MICEビジネストレンド:国際見本市のアウトバウンド市場
国際見本市の送客には費用対効果を高める付加価値を
インバウンドや新興国の取り込みも視野に
今回は、国際見本市アウトバウンドに焦点をあてる。海外で開催される国際見本市は参加者にとって業界動向がわかり、特定の製品や技術が見られる上に、ビジネスコンタクトも確立できるメリットがある。世界各国の企業と効果的なマッチングをすることで、企業間の新たなビジネスを生み出すことができる効果的な機会だ。当然、旅行会社にとっても法人営業や業務渡航の中で扱われる重要な素材のひとつになる。国際見本市のアウトバウンド市場や今後の展望などについて、見本市を専門に扱う旅行会社の担当者に話を聞いた。
不況下でも急成長するドイツの医療分野
見本市は技術革新の発表の場であるがゆえ、世界の産業経済の栄枯盛衰をよくも悪くもそのまま反映してきた。80年代まで主流だった建設・製造業から90年代後半の情報通信産業の急激な発展へと、産業構造の変化によって見本市のトレンドも大きく変わり、ここ数年ではデザインや医療の分野が注目されている。見本市に参加する層も中国、インドなどの新興国からの入場者が増えている。
見本市で扱う分野は広く深く、多岐にわたっている。デザインの大きな祭典であるミラノサローネ、本の見本市として500年以上の歴史があるフランクフルトのブックメッセ、ラスベガスで開催するパソコンと家電の見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)、携帯電話技術が一堂に集まるハノーバーの国際情報通信技術見本市セビットなどの有名なものをはじめ、クレーンがずらりと並ぶ建設用機械や車両の専門見本市バウマ、刃物や金具などハードウエアのプラクティカルワールドなど専門性の高いものまである。業界によって技術開発のペースが違うため、開催頻度は異なる。年間150件前後が開催される見本市の本場ドイツでは、建設機械・印刷機械は3年から4年ごと、食品関連は2年に1度、薬品や本、雑貨は毎年開催のものが多い。
その中でも、ドイツで最近急成長しているのが医療の分野だという。ドイツの見本市専門旅行会社であるアイ・エム・アイ取締役の森脇高子氏は次のように話す。「デュッセルドルフで開催されている国際医療機器展メディカは、真剣に取り組む専門の人にだけ来場してもらえるよう、入場料を1万円近くと高額に設定している。それにもかかわらず出展は年々増え、ここ数年活況だ。当社でも昨年130人を取り扱った。食品と医療関連の分野は不況にも強い」。その一方、世界的な自動車産業の落ち込みによりモーターショーは不人気で、またセビットもかつてほどの勢いがないという。
“付加価値”をどう付けるか
見本市の視察プログラム商品「ワールドテクニカ」を展開し、国際見本市のアウトバウンドを中心に集客する近畿日本ツーリスト(KNT)東京西法人旅行支店は、年間20本から30本の見本市を商品化し、年間平均約500人、過去20年間で合計1万人を送客してきた。ワールドテクニカを担当するKNT同支店グループリーダーの藤井裕氏は今年の状況について、「リーマンショック以降の落ち込みが激しく、新型インフルエンザの影響もあって例年より半減している。ただし下期に向けて問いあわせは増えてきている」と話す。
また、ファッション関連の見本市を中心に、15年前から他業種への国際見本市商品を開発してきたジェイ・ワールド・トラベル専務取締役の泉澄夫氏によると「20年以上前までは世界の最新技術を学ぶことが必須であったため、国際見本市というだけで人が集まったこともあったが、日本の技術が向上した現在は、近隣諸国が日本の見本市に来るようになった」と変化を話す。さらに「バブルの頃は建築やインテリア関連メーカーが海外の見本市会場で家具を直接買い付けていたこともあるが、今は高級家具が売れない。消費低迷で日本国内での需要が見込めなくなっている」と続ける。
インターネットで出張者が旅行を自己手配しやすくなった現在、旅行会社の役割は見本市の商品にいかに付加価値をつけるかがポイントになる。当然、コンディションのよい航空券、便利なホテルの手配が求められる。人気の見本市はすぐにホテルがいっぱいになり、価格も上がってしまう。欧州などはデポジットの要求が厳しいが、リスクを取ってでも会場へのアクセスがいいホテルを確保しなければ付加価値にならない。
ジェイ・ワールド・トラベルの泉氏はこう述べる。「付加価値を付けるためにリスクを負ってでも集客が見込める商品に絞り、ニーズに応じて市場調査や会議に最適な場所の案内、工場見学など細かい手配をしている。商品は人間関係の中で何年もかかってできるもので、『商品=クライアント』といっていい。付加価値は収益性をあげる手段でもある」。
付加価値を高めるという点でKNTのワールドテクニカでは、海外見本市の日本地区公認代理店業務を請け、CESなど日本からの視察が多い見本市では日本語インフォメーションデスクを会場内に設置。さらにコーディネーターや雑誌社と組んで展示会の見どころのツアーやセミナーを実施するなど、見本市に関わるトータルサポート体制を売りにしている。
