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事故の風化を観光で防止、次世代への伝達を-JATAセミナー

  • 2014年10月14日

東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授の島川崇氏 東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授の島川崇氏は、ツーリズムEXPOジャパン2014で開催したセミナー「風化してゆく象徴的事故の現実と観光の力~“旅の安心・安全”の実現再考~」で講演を実施した。同氏は「事故は忘れた頃にやってくる。また、忘れるから大きな被害になる」とし、「忘れないためには次世代に伝えていく必要がある」と訴えた。

 島川氏は現在、東洋大学で重大事故の風化と観光をテーマに研究を実施。セミナーでは事故の風化を防ぐ方法として「ダーク・ツーリズム」を提案した。ダーク・ツーリズムは英国発祥で、観光を学びの手段として捉え、戦争や災害の被災地など、死や災害などの辛い体験をあえて観光対象とするもの。同氏は「東日本大震災を経験した日本にとって、悲しみに寄り添って、悲しみに触れている人と共感しあう要素を深めていくことが日本型のダーク・ツーリズムである」とし、これまで日本では同分野があまり取り上げられてきていないことについて、ダーク・ツーリズムの必要性を強調した。

 ダーク・ツーリズムの例として、島川氏は自身が実施している活動を説明。昨年、同氏のゼミに航空会社への就職を希望する学生が多く参加。しかし、同氏は「彼女たちが見ているのは表面的な華やかな部分だけ」と述べ、「それだけではなく命を預かる仕事に携わるという覚悟と、安心安全を実現するための普段の努力が必要」と指摘した。

 このことから、日本航空(JL)の123便墜落事故が起きた上野村地域の人達と大学が協力することで何かできるのではと考え、上野村でのボランティア活動を昨年8月から開始した。昨年は、登山道の清掃や手すり磨き、献花用生花の運搬、灯篭流し補助、慰霊式典準備などをおこなったという。同氏は活動の成果として「現実を見たことで『自分が航空会社の将来を担っていかなければいけない』などゼミ生の意識も大きく変わった」と説明した。

 またセミナーでは、風化した事故の一例として1966年に起きた全日空(NH)の松山沖墜落事故について言及。「事故の起きた11月13日になってもニュースにもならないし、誰も気にも留めない」と語り、「最近の学生は、全日空は事故を起こしたことがない安全な航空会社、日本航空は過去に事故を起こした航空会社というイメージがある」と現状を説明した。これを踏まえ、同氏は航空会社にとって風化は不都合な真実の隠蔽につながる可能性があると課題を指摘。そのため、被災地を観光地化し「第3者である一般の人が訪問できるようにしすべての情報を開示する」ことで風化を防ぐ必要があると訴えた。

 島川氏は「事故の被害を最小限に留めるには、忘れない。事故の現場に関わった人達の思いを次世代に伝えていく必要がある」とコメント。また、「旅行業界の皆さんには大きなビジョンを持ってほしい。観光がこれからも選ばれるレジャーであるためには、質の高い安心安全を提供できる旅を作ること」とし、「将来まで選ばれるレジャーにしてもらえるように期待している」と語った。

 なお、同セミナーは東京海上日動火災保険が主催。同社旅行業営業部次長の松尾篤政氏は「保険会社にはどのようなときに事故が起きるのかなどのデータが多くある」ことから、「これらを活用して、事故が起きないように今後も旅行業界の方と一緒に考え、協力していきたい」と述べた。