伝統と革新の交差点で、松竹が語る「歌舞伎の未来」とインバウンド対応
長谷川 字幕ガイドは現在英語のみですが、将来的には多言語化をして選択肢を広げていく必要性を感じています。また、大前提としてお客様からのお問い合わせには丁寧に対応するようにしています。自分が海外へ旅行に行った時に現地の方に素っ気なくされるととても寂しいですよね。そういう想いをしないで済むようにと意識しています。
高橋 劇場スタッフの語学対応力が課題でもあり、現在はポケトークなどの機器を導入して対応しています。また、言葉でお伝えすることができない分、「NO PHOTO」「NO TALKING」といった外国語表記の看板を用意してお伝えしていますが、「自分たちだけに注意を促されているようで不快だった」とのOTAレビューもありました。こうした点からも、劇場全体で外国人観客へのフラットな対応意識を共有する必要性を感じています。
また、OTAからの予約では座席の差配にも気を配っています。体格や視界の配慮から、後ろ座席の方の視界を塞がないようにだったり、座席の傾斜が少ないところにはなるべく配席しないようにだったりと、地道な対応が成果につながっていると実感しています。

長谷川 私は、歌舞伎座を国際的な劇場にしていく必要性を感じています。現在の客層は当然ではありますが、その多くが日本人です。このままでは将来的に先細りしてしまう懸念があります。
ロイヤルオペラハウスやオペラ座などでは、多国籍な観客が当たり前のように集まっていて、そうした姿に学ぶべき点は多いと思います。歌舞伎はその独自性から、オペラやバレエと比較するとマーケットが独特ではあるかもしれませんが、インバウンドのお客様に楽しんでもらえるサービスの工夫というのは非常に重要だと感じていますし、今まで歌舞伎を支えて来てくださったお客様方にもご理解の上受け入れていただけるようになっていくとより嬉しいです。
以前米国大手通信社の記者の方に「文化を紹介することは平和につながる」と言われたことがあり、その言葉が今も胸に残っています。歌舞伎を紹介する私たちの仕事が、そうした平和的な文化交流の一端を担っているのだと思うと、大きな責任とやりがいを感じます。
高橋 国内営業をしていると、私のような世代で、もともと歌舞伎にあまり馴染みがなかったというと、意外性があるのか親近感を持っていただくことが多いです。そうした流れから、「じゃあ社内の福利厚生の一環として導入してみようか」とお声がけいただくこともありました。歌舞伎の観劇経験がない若年層の方々に対して、機会を広げていくことが、自分に課せられた使命だと感じながら営業活動に取り組んでいます。
因藤 インバウンドのお客様に日本の伝統芸能を案内するには、まず自分で体験していただくのが一番です。高額な席でなくても構いません。むしろ、幕見席の方が気軽に楽しんでいただけるかもしれません。
旅行会社の皆さまが実際に観ていただくことで、その魅力がより熱量高く、リアルに伝わると思います。ぜひ一度、歌舞伎座に足を運んでいただけたら嬉しいです。現代の方々は海外、特に西洋文化の影響を受けて育ってきてるところがあると思いますが、日本の、江戸文化の良さみたいなものを認識する機会という部分で歌舞伎はとても良い素材だと思います。日本文化に触れることは、観光の枠を超えた体験になります。その価値を共に伝えていけたらと願っています。