豪州、70万人へ一致団結、日本市場再評価の動きも
さらなる路線誘致へ加速
日本向け予算増も
他デスティネーションを含めて近年の海外旅行市場ではまれに見る好況に沸くオーストラリア。全日空(NH)のシドニー線やカンタス航空(QF)のブリスベン線などによる座席の増加が大きな要因で、2016年は前年比22.7%増の41万3800人となり、さらに日本旅行業協会(JATA)との間では20年までに70万人をめざす覚書も交わしている。活況を一過性のものとせずいかに未来に繋げるか。5月14日から18日にかけてシドニーで開催された現地商談会「AUSTRALIAN TOURISM EXCHANGE(ATE)」で、オーストラリア政府観光局(TA)と各州・地域の観光局に現状と方針を聞いた。
▽オーストラリア政府観光局
ジョン・オサリバン氏(本局局長)
中沢祥行・ジョー氏(日本局長)
17年の目標は50万人で、この達成には前年比20.8%増の成長が求められるが、第1四半期は15%に留まった。しかし、オサリバン氏は「依然として15%から25%の間で伸びが続くと予想している」とコメント。主要市場では最も伸長しているといい、航空座席の増加だけでなくホテルやアトラクションなどのプロダクト開発が進んでいることも一因との分析だ。
20年の70万人に向けてはさらなる座席増が不可欠だが、オサリバン氏は「ついこの前までシドニーに1日2便しか飛んでいなかった。サステイナブルなキャパシティであることが大事」とコメント。その上で、まだ発表段階ではないものの、間もなく新路線就航が実現すると期待するとともに、今後について航空会社の判断次第ながら業務渡航需要の多いメルボルンやブリスベン、あるいはパースにも可能性があるとの認識を語った。
航空路線については、中沢氏も国際航空運送協会(IATA)で日本代表を務めた経験や人脈を活かして誘致を積極化。さらなる増枠を要する羽田は実現しても「早くて19年の冬ダイヤ」であるとの分析のもと、18年下期までに羽田以外で1路線を獲得したい考えだ。また、地方路線についても需要の掘り起こしなどの働かきかけを続けていくという。
このほかプロモーションでは、数年かけて展開中のフード&ワインの体験を打ち出す「美食大陸オーストラリア」と、水辺や海岸沿いの魅力をアピールする「絶景大陸オーストラリア」の2キャンペーンを軸とし、デジタルキャンペーンを強化。また、中沢氏はアボリジニの文化やアート、パワースポットなどにも光を当てたいと語った。
▽クイーンズランド州政府観光局
西澤利明氏(日本局長)
ゴールドコースト、ケアンズ、ブリスベンなどオーストラリアでも屈指のデスティネーションを抱え、オーストラリア全体の日本人訪問者数の約半数を占めるクイーンズランド。16年の日本人は25%増の18万9000人と好調であったが、ブリスベンへのQF就航が大きな追い風になった。訪日客の増加が航空路線の持続可能性を高めているという。
こうしたなかで、西澤氏は「お客様を運んでくるのは飛行機。本数がどれくらいになるかによって人数が決まってしまう」とコメント。州政府としてもアジアからの路線誘致に注力しており、昨年から専用予算として約30億円を投じ、特に中国と日本に投下。詳細は明かせないもののすでに話し合いは始まっているといい、70万人の達成に向けて「あと2便」を誘致したいと意欲を語った。
また、現地側のキャパシティとしてインフラ整備計画も紹介。特にブリスベンではシンガポールのマリーナベイサンズのような施設ができるといい、カジノやザ・リッツ・カールトンが入ることも決定。これ以外にもリバーサイドの再開発計画が多数あり、新しいデスティネーションになる可能性があるという。
なお、西澤氏はオーストラリアの観光業界に関わって33年、クイーンズランド州では17年目という重鎮だが6月に退任し、後任として以前日本事務所で務めていたポール・サマーズ氏が就く予定。サマーズ氏は日本語が堪能で市場の見識も深く、会場内でも州の関係者を中心に歓迎の声が聞かれており、西澤氏も「私と同じことをするのではなく、時代に即した新しい動きをやりたいようにやってほしい」と期待を語った。
▽ゴールドコースト観光局
小林芳美氏(マーケティングマネージャー)
16年の日本人は20%増。特に後半の伸びが大きく、今年に入っても順調。小林氏は、ブリスベン線の復活が市場に浸透するのに時間を要した可能性があると見る。伸びたセグメントはハネムーンやカップル、MICEで、欧州の影響もあって教育旅行も戻ってきている。ハネムーンやMICEはQFの就航が決まってから注力したマーケットで、ねらい通りの成果だ。
大手以外の旅行会社による商品造成も増えているところで、お客様の目に触れる機会が増えればさらなる需要拡大に繋がるとの分析。また、FITも増加傾向にあり、情報発信の効果もあってかトラムを使った街歩きも浸透。
お客様も滞在型の旅行を好まれるようになりつつあるなかで、局としても「単に旅行に来るというより、暮らすように自分の街のように楽しめる場所」としてのブランディングに着手。これに呼応するように、旅行会社側がコンドミニアムを使った滞在型商品を販売するといった流れも生まれつつある。
17年は、「保守的に見ても少なくとも10%増」をめざしているところ。新路線については、関西からの直行便復活に期待を語った。
▽トロピカル・ノースクイーンズランド観光局
坂本統氏(セールス&マーケティング・マネージャー・ジャパン)
ケアンズへの誘客を担う坂本氏は、16年について日本人訪問者数は21%増の11万人であったことから「良い1年だった」と総括。パッケージのほかMICEが45%増と大きく拡大。中小規模の法人が中心だが、LCCであるジェットスター航空(JQ)のみが就航する状況としては良い結果が得られたとの評価だ。
また、依然として旅行会社経由が77%と大きなウェイトを占めるが、FITも増加傾向。開設したばかりのFacebookページも活用しながら、BtoB、BtoCの両面で働きかけを強めていく。その際には、「これまでの年齢や性別によるターゲティングは限界が来ている」との認識から、目的やチャンネル別にアプローチの手段を選択していきたいという。
このほか、「ケアンズとしてのブランディング」にも取り組んでおり、例えばパームコーブとケアンズが別の街として扱われるケースがあるのに対し、ケアンズのパームコーブ地域といった形で認知されるよう活動。また、「グレート・バリア・リーフ」ではなく「グレートバリアリーフ」とするなど言葉の統一も進めており、旅行会社にも協力を呼びかけていく。