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インタビュー:アメリカン航空日本地区旅客営業本部長の稲場則夫氏

旅行会社を通じた流通戦略−手配の質を高めるサービス提供

 2008年10月の発券手数料の廃止(ゼロコミッション化)に続き、2009年4月1日から指定GDS/CRSを取り入れたアメリカン航空(AA)。透明性のある運賃設定とサービスフィーの明確化、手配の効率化が旅行会社の手配の質をさらに高めることにつながるとの見解だ。「流通戦略の上で欠かせない最大のパートナー」と認識する旅行会社との関連性とともに、今後の日本市場での販売戦略について、AA日本地区旅客営業本部長の稲場則夫氏に聞いた。




■ゼロコミッションの成果、旅行会社との関係性の変化

 AAにとって、コミッションの対象となる航空券の販売は少なく、コスト削減など数値的な効果も大きくはない。むしろ、ゼロコミッションのねらいは運賃の透明性をもたせること。価格の透明性を上げることで、旅行会社のより良い手配や料金設定につながると考えている。しかし、現在も一部の航空会社では表向きはゼロコミッションを導入しているものの、裏ではコミッションを支払っている事実があるようだ。とても残念に思うとともに、良い手配やサービスを提供する旅行会社が成長するのを妨げてしまうのではないか、と懸念もしている。また、旅行会社がせっかく自分のサービスに付加価値をつけて販売できるのに、コミッションにこだわる旅行会社が存在することも事実だ。

 AAとしては、質の高いサービスを提供する旅行会社が対価を得る環境が望ましいと考えており、今後もゼロコミッションを堅持していく。ゼロコミッションに対する旅行会社の反応も会社によって明確に分かれており、好意的に受け取ってくれている会社もある。AAとしては、コミッションの代わりに、ネット価格での座席の提供など、旅行会社にとってさらに充実したプログラムを提供していきたい。


■コミッションやGDS/CRS戦略に続く新たなコスト削減策

 GDSやCRSの指定や、シングルGDSポリシーを導入したねらいはコスト削減と効率化。シングルGDSポリシーは、AAのフライトを含む旅程を予約、発券する際に単一のGDSで処理することを求め、複数のGDSを使った旅行会社には手数料などを請求するもの。ただし、このポリシーは手数料収受が目的ではなく、1件の予約を複数のGDSで予約・発券することを避けてもらい、GDS側に支払うブッキングフィーを削減することが目的だ。こうしたGDS、CRSの指定などの施策はまだ第一ステージで、今後さらに新たな取り組みを進めたいと考えている。例えば、旅行会社に提供しているIT運賃を、指定したGDSやCRSだけに反映、表示することも検討中だ。

 また将来的にはオンラインを介して旅行会社、航空会社、空港などを繋ぐ新たなシステムの開発も検討している。われわれもこれから勉強するところだが、1つの旅程に複数の航空会社を利用している場合でもバゲージスルーにできたり、遅延などの情報を簡単に入手できるようになる。ヨーロッパではすでにはじまっており、AAでもすでにインドでテストを開始している。開発には航空会社だけでなく旅行会社との連携が必要だが、実現すればコスト削減と効率がさらに向上するだろう。


■航空会社による直販、旅行のオンライン販売など日本の旅行市場の変化について

 AAとしては、旅行会社抜きでのビジネスは考えられない。AAにとって旅行会社は最大のビジネスパートナーであり、販売戦略についても一緒に考えていきたい。AAもオンラインでの販売を展開しているが、外国航空会社のウェブ直販は日系航空会社に比べて消費者への浸透度が低い。

 最近ではIT運賃とPEX運賃の差がなくなってきているが、航空会社ウェブサイトでの購入と旅行会社での購入を比較すると、ビザの申請などネットでは完結しないサービスを提供してくれる旅行会社を選ぶだろう。個人的には、日本の旅行会社のクオリティは非常に高いと感じている。もちろん、日本人が欧米とは違い細やかなサービスを必要としているというのもあるだろう。ビザやESTAの申請などを見ても明確な情報を伝え、パスポートの残存期間がどれだけ必要かなど、旅程にあわせた情報提供と手配ができている。だからこそサービスフィーを収受してもらいたい。


ありがとうございました。

聞き手:編集長代理 松本裕一、構成:本誌記者 秦野絵里香