専門性で生き残る:「美術の旅」のアトリエトラベル

「現地で本物」こそが醍醐味
強みは自らの経験と人脈

江里口氏  OTAの躍進や相次ぐ他業界からの参入などにより、環境変化が進む旅行業界。しかしそのような状況でも、専門分野における経験とノウハウで勝負し、利用者の信頼を獲得し続けている旅行会社はまだまだ多い。そのような専門型旅行会社の現在の業況や今後の展望を紹介するシリーズ「専門性で生き残る」の第6回は、北原白秋の実弟が1924年に創業した美術誌出版社をルーツに持ち、「美術の旅」を専門とする第3種旅行業者のアトリエトラベルを紹介する。代表取締役を務める江里口智氏に話を聞いた。

-初めに、ご自身の経歴についてお聞かせください

江里口智氏(以下敬称略) アトリエトラベル以前は日本通運に勤務し、入社してから3年間は貨物の仕事に携わっていました。美術についてはもともと好きでしたが、国際貨物の輸出入で美術品を扱う機会があり、興味が増していった経緯があります。77年に日本でのエルミタージュ美術館展の開催のためにレンブラントの裸婦像「ダナエ」が運び込まれ、晴海の倉庫で実物を見た時には衝撃が走りました。本物の絵画が持つ魅力に圧倒されましたね。

 その後、美術に関係する仕事に携わりたいと思って異動願を出し、78年に日通の旅行事業部に配属されました。主に団体営業を担当しましたが、ブルガリアやメキシコでの二科展鑑賞ツアーをはじめ、能楽師の野村万作の舞台や、竹のインスタレーション展示会など、美術や芸術をテーマにしたツアーを造成して、グループのお客様を案内しました。自分が見たい美術館などを盛り込んだツアーの企画でも通っていたのは、配属された四谷支店の支店長に自由にさせてもらっていたからで、今では考えられないことですが、良い時代でした。

-アトリエトラベルには、どのようにして入社されたのでしょうか

江里口 当社は北原白秋の実弟の義雄が1924年に創業した、美術誌出版社のアトリエ出版社の旅行事業部として2000年10月にスタートしました。日通に入社して25年ほど経った頃のことで、私は当時の社長と懇意にしていたことから、退社して立ち上げに参加しました。

 その後、アトリエ出版社は2000年に社長が亡くなられて廃業してしまいますが、当時は知名度が高かったので、旅行事業にも勝算はあると感じていました。旅行事業部は、その翌年の2月には有限会社アトリエトラベルとして独立し、12年12月には株式会社化して現在に至ります。

 当社は、美術愛好家が海外へスケッチに行く、あるいは美術品の鑑賞に行くための旅行会社です。また、美術館巡りや展覧会だけでなく、ステンドグラスやポルトガルの伝統的なタイルの「アズレージョ」を鑑賞したり、オペラを聴いたり、ワインを堪能したりと、さまざまな切り口のツアーがあります。そのほか、他の旅行会社との横のつながりで、クルーズ旅行や南極旅行などもラインナップしています。