視察から出展へ、新興国の動きも見込んだ展開
かつて、国際見本市の視察は報奨の意味あいも強かったが、今は出張者に明確な費用対成果が求められている。旅行会社が求められる役割もそれだけ厳しくなった。「どの分野の視察でもピンポイントのニーズが増えている。それに応えるには新しい展示会を常にウオッチし、その企業にあった展示会を取捨選択して成果を出す手助けをしないといけない。展示会に行く必要性を訴えることも必要」とKNTの藤井氏。そのためには、業界に対する相当な知識、情報が必要となる。ジェイ・ワールド・トラベルの泉氏も「付加価値のある商品作りには、業界の中に入ってマーケットに精通していないといけない」と強調する。
今後の国際見本市はどのように動いていくのだろうか。「新興国、ロシア、インドなどのBRICs諸国へ、日本の技術を輸出する形での出展ニーズが増えてくるのではないか。自治体はそのような動きがみられる」とKNT藤井氏は話す。実際に、案件は多くはないものの、将来の進出を見込んだ中国、アジア諸国の見本市への出展の扱いが増えているという。
一方、世界的に関心が高い環境・新エネルギー分野の中でも、省エネ技術や燃料電池の開発は日本が先行している。それらの技術をテーマにした日本の見本市には海外から人が集まってくる。KNTの藤井氏は「これからは訪日マーケットもねらいたい。日本からの視察に加え、海外から日本の見本市に来てビジネスをしてもらうなど、総合的にビジネスマッチングができるといい」とインバウンドへも期待を寄せる。ジェイ・ワールド・トラベルの泉氏も「海外の見本市での商活動を、日本国内だけでなく中国、ロシア、中東など消費が伸びる国々での販売を強化につなげるための業務サポートや、日本の技術を展示する見本市を海外に売り込むことも視野に入れている」と、国内市場の先を見据えている。
見本市へのニーズがより専門性を帯びる中、その技術や情報を求める企業の担当者をピンポイントで展示会とその出展者にうまくマッチングができれば、相互に利益をもたらし、旅行会社への手配のリピートにもつながってくる。KNTの藤井氏が「これからは1対1でそれぞれのニーズまで拾わないといけなくなる」というように、営業活動が緻密になる中で、日本市場だけでなく、グローバルな人の流れを見込んだミクロかつマクロな視点でのマッチングがカギとなりそうだ。
インバウンドや新興国の取り込みも視野に
今回は、国際見本市アウトバウンドに焦点をあてる。海外で開催される国際見本市は参加者にとって業界動向がわかり、特定の製品や技術が見られる上に、ビジネスコンタクトも確立できるメリットがある。世界各国の企業と効果的なマッチングをすることで、企業間の新たなビジネスを生み出すことができる効果的な機会だ。当然、旅行会社にとっても法人営業や業務渡航の中で扱われる重要な素材のひとつになる。国際見本市のアウトバウンド市場や今後の展望などについて、見本市を専門に扱う旅行会社の担当者に話を聞いた。
不況下でも急成長するドイツの医療分野
見本市は技術革新の発表の場であるがゆえ、世界の産業経済の栄枯盛衰をよくも悪くもそのまま反映してきた。80年代まで主流だった建設・製造業から90年代後半の情報通信産業の急激な発展へと、産業構造の変化によって見本市のトレンドも大きく変わり、ここ数年ではデザインや医療の分野が注目されている。見本市に参加する層も中国、インドなどの新興国からの入場者が増えている。
見本市で扱う分野は広く深く、多岐にわたっている。デザインの大きな祭典であるミラノサローネ、本の見本市として500年以上の歴史があるフランクフルトのブックメッセ、ラスベガスで開催するパソコンと家電の見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)、携帯電話技術が一堂に集まるハノーバーの国際情報通信技術見本市セビットなどの有名なものをはじめ、クレーンがずらりと並ぶ建設用機械や車両の専門見本市バウマ、刃物や金具などハードウエアのプラクティカルワールドなど専門性の高いものまである。業界によって技術開発のペースが違うため、開催頻度は異なる。年間150件前後が開催される見本市の本場ドイツでは、建設機械・印刷機械は3年から4年ごと、食品関連は2年に1度、薬品や本、雑貨は毎年開催のものが多い。
その中でも、ドイツで最近急成長しているのが医療の分野だという。ドイツの見本市専門旅行会社であるアイ・エム・アイ取締役の森脇高子氏は次のように話す。「デュッセルドルフで開催されている国際医療機器展メディカは、真剣に取り組む専門の人にだけ来場してもらえるよう、入場料を1万円近くと高額に設定している。それにもかかわらず出展は年々増え、ここ数年活況だ。当社でも昨年130人を取り扱った。食品と医療関連の分野は不況にも強い」。その一方、世界的な自動車産業の落ち込みによりモーターショーは不人気で、またセビットもかつてほどの勢いがないという。
