日本版DMOで観光まちづくり、観光データ活用へ、自主財源確保も
データ活用で戦略立案、官民協同でDMO立ち上げへ
自主財源確保を重視、効果測定課題に
ツーリズムEXPOジャパンでは9月26日の業界日に、「地域自らが来訪者を集める、新しい観光まちづくり ~集客の核として機能する日本版“DMO”とは~」と題するセミナーが開催された。DMOとはDestination Marketing/Management Organizationの略で、地域全体の観光マネジメントを一本化する、着地型観光のプラットフォーム組織を指す。欧米では一般的だが、日本では行政、観光業者、地域住民らの立場が分断されている現状がある。セミナーでは日本版DMOの導入について議論がおこなわれた。
DMO推進機構代表理事/NPOグローバルキャンパス理事長 大社充氏
近畿大学経営学部教授 高橋一夫氏
DMO推進機構常務理事/イデアパートナーズ代表取締役 井手修身氏
事業構想大学院大学教授 中嶋聞多氏
「住んでよし、訪れてよし」の観光まちづくり
データ把握し地域戦略を
大社氏は冒頭、観光客の増加は渋滞やゴミ問題などの環境悪化を招くことから、必ずしも地域住民に歓迎されていない面を指摘。また、年間訪問者数が100万人を超える地域でも住民が暮らすエリアではシャッター商店街で閑散としているなど、観光業の経済効果と住民の暮らしが分断されている問題を提起した。
そこで考慮すべきなのが、「観光」と「まちづくり」を統合して進める「観光まちづくり」の視点。観光まちづくりとは、観光による交流人口の拡大を通して「暮らしの質の向上」をめざすものだ。大社氏は「地域住民がハッピーでないと意味がない」として、「住んでよし、訪れてよし」という基本理念を強調した。
では、来訪者にとってはどのような場所が魅力的なのか。大社氏は日本で最も集客に成功している例として東京ディズニーリゾート(TDR)をあげた。しかし、TDRのマネジメントをそのまま地域で運用できるわけではない。株式会社が経営するTDRは資金や職務権限が明確な組織であるのに対し、地域には利害の異なる多様な人びとが暮らしているからだ。そのため地域の各ファクターを調整するマネジメントが必要となる。欧米には、地域の観光振興マネジメントを担う専門組織としてDMOが存在しているという。
大社氏は、DMOが普及していない日本では「地域にとって観光振興によるメリットはあるのか?」という問いの是非すら、数値として把握できていない状況だと指摘。観光施策を進める上でまず重要なのが、データによる実態の「見える化」だと説いた。
観光による消費額、雇用者数、税収の推移といった地域への経済効果や、どのような人が何人、何のために、どこからどのように来て、何度目の訪問か、といったデータが収集されていないケースも少なくない。大社氏は旅行会社が団体客を送客してきたこれまでの発地型から、個人客の増加に伴って地域自らが集客する着地型へとマーケットが変化する中で、地域の観光振興にはデータに基づいた科学的アプローチが必要だとした。
たとえば、1万人の観光客が土産物を2000円購入した場合、土産物の原材料の地域内調達率が90%ならば、地域の経済効果は1170万円となる。しかし10%ならわずか130万円と、大幅な違いが出る。こうしたデータから、地域の事業者が連携して商品やサービスの地域調達率を高める施策が考えられるという。
大社氏は、「観光まちづくり」は行政と観光業者だけでなく、農・商・工、NPO、市民などが参画し、官と民の「壁」を取り除くことが課題だと指摘。プロフェッショナルな人材を登用した広域DMOの設置による、マーケティングと観光戦略づくりの体制が必要だと主張した。