トップインタビュー:アクセス国際ネットワーク代表取締役社長 松原善朗氏
発券冊数シェア5割を死守へ
変化する市場に地域のニーズ実現で対応
旅行会社が顧客から要望された予約手続きを済ませる時、必要なのがコンピュータ・リザベーション・システム(CRS)やグローバル・ディストリビューション・システム(GDS)と呼ばれる旅行予約システム。航空座席の予約、販売という流通の側面から、欠かせない存在だ。中でも、旅行業界、航空業界がコスト効率や省力化、さらにはeチケット化へと進んでいる中で、アクセス国際ネットワークも変革を遂げているところ。現在の状況や今後の見通しなどを同社代表取締役社長の松原善朗氏に聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
−現在の契約端末数と最近の動向を教えてください
松原善朗氏(以下、松原) 昨年6月に端末台数が2万台を超え、今年5月末現在では2万2000台だ。インターネット等の進化で端末が縮小していくと予想されていたが、現実はまだ伸びている。
日本市場での弊社のシェアをBSP発券冊数から見ると、約5割程度を占めている。10年ごろ前に他社が進出して、一時期は発券冊数シェアでは5割を切る時期もあったが、概ね底を打ち、歯止めがかかったという状況ではないだろうか。
日本地区最大のコンピュータ・リザベーション・システム(CRS)会社として、これまで蓄積してきた経験、知識などを使い、最高品質の流通システムを展開することで航空、旅行業の発展に貢献するという社是をこれからも実現していきたい。日本のトップシェアを維持し、発券冊数シェアの5割前後を死守したいと考えている。
−「歯止めがかかった」との認識だが、具体的には今後、どのような施策を続けていくか
松原 16年前の会社設立から10年間の環境は、ある意味で「温室」であっただろう。GDSが日本市場に進出してきた時、GDSと戦う体制が対応できていなかったこと、特に「人」の育成が十分ではないことに気づいた。これらの点を踏まえ、組織の見直し、システム開発力の向上、ネットワーク効果を主に体制を整えている。
まず、組織では営業部を代理店営業とエアライン営業に分けて改編、これにマーケティング部を新設した。これらは資金やリソースの不足でGDSに遅れをとるのではなく、組織の改善で効果的に動ける体制を目指した。
システム開発は予算を含めて不足気味だが、その一方、日本市場で求められる機能を効率よく開発していく方向を改めて打ち出した。プライオリティをつけなおし、最低限として日本市場で求められるシステム・機能を開発し、この2年ぐらいで、機能的にはキャッチアップできているのではないだろうか。
三点目は最も重要なネットワークだ。弊社で全国に東京、大阪、名古屋、福岡、札幌に支店を持つ。支店では講習会を開催するなど、地域のニーズに対応し、セールス・スタッフは地域の営業だけでなく、カスタマー・サポートとしての役割も果たしている。
こうした一連の流れはカスタマー・サポートの維持という観点から、CS戦略委員会などで、サービスのスタンダードを高めるように指示しているところだ。特に、コールセンターは営業のフォローアップにもなることから、社内のスタッフが情報を共有できる仕組みも整えた。
旅行会社を対象とした講習会では「アクセスから研修を始める」という企業が多く、信頼をいただいているという点でありがたいと思うと共に、さらに内容、質を高めるようにしていきたい。こうした取組みのひとつとして、テレビ会議のシステムを利用し、東京と各支店を結んだ講習を行っている。これにより、特に運賃などの細かい点まで丁寧に説明する一段と高いレベルの講習を各地で提供できるようになっている。
−eチケットへの移行への対応はどのような状況か
松原 航空会社、国際航空運送協会(IATA)の制度変更には、決定に従い対応をしていく。弊社の企業理念は、航空会社と旅行会社の発展に寄与することであり、こうしたルール変更にきっちりと対応していく。eチケットによるコストの効率化はメリットの大きく、航空各社のeチケット対応を各社の進捗にあわせて進めているところ。新たに設定された2008年5月末の期限までには、eチケットのカバー率は99%となる。100%にならないのは航空会社の事情によるもので、eチケットにできるものは100%対応している数値だ。
eチケット化に際しては、使い勝手の良い機能であることも求められている。特に日本では、グループ予約機能は重要な要素だ。そのほか、パッシブET機能など開発を進めているところだ。コストや業務の省力化に繋がることであれば開発のプライオリティを上げ、きめ細かく対応をしていく。また、運賃も多様化してきており、「票なび」、「Nなび」などの機能で簡易的にタリフを表示できるツールを提供している。
