取材ノート:JTB田川社長とHIS平林社長が対論(その2)−旅行会社の価値
トラベル懇話会新春講演会での、ジェイティービー(JTB)代表取締役社長の田川博己氏とエイチ・アイ・エス(HIS)代表取締役社長の平林朗氏の対論では、「店舗展開」「ウェブ戦略」「グローバル展開」「価格と価値」など、今日の旅行業界で課題とされるテーマについて意見が交わされた。昨日の第1回では主に2社の成長戦略を中心にまとめたが、両者の悩みや目標とその達成にむけた方法論など、共通する点も多いことに気づく。連載2回目の今回は、「価格と価値」といった旅行業の本質に加えて2社の関係性についても、会場からの質問も交えつつ両者の考えをお伝えする。司会進行はダイヤモンド・ビッグ会長の西川敏晴氏。
〜旅行会社の価値〜
これからは提案力。想像以上の感動や楽しみを感じてもらえる存在であり続けたい(平林氏)
この年に成長できないなら、旅行会社なんてやめてしまえ、の意気で取り組みたい(田川氏)
プロダクトアウトで付加価値ある商品を提供
−価格と価値の議論が続いているが、安売りについてどう捉えるか
JTB田川社長(以下、社名・敬称略) 旅行商品の値付けは難しい。旅行商品の構成要素を「航空券+宿泊+現地での移動など」と見た場合、航空券は価格を上下しても同じ質のサービスが提供され、安全性に問題があるわけではない。非常に特殊な商品だ。
HIS平林社長(以下、社名・敬称略) 初夢フェアではご迷惑をおかけしている。これはお客様に感謝をお伝えする年初の恒例行事になっている。今年は創業30周年の感謝を込めた還元商品だが、これを主力として売っていては会社が成立しないことを理解していただきたい。
実感として、消費者の価格志向は強まっていると感じる。旅行商品はデフレ状態だ。そのうえ価格が下がっても総需要が上がるわけではなく、パイの取りあい状態になってしまっている。これを脱却するためには、付加価値のある良い商品をつくっていくことが大切だ。新規デスティネーションを開拓して、旅行者がまだ知らないところを紹介するなど、企業側からの提案という「プロダクトアウト」が必要だろう。
−旅行会社は、高付加価値商品を売らなければ利益が出ない時代だが、具体的な成功例はあるか。高付加価値をどう作っていくのか
田川 旅行商品の価格と質はセットで議論されるべきだ。安い商品と安売り商品は違うと考えている。今は安売り商品も必要だが、中長期的にはプロダクトアウトが必要だ。もともと海外旅行は、昭和40年代の黎明期はすべてがプロダクトアウトだった。プロダクトアウトと消費者目線の「マーケットイン」の両方をしっかり取り上げていく会社が生き残れるのではないか。
もちろん、価格をつり上げるための付加価値にならないよう精査は必須だ。単価が安くても付加価値の高い商品もあるし、価格が安いこと自体が価値になる商品もあるだろう。売れる商品に価値があると考えた方が良い。ロイヤルロードのような製販一体の商品は高付加価値商品として成功している。
平林 高付加価値といえば自由旅行。お客様の要望にあわせてコンサルティング、提案、アドバイスを交え、その方にあった商品を作っていく。これを本来、一番の主力にしていきたい。旅行者の期待以上までクオリティを上げて、初めて価値のある商品になる。旅行商品はクチコミ力も重要で、満足度が高ければリピートに加えて、友だちを連れてくるという新規客の開拓にもつながる。ありきたりな商品の拡販を脱却していかなければ、旅行業としての存在価値自体を問われるのではないか。
高付加価値見据えた業者間取引、関係構築を
−安売りの話に関連して、旅行業界では業者間取引関係の改善もテーマとなっている。価格低下によるコストカットのしわ寄せはオペレーターなど取引先に及ぶと思うが、どう捉えているか
田川 価格を下げれば仕入れ値が下がるのは当然だが、難しい問題だ。JTBとしては、ランドオペレーターの位置づけをしっかりさせなければならない。言葉を選ばずにいえば、質の悪いオペレーターとは契約をしないということだ。良いものを提供してくれるオペレーターと契約をしていくべきだろう。オペレーターに付加価値があれば、当然その価値をもって商品を作れるわけで、旅行代金を高くできる。そういう関係でありたいと思う。
平林 我々も気を使っている。HISが「安かろう、悪かろう」だと思われている消費者の方もたくさんいるが、そうではないということを広告で示してもいる。ある程度の基準を旅行業界で設けてもいいように思う。消費者基準を守ったなかで健全な競争ができるよう、業界全体で取り組んでいくべきだ。
−燃油サーチャージの復活は、旅行商品の価格に影響があるか
