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もう1つの年頭所感-平成最後の田川氏新春インタビュー(前)

JATA年頭所感にないテーマを中心に
前編は30年を表す1文字、自身の業界入りの理由など

田川氏  本誌ではJTB代表取締役社長時代から毎年恒例となっている、日本旅行業協会(JATA)会長であり「業界の顔」とも言える田川博己氏の新春インタビュー。これまでは年頭所感や年頭会見でも取り上げられるような話題について詳しい話を聞いたものが多かったが、1989年から始まった平成が終わり新たな時代を迎える今年は趣向を変え、あえて年頭所感などには盛り込まれないテーマを中心に話を聞いた。前後編の2回に分けて掲載するうち、前編では平成の30年間の振り返りや、昨年に初の著作を上梓した理由などに関するコメントを紹介する。

-今年で平成の時代が終わりますが、この30年間を漢字1文字で表してみてください

田川博己氏(以下敬称略) あえて1文字で表すなら「激」が最も相応しいと思う。振り返ってみると、良い方にも悪い方にも大きく揺れ動いた激動の30年間だった。最初の10年間については、海外旅行は1988年に米国の観光ビザの取得用件が緩和されたことで、翌年からハワイ、グアム、西海岸などの人気が爆発した。海外旅行者数の急増によって、旅行会社は大きく成長することができた。一方で国内旅行は、91年の雲仙普賢岳の噴火や95年の阪神淡路大震災などの影響を大きく受けて苦しんだ。

 次の10年間は、2001年の米国同時多発テロ事件や、03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行など、海外旅行にとって試練となる出来事が連続した。一方で03年には、小泉内閣が観光立国を宣言し、VISIT JAPANキャンペーンを開始した。06年には「観光立国推進基本法」も制定し、08年には観光庁が発足するなど、訪日旅行の振興が国の成長戦略の柱として位置付けられることとなった。

 その後の10年間は、リーマンショックや日本航空(JL)の会社更生法適用に始まり、東日本大震災、イスラム教過激派によるテロ活動の活発化、さらには地球規模の気候変動などが世界を大きく揺さぶった。一方で、旅行業界ではデジタル化が急速に進展し、ビジネスのあり方が大きく変容し始めた。

-昨年には、初めての著作(中央経済社「観光先進国をめざして:日本のツーリズム産業の果たすべき役割」)を上梓されましたが、その理由と背景をお聞かせください

田川 これ以前にも「本を書いてほしい」と依頼されたことはあり、共著の形で書籍を刊行したり、各所で語った内容を1冊にまとめたりしたものはあるが、私1人で書いた著作物はこれが初めてだ。長年にわたり旅行業や観光業に携わってきた者としての「歴史観」を書いたつもりで、ほぼすべてを自分の経験や思いをもとに書いた。参考文献に拠った部分はわずか3ヶ所しかない。

 旅行業や観光業に関して、これまでにも優れた著作物が刊行されていることは承知している。しかし個人的な意見を申し上げれば、それらの著作物には旅行と観光に対する歴史観が欠けていたと思う。それを示すのが私の役割と考えて、1971年にJTBに入社してから40数年間にわたって見続けた、日本の旅行と観光についてまとめた。