海外医療通信2017年1月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報2017年1月

1)マレーシアで邦人がデング熱で死亡

本年1月中旬にマレーシアで日本人のデング熱患者が死亡しました(外務省海外安全ホームページ 2017-1-22)。マレーシアでは今年になりデング熱患者が3500人報告されており、うち5人が死亡しています(WHO西太平洋2017-1-17)。昨年の同時期の患者数は6800人で、今年の患者数は昨年よりも少ない状況です。デング熱を発病した患者の約5%は出血熱やショックなど重篤な症状をおこしますが、今までは日本人患者で死亡する例は大変に稀でした。しかし、昨年7月にフィリピンから帰国した日本人女性が新潟県の病院で死亡する事例が発生しています。

http://www.pref.niigata.lg.jp/kenko/1356848087885.html


デング熱の重症化は感染を繰り返す場合に多いとされています。このため、過去にデング熱にかかかった経験のある人は、デング熱を疑う症状が再びみられたら、早期に医療機関を受診し検査や治療を受けるようにしましょう。


2)中国で鳥インフルエンザH7N9型の患者が増加

中国の沿岸部では毎年冬に鳥インフルエンザH7N9型の流行がみられています。今期は11月末~12月に106人の患者が確認されました(WHO 2017-1-17)。地域としては江蘇省、浙江省、安徽省、広東省などで患者の発生が多くなっています。また、香港で2人、マカオでも1人の患者が確認されており、いずれも広東省などを旅行中に感染した模様です(WHO 2017-1-18)。2月は春節で多くの人が移動するため、患者数がさらに増える可能性があります。流行地域に滞在中は生きた家禽の販売されている市場などに立ち入らないようにしましょう。


3)ドバイからの帰国者にレジオネラ症が多発(続報)

昨年10月から、UAEのドバイから帰国したヨーロッパ人旅行者にレジオネラ症の患者が多発しており、1月中旬までに患者数は33人になりました。(ECDC 2017-1-18)。このうち英国人旅行者が16人です。患者は特定の宿泊施設に滞在しておらず、感染源は今のところ不明です。ドバイから帰国後にカゼ症状などがある人は、早目に医療機関を受診するようにしましょう。


4)米国東部でライム病の患者数が増加

米国では昨年、ライム病の患者が3万人発生しました(ProMED 2016-12-29)。とくにペンシルバニア州では1万2000人と10年ぶりの数になっています。また、ニューヨーク州でも患者数が4000人と多くなっています。ライム病はマダニ媒介される細菌感染症で、急性期に発熱、発疹がみられるとともに、慢性期には神経系の障害や関節炎などをおこします。米国でも北東部に多く、春から夏に多発します。流行地域で野山をハイキングする際には、マダニに刺されないように注意する必要があります。


5)北半球における季節性インフルエンザの流行

本年1月になり北半球全体で季節性インフルエンザの流行が発生しています。今シーズン、日本ではA香港型(H3N2)が多くなっていますが、北米、ヨーロッパ、東アジアなど北半球全体でもA香港型の患者が増えています(WHO 2017-1-9)。この状況は2月末まで続くものと予想されます。


6)ブラジルで黄熱が流行

ブラジル南部のMina Gerais州で昨年12月中旬より黄熱が流行しています。今年の1月中旬までに患者数(疑い含む)は206人にのぼり、このうち53人が死亡しました(米州保健機関 2017-1-18)。また、隣接する大西洋岸のEspirito Santo州でも4人の疑い患者が発生した模様です。Mina Gerais州は昨年オリンピックの開催されたリオデジャネイロの北部に位置し、ベロオリゾンテなどの大都市もあります。今回の流行は森林内での流行と考えられていますが、今後、都市部に流行が波及すると、患者数がさらに増える可能性もあります。ブラジル入国にあたって黄熱ワクチンの接種は要求されていませんが、流行地域周辺に渡航する方は、短期滞在であっても黄熱ワクチンを受けておくことを推奨します。
 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2016年12月5日~2017年1月7日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2016.html

1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢4例、腸管出血性大腸菌感染症1例、腸・パラチフス1例、アメーバ赤痢10例、A型肝炎2例、E型肝炎2例、ジアルジア2例が報告されています。E型肝炎は2例とも中国での感染で、原因食品は刺身でした。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が13例で、前月(12例)とほぼ同じ数でした。感染国はフィリピン(4例)、ベトナム(3例)が多くなっています。2016年のデング熱累積患者数は最終的に335例になり、昨年の292例に比べて大幅に増加しました。マラリアは6例で、5例はアフリカ(ナイジェリア、ケニアなど)、1例はパプアニューギニアでの感染でした。チクングニア熱、ジカ熱の報告はありませんでした。

3)その他の感染症:麻疹のオーストラリアでの感染が1例報告されています。

 
・今月の海外医療トピックス

国際渡航医学会(ISTM)は25周年
2016年12月に国際渡航医学会が発行したTRAVEL MEDICINE NEWSは25周年の記念号でした。その中で国際渡航医学会の歴史として学会の設立の経緯が紹介されています。

1971年に米国のBert DuPontは、New England Journalにベトナムから帰還した米兵の下痢症の原因として毒素原性大腸菌が多いという論文を掲載し、その後、メキシコやグアテマラで旅行者下痢症の研究を続けます。またスイスのRobert Steffenは、1970年代中ごろからマラリア、ワクチンで予防可能な病気、旅行者下痢症など旅行者の健康上のリスクについて研究を始めます。2人は1980年代にスウェーデンで開催された消化器病学会で出会い意気投合し、1988年にチューリヒで500名の参加のもと最初の渡航医学会を開催することになりました。第2回の大会はアトランタで1991年に開催され、同年に国際渡航医学会(ISTM)が設立されました。現在では世界100国に3500名以上の会員を有する学会に発展しています。


今年は第15回の記念となる大会がバルセロナで2017年5月14日より開催されます。25周年の様々な催しも企画されるようです。(兼任講師 古賀才博) 参考:http://www.istm.org/cistm15 
 

・渡航者医療センターからのお知らせ


1)第17回渡航医学実用セミナー(当センター主催)
当センターでは、渡航医学に関連する実用的な話題についてのセミナーを定期的に開催しています。
今回は「外部資源を活用した海外勤務者の健康管理」をテーマに、下記の日程で開催します。
・日時:2017年2月16日(木曜) 午後2時~午後4時半
・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂
・対象:職種は問いません(どなたでも参加できます) ・参加費:無料 ・定員:約100名
・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。
・プログラム(詳細は当センターHPをご参照ください)http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html

2)第31回トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメデイカルサイエンス研究会主催)
今回は訪日留学生のワクチン接種やDPTワクチンをテーマに開催いたします。
・日時:2017年2月18日(土曜) 午後1時半~午後5時半
・場所:国立国際医療研究センター 研究所地下会議室(新宿区)
・プログラムや申込み方法は下記をご参照ください。 https://www.npo-bmsa.org/研修会-セミナー情報/トラベラーズワクチンフォーラム/