田川 燃油サーチャージの復活は確実に旅行市場にダメージを与える。2008年に需要を大きく減退させた事実がはっきり示している。
また、旅行会社には燃油サーチャージを消費者に説明したり徴収したりするコストがかかるが、これを航空会社は負担しない。さらに、燃油サーチャージが旅行市場を冷え込ませるので、JTBでは燃油サーチャージを包括した値段を提示している。燃油サーチャージが復活すれば、それは旅行会社の負担になる。
そもそもすべての交通機関で、原価の上昇を客に負担させるのは航空会社だけだ。航空会社は市場を冷え込ませ需要を減退させた事実を振り返り、燃油サーチャージを加算するのではなく、プロモーションなどに注力して需要を上げていく方向に努力してほしい。
平林 同意。HISでも企画旅行商品には、すべてに「燃油サーチャージ込みです」という表記をしている。燃油サーチャージの上昇はすべて自社負担になる。旅行業界をあげて需要を喚起している真っ最中の2010年に燃油サーチャージが復活することは、してほしくない。「燃油サーチャージを取られるのか」という旅行者の気持ちが市場を冷え込ませ、需要へダメージを与えているのは、燃油サーチャージがなくなったとたんに需要が上向きになったことからも明らかだ。
商品を売るだけなら旅行業ではない
−2010年に海外旅行需要は成長するか
田川 冬季オリンピックやワールドカップ、上海万博などの大型イベントが充実している。2009年ほど何もない年も珍しいが、2010年は日米間オープンスカイなどの新しい要素もある。これだけ揃っている年に成長できないようなら、旅行会社なんてやめてしまえといいたくなる(笑)。そういう意気込みで取り組んでいきたい。
平林 確かに、首都圏空港の再拡張で容量が拡大するなか、ここで旅行者を増やせなければ旅行業界に未来はない。何としても総需要を上げるべく、がんばりたい。ただし肌感覚として2010年も景気は厳しいだろう。FITレジャー旅行者の財布の紐の締め具合は、2009年よりさらに厳しくなりそうな予感がする。気を引き締めていきたい。
−これからの時代、旅行会社の価値は何か。消費者に旅行会社が必要とされるには何が必要か
田川 なかなか難しく、かつ本質的なテーマだ。顧客の信頼を得て慕われ、旅行商品を買っていただくのはあたり前で、それだけでいいはずがない。21世紀に旅行会社が残るためには、海外でも国内でも地域開発、デスティネーション開発にしっかり取り組む姿勢が必要だ。商品を売るだけなら販売業で、旅行業ではない。旅行業をするためには、そこまで踏み込まなくてはならない。
販売業と旅行業とどちらかが正しいわけではないが、JTBとしては旅行業をしたい。交流文化産業からライフスタイル産業をめざしているわけだが、お客様の人生の感動の中にJTBがいるという目標を達成するためには、地域に根ざして地域の商品を一緒になって考え、創り上げて日本や世界で売る。そういう価値論が企業価値ではないか。
平林 私もほぼ同意見だが、加えてこれからの旅行会社には提案力が必要だと考える。いまの時代、インターネット上は情報過多であり、ネットで旅行情報を収集する時代は終わりつつあると考える。情報の真偽を含めて、良い情報を選択することが難しくなってきている。旅行会社として主体的に楽しい旅行をお勧めできるか。実際に参加していただいた方が想像していた以上に、感動なり楽しみを感じていただけるようなことができる存在であり続けたい。
両社の切磋琢磨に期待
−デスティネーション開発では、両社が共同でチャーター便を運航する可能性は。直行便のないデスティネーションに、集客力のある2社が共同でチャーター便を飛ばすといった戦略もあるのではないか
田川 改善すべき点はたくさんあるものの、昨年の制度改正でチャーターがしやすくなった。現在のところチャーターをするなら、共同運航がいちばん安全な手段。これまでもHISとの共同運航の実績があり、可能性はある。
平林 チャーター便は旅行会社にとってリスクが高い。オフラインのデスティネーションに飛ばして需要喚起をはかるような場合に、共同で運航できるなら宣伝なども含めてぜひしたい。それによってより多くの本数を飛ばせれば良い。
−JTBとHISは、互いにライバル意識はあるか
田川 大いにある。企画旅行や法人需要については会社の構造が違うので単純には比較できないが、FITについてはHISをライバル視している。オペレーションの違いもあり、FIT層の取り込みやスピード力では、正直なところHISに負けている。この分野をJTBグループとしてどのように取り込んでいくかは大きな課題だ。