システム全般をみると、GDSと比べオールマイティではないが、セミ・オーダーメイドの感覚がある。つまり、セールスやカスタマー・サポートを通じて寄せられる声に、プライオリティをつけながら対応するという形だ。この秋にはセーバーが世界的に展開している新運賃システムに移行する予定だ。多様化する運賃への対応、正確な運賃の計算など、業務の効率化と共に旅行会社の販売増に繋がっていくと良いと思う。
−システム開発では旅行会社も必要としている部分。御社が旅行会社のシステム開発などを手がけることは
松原 注目されていたXMLリンクは、資金力が必要で、大手企業への対応が中心となる。これと同時に、中小の旅行会社、あるいはインハウス系旅行会社への対応が重要だろう。XMLのように大きな負担ではなく、中小旅行会社の悩み、要望を実現できる小回りの利く提案をしていきたい。
ただ、ダイナミック・パッケージの動向、日進月歩のシステム開発などを見ていると、例えば2年前の開発コストと現在を比べると半額で済む場合もある。また、システム開発は時間がかかり、投資に見合うリターンを得られるかという点ではリスクも高い。現在は、各種の動向を鋭意注視し、次の展開に向けて勉強を進めているというところだ。
−航空会社との協力による新たな展開は
松原 航空会社、特に外資系航空会社から「アクセスでは何ができるのか」とお問い合わせをいただくことが増えてきた。プライマリCRS契約を締結していただく企業も現れ、こうした点は先述の「底を打った」という実感のひとつだ。最近は航空会社と共同で旅行会社を対象としたセミナーを開催しているが、これは単独でセミナーを開催するよりも両社とも多くの旅行会社の方に参加していただくことができ、メリットが生まれる。「アクセスだからできること」を打ち出すことができるひとつの要素だろう。
さらに弊社は、特に中国系の航空会社との関係が密接になってきている。中国でCRSを展開しているトラベルスカイとの提携により、中国の各航空会社との親密度が増していることが背景にある。今後はニーズがあれば、アライアンスでセミナーの開催などに協力できることがあれば取り組むこともひとつのアイデアだろう。
−旅行、航空会社とも最近は「グローバリズム」の波に対応しており、御社も同様だろう。どのように対応していくか
松原 よく「グローバリズム」と言われるが、アメリカやヨーロッパの打ち出す方向性が流れの根底にある。その一方で、東南アジア、東アジアではグローバリズムは必ずしもうまくいかないと欧米の方から聞く。理由は民族、文化、言語など様々だが、旅行の流通でも大きな違いがある。グローバルでは、スタンダードに従わないものは排除するというスタンスがあるが、われわれは共存共栄を目指すCRSとして維持していきたいと考えている。例えば、3年前ほどから弊社のほか、インフィニ、韓国のトーパス、中国のトラベルスカイの4社が「4C(4つのCRSの意味)」として、全員が発展をしていく姿を見据えた会議を開催している。こうした背景には、互いに伸びていく、成長をしていくという姿を見ている。
今後もGDSの力は強まってくると思われるが、弊社は日系のCRSとして協力できるところを協力し、生き残れるように努力していきたい。特に旅行の流通という観点からすると、GDSが機能が豊富で百貨店とするならば、CRSは専門店でカスタム、あるいはセミ・オーダー的な形で続けて行きたい。
旅行・航空業界を取り巻く環境も格安航空会社(LCC)の進出、IATA運賃の全世界的な見直しの機運など、あらゆることが変化の波にさらされている。しかし、LCCも当初は自社サイトでの予約・販売から、GDSと契約をする方向に変化しており、変化そのものも1年から2年で考え方が変わっていくなど、激しい時代にある。弊社としては情報をアップデートし、いろいろな選択肢を勘案しつつ、備えていく。
−前期の売上高は109億円だが、今期の予想は
松原 売上高はこの1年、2年は概ね変化しないと想定している。ただし、その中身は厳しい。大きく分けると、航空会社のブッキングフィー、旅行会社の端末利用料で構成されているが、航空会社から料金を下げて欲しいという考えで、この数年はブッキングフィーによる収入は伸びないだろう。つまり本業は伸びない中、今まで以上に効率を上げ、低コストで収益を上げることがこの1年から2年の課題だ。流通コストが下がることを前提に、ブッキングフィーが減少しても、他社と対抗していける企業体力をつけたい。
