ANAの「アバター事業」、瞬間移動で未来のサービス
ANAホールディングス(ANAHD)は3月29日、羽田空港で「ANA AVATAR VISION(ANAアバタービジョン)」について記者会見を開催した。アバターはもともと化身や分身といった意味の英単語で、2009年公開の同名映画によって広く知られている。今回のANAアバタービジョンは、インターネット経由で各地に置かれた分身ロボットと利用者を繋いで利用者のアバターとする枠組みをビジョンとして定めたもの。
ANAHDでは、先ごろに発表した中期経営戦略で「Society5.0(超スマート社会)」の実現への寄与を掲げており、今回のANAアバタービジョンもこの一環で策定。世界中に置かれた様々な分身ロボットがANAのプラットフォーム上で利用可能になるイメージで、同社によると世界初の取り組み。
ANAHD代表取締役社長の片野坂真哉氏は会見で、「ANAはエアライングループであり、身体を遠いところに運ぶのがビジネス」としつつ、アバターは「遠隔地に自分の意識や存在感を瞬時に移動して体験できる技術」であると説明。そして、それによって例えば休みが取れずに旅行に行けなかった父親や祖父母がアバターを介して擬似的に参加できるようになったり、あるいは遠隔地の難病患者に対して触診を含む医療サービスを提供できるようになったりする可能性があるとし、「未来のサービスに発展させていきたい」と意欲を語った。
ビジョンの実現に向けては、既存技術の活用だけでなく新たなイノベーションの促進もおこなう。米国のXPRIZE財団が主催する賞金総額1000万米ドルの賞金レースのテーマとして「ANA AVATAR XPRIZE」が採用されており、3月12日に概要が発表されるとともに約4年間のレースがスタート。参加チームの受け付けも始まり、すでに約150チームから申請が集まっているという。
この賞金レースの目的は汎用性の高い分身ロボットを作ること。既存技術は、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、触覚技術など各分野で進化を続けているものの、それらを統合して人間による様々な行動を広く再現できるロボットはないという。また、特に事前説明なく操作できることも条件としている。
一方、既存技術の活用では、大分県とタイアップして技術の市場テストを積極的におこなう。例えば、海上釣堀での釣りを遠隔操作で体験できるようにするといい、釣った魚を自宅などに届けるサービスも検討する。こうした取り組みを、医療や教育、観光、農林水産、宇宙開発などの分野で進めていく。早いものでは19年4月にも実際のサービス開始をめざすという。また、空港での接客などにも活用していく。
このほか、ANAマイレージクラブのマイルも利用可能な独自のクラウドファンディングサービス「WonderFLY」でスタートアップ企業も支援する。
なお、バーチャルな体験によって「本物への欲」(片野坂氏)も出ると見て本業とのシナジー効果にも期待するが、基本的には単体での収益事業をめざす考えだ。