平林 JTBは大きなライバルであり目標だ。JTBは98年の歴史を持つ会社で、HISとは会社の内容にも構造にも大きな違いがあるが、海外旅行市場においては人数でも売上高でもJTBを抜くことを目標にしている。さらに社員の給料や有給休暇もすべてJTBを超えられたらうれしい(笑)。
▽関連記事
◆取材ノート:JTB田川社長とHIS平林社長が対論(その1)−成長戦略(01.14)
〜旅行会社の価値〜
これからは提案力。想像以上の感動や楽しみを感じてもらえる存在であり続けたい(平林氏)
この年に成長できないなら、旅行会社なんてやめてしまえ、の意気で取り組みたい(田川氏)
プロダクトアウトで付加価値ある商品を提供
−価格と価値の議論が続いているが、安売りについてどう捉えるか
JTB田川社長(以下、社名・敬称略) 旅行商品の値付けは難しい。旅行商品の構成要素を「航空券+宿泊+現地での移動など」と見た場合、航空券は価格を上下しても同じ質のサービスが提供され、安全性に問題があるわけではない。非常に特殊な商品だ。
HIS平林社長(以下、社名・敬称略) 初夢フェアではご迷惑をおかけしている。これはお客様に感謝をお伝えする年初の恒例行事になっている。今年は創業30周年の感謝を込めた還元商品だが、これを主力として売っていては会社が成立しないことを理解していただきたい。
実感として、消費者の価格志向は強まっていると感じる。旅行商品はデフレ状態だ。そのうえ価格が下がっても総需要が上がるわけではなく、パイの取りあい状態になってしまっている。これを脱却するためには、付加価値のある良い商品をつくっていくことが大切だ。新規デスティネーションを開拓して、旅行者がまだ知らないところを紹介するなど、企業側からの提案という「プロダクトアウト」が必要だろう。
−旅行会社は、高付加価値商品を売らなければ利益が出ない時代だが、具体的な成功例はあるか。高付加価値をどう作っていくのか
田川 旅行商品の価格と質はセットで議論されるべきだ。安い商品と安売り商品は違うと考えている。今は安売り商品も必要だが、中長期的にはプロダクトアウトが必要だ。もともと海外旅行は、昭和40年代の黎明期はすべてがプロダクトアウトだった。プロダクトアウトと消費者目線の「マーケットイン」の両方をしっかり取り上げていく会社が生き残れるのではないか。
もちろん、価格をつり上げるための付加価値にならないよう精査は必須だ。単価が安くても付加価値の高い商品もあるし、価格が安いこと自体が価値になる商品もあるだろう。売れる商品に価値があると考えた方が良い。ロイヤルロードのような製販一体の商品は高付加価値商品として成功している。
平林 高付加価値といえば自由旅行。お客様の要望にあわせてコンサルティング、提案、アドバイスを交え、その方にあった商品を作っていく。これを本来、一番の主力にしていきたい。旅行者の期待以上までクオリティを上げて、初めて価値のある商品になる。旅行商品はクチコミ力も重要で、満足度が高ければリピートに加えて、友だちを連れてくるという新規客の開拓にもつながる。ありきたりな商品の拡販を脱却していかなければ、旅行業としての存在価値自体を問われるのではないか。
高付加価値見据えた業者間取引、関係構築を
−安売りの話に関連して、旅行業界では業者間取引関係の改善もテーマとなっている。価格低下によるコストカットのしわ寄せはオペレーターなど取引先に及ぶと思うが、どう捉えているか
田川 価格を下げれば仕入れ値が下がるのは当然だが、難しい問題だ。JTBとしては、ランドオペレーターの位置づけをしっかりさせなければならない。言葉を選ばずにいえば、質の悪いオペレーターとは契約をしないということだ。良いものを提供してくれるオペレーターと契約をしていくべきだろう。オペレーターに付加価値があれば、当然その価値をもって商品を作れるわけで、旅行代金を高くできる。そういう関係でありたいと思う。
平林 我々も気を使っている。HISが「安かろう、悪かろう」だと思われている消費者の方もたくさんいるが、そうではないということを広告で示してもいる。ある程度の基準を旅行業界で設けてもいいように思う。消費者基準を守ったなかで健全な競争ができるよう、業界全体で取り組んでいくべきだ。
−燃油サーチャージの復活は、旅行商品の価格に影響があるか
田川 燃油サーチャージの復活は確実に旅行市場にダメージを与える。2008年に需要を大きく減退させた事実がはっきり示している。
また、旅行会社には燃油サーチャージを消費者に説明したり徴収したりするコストがかかるが、これを航空会社は負担しない。さらに、燃油サーチャージが旅行市場を冷え込ませるので、JTBでは燃油サーチャージを包括した値段を提示している。燃油サーチャージが復活すれば、それは旅行会社の負担になる。