変化する市場に地域のニーズ実現で対応
旅行会社が顧客から要望された予約手続きを済ませる時、必要なのがコンピュータ・リザベーション・システム(CRS)やグローバル・ディストリビューション・システム(GDS)と呼ばれる旅行予約システム。航空座席の予約、販売という流通の側面から、欠かせない存在だ。中でも、旅行業界、航空業界がコスト効率や省力化、さらにはeチケット化へと進んでいる中で、アクセス国際ネットワークも変革を遂げているところ。現在の状況や今後の見通しなどを同社代表取締役社長の松原善朗氏に聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎)
−現在の契約端末数と最近の動向を教えてください
松原善朗氏(以下、松原) 昨年6月に端末台数が2万台を超え、今年5月末現在では2万2000台だ。インターネット等の進化で端末が縮小していくと予想されていたが、現実はまだ伸びている。
日本市場での弊社のシェアをBSP発券冊数から見ると、約5割程度を占めている。10年ごろ前に他社が進出して、一時期は発券冊数シェアでは5割を切る時期もあったが、概ね底を打ち、歯止めがかかったという状況ではないだろうか。
日本地区最大のコンピュータ・リザベーション・システム(CRS)会社として、これまで蓄積してきた経験、知識などを使い、最高品質の流通システムを展開することで航空、旅行業の発展に貢献するという社是をこれからも実現していきたい。日本のトップシェアを維持し、発券冊数シェアの5割前後を死守したいと考えている。
−「歯止めがかかった」との認識だが、具体的には今後、どのような施策を続けていくか
松原 16年前の会社設立から10年間の環境は、ある意味で「温室」であっただろう。GDSが日本市場に進出してきた時、GDSと戦う体制が対応できていなかったこと、特に「人」の育成が十分ではないことに気づいた。これらの点を踏まえ、組織の見直し、システム開発力の向上、ネットワーク効果を主に体制を整えている。
まず、組織では営業部を代理店営業とエアライン営業に分けて改編、これにマーケティング部を新設した。これらは資金やリソースの不足でGDSに遅れをとるのではなく、組織の改善で効果的に動ける体制を目指した。
システム開発は予算を含めて不足気味だが、その一方、日本市場で求められる機能を効率よく開発していく方向を改めて打ち出した。プライオリティをつけなおし、最低限として日本市場で求められるシステム・機能を開発し、この2年ぐらいで、機能的にはキャッチアップできているのではないだろうか。
三点目は最も重要なネットワークだ。弊社で全国に東京、大阪、名古屋、福岡、札幌に支店を持つ。支店では講習会を開催するなど、地域のニーズに対応し、セールス・スタッフは地域の営業だけでなく、カスタマー・サポートとしての役割も果たしている。
こうした一連の流れはカスタマー・サポートの維持という観点から、CS戦略委員会などで、サービスのスタンダードを高めるように指示しているところだ。特に、コールセンターは営業のフォローアップにもなることから、社内のスタッフが情報を共有できる仕組みも整えた。
旅行会社を対象とした講習会では「アクセスから研修を始める」という企業が多く、信頼をいただいているという点でありがたいと思うと共に、さらに内容、質を高めるようにしていきたい。こうした取組みのひとつとして、テレビ会議のシステムを利用し、東京と各支店を結んだ講習を行っている。これにより、特に運賃などの細かい点まで丁寧に説明する一段と高いレベルの講習を各地で提供できるようになっている。
−eチケットへの移行への対応はどのような状況か
松原 航空会社、国際航空運送協会(IATA)の制度変更には、決定に従い対応をしていく。弊社の企業理念は、航空会社と旅行会社の発展に寄与することであり、こうしたルール変更にきっちりと対応していく。eチケットによるコストの効率化はメリットの大きく、航空各社のeチケット対応を各社の進捗にあわせて進めているところ。新たに設定された2008年5月末の期限までには、eチケットのカバー率は99%となる。100%にならないのは航空会社の事情によるもので、eチケットにできるものは100%対応している数値だ。
eチケット化に際しては、使い勝手の良い機能であることも求められている。特に日本では、グループ予約機能は重要な要素だ。そのほか、パッシブET機能など開発を進めているところだ。コストや業務の省力化に繋がることであれば開発のプライオリティを上げ、きめ細かく対応をしていく。また、運賃も多様化してきており、「票なび」、「Nなび」などの機能で簡易的にタリフを表示できるツールを提供している。
