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トップインタビュー:シンガポール航空日本支社長のデイヴィッド・リム氏

  • 2011年7月11日

日本発需要は回復基調-羽田復便、LAX線のA380投入でさらに活性化を


 今年5月9日付けでシンガポール航空(SQ)日本支社長に就任したデイヴィッド・リム氏。東日本大震災後の大変な時期での着任となったが、日本発の需要については回復に向かっていると手応えを感じている。7月1日からは成田/ロサンゼルス線にエアバスA380型機を投入するなど、クオリティエアラインとしてのプロダクト・サービスに自信を示す。「立ち止まらず、常に向上していきたい」と語るリム氏に、市場の現状、SQの戦略、今後の抱負などを聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)


-まず、これまでの経歴をお聞かせください

デイヴィッド・リム氏(以下、敬称略) 1988年にシンガポール航空(SQ)に入社して今年で23年になる。これまでドイツ、スイス、英国、デンマーク、香港で仕事をし、日本は6ヶ国目。東日本大震災後という大変な時期に日本支社長に就任したが、日本で仕事ができることは本当に名誉なことだ。また、セールス&ディストリビューションをはじめ、貨物、子会社のシルクエアー(MI)など、さまざまな部門を経験させてもらったことも幸せなことだと思っている。


-震災や原発事故は日本の旅行市場に大きな影響を与えています。アウトバウンド/インバウンド両市場における現状と今後の見通しをお聞かせください


リム 3月11日の震災は確かに、両市場に大きな打撃を与えた。我々の路線では、日本発のアウトバウンドでは旅行会社の協力やSQのプロモーションのおかげで、4月の搭乗率は好調に推移した。新たな取り組みとして、オーストラリア政府観光局と提携し、共同でオーストラリアへの旅行者拡大を進めていく。特に日本はオーストラリアにとって大切なマーケットのひとつ。SQにとっても今年のプロモーションのカギとなる取り組みになるだろう。

 一方、インバウンドは大きく落ち込んでいるのが現状だ。海外の旅行者にとって放射能は大きな関心。我々も東京は問題ないと情報を発信しているが、なかなか需要が戻らない。(福島から離れた)大阪、名古屋、福岡でもインバウンド需要は落ちている。SQとしては、需給のバランスをとるために、羽田便を1日1便に減らすなど日本路線の供給量を減らしているところだ。

 ただし、今後は回復していくと思っている。日本政府観光局(JNTO)とも協力し、日本にメディアなどを送っており、やはり「百聞は一見にしかず」で、彼らが実際に(被災地以外は)問題がないことを伝えてくれれば、海外からの旅行者も戻ってくるのではないか。それを期待して冬期には羽田便を1日2便に復活させる予定だ。また、7月1日からシンガポール/成田/ロサンゼルス線にA380を投入し、供給量を約25%増やすことになる。これも、市場回復に対するSQの自信の表れであり、SQが日本市場を重視している証といえるだろう。


-日本ではこの10年ほど海外旅行者数の伸びが停滞しています。日本市場についてどのように認識していますか

リム 日本はSQにとって引き続き重要な市場だ。日本の経済は大きく、人口も多い。海外旅行の需要も潜在的には高いと思っている。日本人旅行者は質の高いプロダクトやサービスを求めるが、それはSQにとっても同じことだ。我々は素晴らしいプロダクトとサービスをリーズナブルな価格で提供していくことを心がけている。

 大切なことは、市場での地位を強化していくこと。これまで43年間、SQは日本市場での評価を高めてきた。私の仕事のひとつは、それをさらに高めていくことだと思っている。また、対外的には、旅行会社との関係も大切だ。日本に赴任して1ヶ月になるが、すでに旅行会社の方々と会い、仕事に対する誠実さに感銘を受けた。旅行需要が低迷している時も、SQを利用してお客様を送ってくれた。この親密な関係は維持していかなければならない。


-コミッションカット、燃油サーチャージなど航空会社と旅行会社との関係も変わってきています


リム SQは日本の旅行会社の誠実な仕事に敬意を持っている。我々のためにサポートをしていただいたなら、そのお返しをする方法を見つける必要があるだろう。残念ながら、羽田便は減便せざるを得なかったが、SQと旅行会社は協力して対処してきた。お互いに顧客に対して、ビジネスに対して、ソリューションを探していくことが大事だと思う。

 燃油サーチャージについては、SQは基準となるレベルがあり、それに基づいて決めている。基本的に世界中どの区間でも同じ燃油サーチャージを求めている。航空会社によっては、1ヶ月あるいは2ヶ月ごとに改定するが、SQは日本路線に関しては3ヶ月ごとの見直しにしている。SQの燃油サーチャージ・システムは原油価格高騰の負担を乗客と分かち合う適切な方法だと思っている。また、ほかの航空会社と比べてみれば、SQがリーズナブルな価格を提供しているのが分かるはずだ。


-日本政府は航空の自由化を進め、羽田空港の拡張も計画されています

リム 我々にとって喜ばしいことだ。昨年、深夜早朝枠ながらも羽田線を開設できた。しかし、乗客からのフィードバックによると、この時間帯だと羽田空港での公共交通機関に問題があるという声が多かった。昼間時間帯で飛ばすことができるなら、もっと大きな機材、例えばA380で東京とシンガポール、2つのビジネスセンターを結ぶことも可能ではないか。

 一方で、我々は成田も引き続き重視している。羽田便を開設したあとも成田便は維持しているし、震災後、需要が落ち込むなか羽田便は減便したが、成田便はそのままだ。我々は成田と羽田のいずれのビジネスチャンスも活かしたい。


-スターアライアンス・メンバーの全日空(NH)はユナイテッド航空(UA)/コンチネンタル航空(CO)やルフトハンザ・ドイツ航空(LH)と共同事業を進めています。同じメンバー航空会社としてNHとどのような関係を築いていくお考えですか

リム SQはNHと包括的なパートナーシップを組み、コードシェアなどで協力しあっている。両社が望むのであれば、次のステップに進むだろうが、現時点ではそれ以上のことは言えない。我々もNHもクオリティエアラインで、目標も同じだ。個人的な考えとして、将来、共同事業のような関係も起こりうるのではないかと思っている。


-今後日本でもLCCの競争が本格化していく予感があります。LCCとの競争をどうお考えですか


リム 多くの人がLCCについて誤解していると思う。低いコストがベストバリューではないということだ。LCCは座席をなるべく多く確保するために、キャビンは狭い。空港のハンドリングも低コストを追求するため、例えば、カウンターは少なく、並ぶ時間も長くなる。SQの戦略は、最高のサービスとプロダクトをリーズナブルな価格で提供すること。つまりバリュー・フォー・マネーの考えだ。

 とはいえ、LCCのコンセプトが間違いだとは思わない。LCCは市場を刺激し、需要を喚起している。それは我々にとってもいいことだ。日本市場ももっと活性化されることを願っている。LCCが日本に飛ぶことは、それだけ選択が増えることだろう。クオリティエアラインとLCC双方で市場を拡大させていければと思う。

 SQは今年5月、新しいLCCを100%子会社として設立することを発表した。まだ就航地は決まっていないが、中長距離路線を運航することになるので、日本に飛ぶ可能性もある。


-最後に在任中の目標をお聞かせください

リム 就任した時よりも日本でのビジネスをさらに発展させるというのが目標だ。強化していきたい分野はいろいろある。我々は現在マーケティングの分野でいい位置にいると思うが、その分野をさらに強めていきたい。サービスの質をさらに高めていき、収益を増やしていく。立ち止まることはできない。常に向上していく必要がある。


-ありがとうございました