そもそもすべての交通機関で、原価の上昇を客に負担させるのは航空会社だけだ。航空会社は市場を冷え込ませ需要を減退させた事実を振り返り、燃油サーチャージを加算するのではなく、プロモーションなどに注力して需要を上げていく方向に努力してほしい。
平林 同意。HISでも企画旅行商品には、すべてに「燃油サーチャージ込みです」という表記をしている。燃油サーチャージの上昇はすべて自社負担になる。旅行業界をあげて需要を喚起している真っ最中の2010年に燃油サーチャージが復活することは、してほしくない。「燃油サーチャージを取られるのか」という旅行者の気持ちが市場を冷え込ませ、需要へダメージを与えているのは、燃油サーチャージがなくなったとたんに需要が上向きになったことからも明らかだ。
商品を売るだけなら旅行業ではない
−2010年に海外旅行需要は成長するか
田川 冬季オリンピックやワールドカップ、上海万博などの大型イベントが充実している。2009年ほど何もない年も珍しいが、2010年は日米間オープンスカイなどの新しい要素もある。これだけ揃っている年に成長できないようなら、旅行会社なんてやめてしまえといいたくなる(笑)。そういう意気込みで取り組んでいきたい。
平林 確かに、首都圏空港の再拡張で容量が拡大するなか、ここで旅行者を増やせなければ旅行業界に未来はない。何としても総需要を上げるべく、がんばりたい。ただし肌感覚として2010年も景気は厳しいだろう。FITレジャー旅行者の財布の紐の締め具合は、2009年よりさらに厳しくなりそうな予感がする。気を引き締めていきたい。
−これからの時代、旅行会社の価値は何か。消費者に旅行会社が必要とされるには何が必要か
田川 なかなか難しく、かつ本質的なテーマだ。顧客の信頼を得て慕われ、旅行商品を買っていただくのはあたり前で、それだけでいいはずがない。21世紀に旅行会社が残るためには、海外でも国内でも地域開発、デスティネーション開発にしっかり取り組む姿勢が必要だ。商品を売るだけなら販売業で、旅行業ではない。旅行業をするためには、そこまで踏み込まなくてはならない。
販売業と旅行業とどちらかが正しいわけではないが、JTBとしては旅行業をしたい。交流文化産業からライフスタイル産業をめざしているわけだが、お客様の人生の感動の中にJTBがいるという目標を達成するためには、地域に根ざして地域の商品を一緒になって考え、創り上げて日本や世界で売る。そういう価値論が企業価値ではないか。
平林 私もほぼ同意見だが、加えてこれからの旅行会社には提案力が必要だと考える。いまの時代、インターネット上は情報過多であり、ネットで旅行情報を収集する時代は終わりつつあると考える。情報の真偽を含めて、良い情報を選択することが難しくなってきている。旅行会社として主体的に楽しい旅行をお勧めできるか。実際に参加していただいた方が想像していた以上に、感動なり楽しみを感じていただけるようなことができる存在であり続けたい。
両社の切磋琢磨に期待
−デスティネーション開発では、両社が共同でチャーター便を運航する可能性は。直行便のないデスティネーションに、集客力のある2社が共同でチャーター便を飛ばすといった戦略もあるのではないか
田川 改善すべき点はたくさんあるものの、昨年の制度改正でチャーターがしやすくなった。現在のところチャーターをするなら、共同運航がいちばん安全な手段。これまでもHISとの共同運航の実績があり、可能性はある。
平林 チャーター便は旅行会社にとってリスクが高い。オフラインのデスティネーションに飛ばして需要喚起をはかるような場合に、共同で運航できるなら宣伝なども含めてぜひしたい。それによってより多くの本数を飛ばせれば良い。
−JTBとHISは、互いにライバル意識はあるか
田川 大いにある。企画旅行や法人需要については会社の構造が違うので単純には比較できないが、FITについてはHISをライバル視している。オペレーションの違いもあり、FIT層の取り込みやスピード力では、正直なところHISに負けている。この分野をJTBグループとしてどのように取り込んでいくかは大きな課題だ。
平林 JTBは大きなライバルであり目標だ。JTBは98年の歴史を持つ会社で、HISとは会社の内容にも構造にも大きな違いがあるが、海外旅行市場においては人数でも売上高でもJTBを抜くことを目標にしている。さらに社員の給料や有給休暇もすべてJTBを超えられたらうれしい(笑)。
▽関連記事
◆取材ノート:JTB田川社長とHIS平林社長が対論(その1)−成長戦略(01.14)