました


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