「MICEとは?」⑥「SMM~Strategic Meetings Management」の3原則
世界的なコンサルティング企業であるAberdeen Groupが2008年2月に発表した 「Strategic Meeting Management of MICE (Meetings, Incentives, Conferences, and Exhibitions) and Spend」リポートによると、大手企業の収入の3%近くがMICEに関わる支出と報告されています。
前回、MICEに関して「ROI(対費用効果)」を計測することは、今後のMICEにとってもっとも大切な挑戦であると書きましたが、MICEに関わる経費がそれだけ大きな額を占めていることを考えれば、大きな企業ほどそれを管理して効率の良い計画・運営をしていこうという「思考」が必要だと考えられます。特に、MICEに関して内需が圧倒的に占める割合の強い米国では、支出に関して一極的に管理しやすいというメリットがあるものと思われます。
同じく内需の支出の割合が圧倒的に多い我が国でも、SMMという考え方は今後一般的になってくるかも知れません。
◆「Strategic Meetings Management」の3原則
それではStrategic Meetings Management(以後、SMM)とは一体どのような考え方なのでしょうか? SMMは先行している米国でも理解は様々でしたが、SMMを推進するコンサルティング会社なども登場し、以下の3原則に落ち着いたようです。
(1)ミーティングに関わるコストを正確に計測する。効率の良いコストの運用をする。
(2)企業内でのROI(対費用効果)の関心を高めること。
(3)最適なミーティングの計画(またはデザイン)をする、運営する、管理するプロセス、手続きを導入すること。
米国では1970年代から、大手企業にTravel Managerというポジションが登場しました。企業の大きな支出を占める出張旅費を管理するのがその目的でした。HP(ヒューレットパッカード)のような大手米国企業は本社に200人を超す部署まで有し、特定の航空会社やホテルと契約して集中的に利用することと、その見返りの法人ボリューム・ディスカウントで大きなコスト削減を達成しました。現在米国の大手企業ではMICEを取り仕切るMeeting Plannerが存在していますが、SMMはProcurement Manager(購買の 責任者)も含んでの取り組みを意味します。
考えれば企業が何かを仕入れる時にはPurchasing Order(購買のリクエストフォーム) を準備し、これに誰かが適切な承認を与えるというプロセスは当然のことです。鉛筆1 本、コピー機のトナーひとつの購入までプロセスで管理している訳です。
◆ROIとSMMが補完し合うことはMICE成功への鍵
ところがMICEの場合はどうでしょうか?例えばミーティングひとつとっても、そこに 参加する人間の人件費、ホテルや会議施設等の場所のコスト、さらに他の土地で開催した場合の交通費など、実際に沢山のコストがかかっています。企業が各部署で勝手に計画、実施していたMICEを一定のプロセスの下に一元的に管理しようとしても不思議ではありません。ゼロックスのような大手企業は2006年にSMMを導入し、30%近いコスト をセーブしたとの報告もあります。
しかしながら、SMMの概念=COST CUTのように受け止められるのは必ずしもよいことだとは思えません。MICEの目的は、GOAL(目的)とOBJECTIVES(目標)を明確にし、成果を上げることに他なりません。言い換えればコストと成果はお互いを補完しあうべきであり、MICEの多くのケースはコストではなく投資と考えなければならない性格のものが多いからです。ROIとSMMが補完し合うことで、始めて成功するMICEのロードマップが描けるのではないでしょうか。
例えば、MICEの多くのプログラムで導入されるスピーカーなども、米国では講演終了後にキーボードにより、直ぐに点数を付けられ、評価されることがあります。
そのトピックスにあった話の内容、参加者に与えたインパクト等で採点されます。 スピーカーに払ったギャラと与えたインパクトとは必ずしも一致しないケースもあります。 全てのプロダクツやサービスと同じように、「安かろう、悪かろう」。つまりは品質を最重要に考えなければなりません。
あくまでのそのMICEの目指すアウトプットは何かを第一に、全てのMICEの計画で考える必要があります。
筆者:MPI Japan(Meeting Professionals International) 浅井新介 会長
プロフィール
東京生まれ。MICEビジネスのプランナーとして、イタリアへファッション・ビジネスの視察を実施、以後30年に渡り業界の経験を持つ。その後Westin Hotels 極東地区営業支配人、ユナイテッド航空代理店担当課長、法人営業部長、日本地区旅客営業部長を歴任しディストリビューションの整備にも貢献。スターウッドホテルズ日本の依頼により宮崎のシーガイア再生の為にセールスマーケティングの責任者として赴任。海外、国内の数千名規模のMICE獲得とその受け入れに成功し、リゾート再生に貢献した。