“付加価値”をどう付けるか
見本市の視察プログラム商品「ワールドテクニカ」を展開し、国際見本市のアウトバウンドを中心に集客する近畿日本ツーリスト(KNT)東京西法人旅行支店は、年間20本から30本の見本市を商品化し、年間平均約500人、過去20年間で合計1万人を送客してきた。ワールドテクニカを担当するKNT同支店グループリーダーの藤井裕氏は今年の状況について、「リーマンショック以降の落ち込みが激しく、新型インフルエンザの影響もあって例年より半減している。ただし下期に向けて問いあわせは増えてきている」と話す。
また、ファッション関連の見本市を中心に、15年前から他業種への国際見本市商品を開発してきたジェイ・ワールド・トラベル専務取締役の泉澄夫氏によると「20年以上前までは世界の最新技術を学ぶことが必須であったため、国際見本市というだけで人が集まったこともあったが、日本の技術が向上した現在は、近隣諸国が日本の見本市に来るようになった」と変化を話す。さらに「バブルの頃は建築やインテリア関連メーカーが海外の見本市会場で家具を直接買い付けていたこともあるが、今は高級家具が売れない。消費低迷で日本国内での需要が見込めなくなっている」と続ける。
インターネットで出張者が旅行を自己手配しやすくなった現在、旅行会社の役割は見本市の商品にいかに付加価値をつけるかがポイントになる。当然、コンディションのよい航空券、便利なホテルの手配が求められる。人気の見本市はすぐにホテルがいっぱいになり、価格も上がってしまう。欧州などはデポジットの要求が厳しいが、リスクを取ってでも会場へのアクセスがいいホテルを確保しなければ付加価値にならない。
ジェイ・ワールド・トラベルの泉氏はこう述べる。「付加価値を付けるためにリスクを負ってでも集客が見込める商品に絞り、ニーズに応じて市場調査や会議に最適な場所の案内、工場見学など細かい手配をしている。商品は人間関係の中で何年もかかってできるもので、『商品=クライアント』といっていい。付加価値は収益性をあげる手段でもある」。
付加価値を高めるという点でKNTのワールドテクニカでは、海外見本市の日本地区公認代理店業務を請け、CESなど日本からの視察が多い見本市では日本語インフォメーションデスクを会場内に設置。さらにコーディネーターや雑誌社と組んで展示会の見どころのツアーやセミナーを実施するなど、見本市に関わるトータルサポート体制を売りにしている。
視察から出展へ、新興国の動きも見込んだ展開
かつて、国際見本市の視察は報奨の意味あいも強かったが、今は出張者に明確な費用対成果が求められている。旅行会社が求められる役割もそれだけ厳しくなった。「どの分野の視察でもピンポイントのニーズが増えている。それに応えるには新しい展示会を常にウオッチし、その企業にあった展示会を取捨選択して成果を出す手助けをしないといけない。展示会に行く必要性を訴えることも必要」とKNTの藤井氏。そのためには、業界に対する相当な知識、情報が必要となる。ジェイ・ワールド・トラベルの泉氏も「付加価値のある商品作りには、業界の中に入ってマーケットに精通していないといけない」と強調する。
今後の国際見本市はどのように動いていくのだろうか。「新興国、ロシア、インドなどのBRICs諸国へ、日本の技術を輸出する形での出展ニーズが増えてくるのではないか。自治体はそのような動きがみられる」とKNT藤井氏は話す。実際に、案件は多くはないものの、将来の進出を見込んだ中国、アジア諸国の見本市への出展の扱いが増えているという。
一方、世界的に関心が高い環境・新エネルギー分野の中でも、省エネ技術や燃料電池の開発は日本が先行している。それらの技術をテーマにした日本の見本市には海外から人が集まってくる。KNTの藤井氏は「これからは訪日マーケットもねらいたい。日本からの視察に加え、海外から日本の見本市に来てビジネスをしてもらうなど、総合的にビジネスマッチングができるといい」とインバウンドへも期待を寄せる。ジェイ・ワールド・トラベルの泉氏も「海外の見本市での商活動を、日本国内だけでなく中国、ロシア、中東など消費が伸びる国々での販売を強化につなげるための業務サポートや、日本の技術を展示する見本市を海外に売り込むことも視野に入れている」と、国内市場の先を見据えている。
見本市へのニーズがより専門性を帯びる中、その技術や情報を求める企業の担当者をピンポイントで展示会とその出展者にうまくマッチングができれば、相互に利益をもたらし、旅行会社への手配のリピートにもつながってくる。KNTの藤井氏が「これからは1対1でそれぞれのニーズまで拾わないといけなくなる」というように、営業活動が緻密になる中で、日本市場だけでなく、グローバルな人の流れを見込んだミクロかつマクロな視点でのマッチングがカギとなりそうだ。
取材:平山喜代江