システム全般をみると、GDSと比べオールマイティではないが、セミ・オーダーメイドの感覚がある。つまり、セールスやカスタマー・サポートを通じて寄せられる声に、プライオリティをつけながら対応するという形だ。この秋にはセーバーが世界的に展開している新運賃システムに移行する予定だ。多様化する運賃への対応、正確な運賃の計算など、業務の効率化と共に旅行会社の販売増に繋がっていくと良いと思う。
−システム開発では旅行会社も必要としている部分。御社が旅行会社のシステム開発などを手がけることは
松原 注目されていたXMLリンクは、資金力が必要で、大手企業への対応が中心となる。これと同時に、中小の旅行会社、あるいはインハウス系旅行会社への対応が重要だろう。XMLのように大きな負担ではなく、中小旅行会社の悩み、要望を実現できる小回りの利く提案をしていきたい。
ただ、ダイナミック・パッケージの動向、日進月歩のシステム開発などを見ていると、例えば2年前の開発コストと現在を比べると半額で済む場合もある。また、システム開発は時間がかかり、投資に見合うリターンを得られるかという点ではリスクも高い。現在は、各種の動向を鋭意注視し、次の展開に向けて勉強を進めているというところだ。
−航空会社との協力による新たな展開は
松原 航空会社、特に外資系航空会社から「アクセスでは何ができるのか」とお問い合わせをいただくことが増えてきた。プライマリCRS契約を締結していただく企業も現れ、こうした点は先述の「底を打った」という実感のひとつだ。最近は航空会社と共同で旅行会社を対象としたセミナーを開催しているが、これは単独でセミナーを開催するよりも両社とも多くの旅行会社の方に参加していただくことができ、メリットが生まれる。「アクセスだからできること」を打ち出すことができるひとつの要素だろう。
さらに弊社は、特に中国系の航空会社との関係が密接になってきている。中国でCRSを展開しているトラベルスカイとの提携により、中国の各航空会社との親密度が増していることが背景にある。今後はニーズがあれば、アライアンスでセミナーの開催などに協力できることがあれば取り組むこともひとつのアイデアだろう。
−旅行、航空会社とも最近は「グローバリズム」の波に対応しており、御社も同様だろう。どのように対応していくか
松原 よく「グローバリズム」と言われるが、アメリカやヨーロッパの打ち出す方向性が流れの根底にある。その一方で、東南アジア、東アジアではグローバリズムは必ずしもうまくいかないと欧米の方から聞く。理由は民族、文化、言語など様々だが、旅行の流通でも大きな違いがある。グローバルでは、スタンダードに従わないものは排除するというスタンスがあるが、われわれは共存共栄を目指すCRSとして維持していきたいと考えている。例えば、3年前ほどから弊社のほか、インフィニ、韓国のトーパス、中国のトラベルスカイの4社が「4C(4つのCRSの意味)」として、全員が発展をしていく姿を見据えた会議を開催している。こうした背景には、互いに伸びていく、成長をしていくという姿を見ている。
今後もGDSの力は強まってくると思われるが、弊社は日系のCRSとして協力できるところを協力し、生き残れるように努力していきたい。特に旅行の流通という観点からすると、GDSが機能が豊富で百貨店とするならば、CRSは専門店でカスタム、あるいはセミ・オーダー的な形で続けて行きたい。
旅行・航空業界を取り巻く環境も格安航空会社(LCC)の進出、IATA運賃の全世界的な見直しの機運など、あらゆることが変化の波にさらされている。しかし、LCCも当初は自社サイトでの予約・販売から、GDSと契約をする方向に変化しており、変化そのものも1年から2年で考え方が変わっていくなど、激しい時代にある。弊社としては情報をアップデートし、いろいろな選択肢を勘案しつつ、備えていく。
−前期の売上高は109億円だが、今期の予想は
松原 売上高はこの1年、2年は概ね変化しないと想定している。ただし、その中身は厳しい。大きく分けると、航空会社のブッキングフィー、旅行会社の端末利用料で構成されているが、航空会社から料金を下げて欲しいという考えで、この数年はブッキングフィーによる収入は伸びないだろう。つまり本業は伸びない中、今まで以上に効率を上げ、低コストで収益を上げることがこの1年から2年の課題だ。流通コストが下がることを前提に、ブッキングフィーが減少しても、他社と対抗していける企業体力をつけたい。