クライストチャーチの現在と今後
-TRENZレポートその2
ニュージーランド南島最大の都市、クライストチャーチで震災が発生してから、もうすぐ4ヶ月が経つ。市内の観光施設やアクティビティの95%が営業を再開し、街は少しずつ平常に戻りつつある。同市では6月13日にマグニチュード6.0の地震が発生したが、これによるホテルや空港、観光施設、道路への影響も出ていないようだ。
クライストチャーチ市内中心部16ブロック閉鎖の影響
5月上旬に新ターミナルビルがオープンしたばかりのクライストチャーチ国際空港を出て、路線バスで市内に向かう。車窓から見る限り、住宅街や道路はクライストチャーチ地震以前となんら変わっていない。ショッピングモールがあるリカトン周辺では、ショップやモーテル(ロビーやレストランを持たない、キッチン付きの宿泊施設)が普段通り営業している様子もうかがえた。
地震前と異なるのは市内中心部だ。日本でも、この街のアイコンである大聖堂が半壊した様子が報道されたが、今なお市内中心部の16ブロック(地図オレンジ枠内参照)は柵で囲まれ、立ち入りが禁止されている。エリア内の68%は来年3月までに修復を終える予定だが、歴史的建造物を含む残りの32%に関しては、さらに時間を要するというのが、一般的な見方だ。現在、閉鎖されているのは、大聖堂、アートセンターなど歴史的建造物を擁する観光施設だ。また、閉鎖区間を通るトラムも運休している。
一方でハグレー公園やボタニックガーデンは従来通り散策が楽しめるほか、モナ・ヴェイルも庭園の散策は可能(園内の建物のみ閉鎖)。さらにエイボン川でのパンティング、南極センター、ウィロウバンク・ワイルドライフ・リザーブなどの観光施設は通常通り営業している。5月26日にはクライストチャーチ・カジノが営業を再開したが、今後はカンタベリー美術館とアートギャラリーが7月16日に、シティ・モールが10月29日に再オープンする予定。またクライストチャーチ/ピクトンを結ぶ列車、「トランツコースタル」は8月15日から、マウント・カベンディッシュのゴンドラは10月から運行再開の予定だ。
今回の震災で特に影響を受けたのが、大型ホテルだ。クライストチャーチ&カンタベリー観光局のチーフ・エグゼクティブ、ティム・ハンター氏は、「大型ホテルの多くが閉鎖エリアにあったことから、現在18のホテルが休業している。ホテルのベッド供給数は以前の3割程度になり、ツアーや団体、MICEの誘致が非常に厳しくなった。また、バックパッカーズの被害も大きかったが、モーテルやホリデイパーク、B&Bは地震の影響をほとんど受けていない。FITには十分対応できる」と説明する。
6月15日現在、同市内で営業中の大型ホテルは12軒。最新情報は、クライストチャーチ&カンタベリー観光局のウェブサイト(リンク)で確認できる。
地震の1ヶ月後から正式に営業を再開した5ツ星ホテル、ザ・ジョージのジェネラル・マネージャー、ブルース・ギャレット氏は現在の状況について、「海外からのお客様は減ったものの、国内のビジネス需要が増えており、週末よりも平日の方が混みあう状況」と話す。地震の前後で料金の大きな変動はないが、ホテルの全体数が減っていることから、今後、季節を問わず例年以上の宿泊が予想されており、「旅行会社の方には早めの予約をおすすめしています」(ギャレット氏)という。
前述のハンター氏は「クライストチャーチ市内では、観光施設やアクティビティの95%が既に営業を再開している。日本のお客様には日帰りでもよいので、ぜひクライストチャーチとその近郊にお越しいただきたい」とアピールする。6月13日の地震でも、ハンマースプリングス、カイコウラ、アカロア、テカポなどの近郊は影響を全く受けていないため、従来通りの観光が可能だ。
旅行会社はツアールートの変更で対応
長年、クライストチャーチは南島のハブとしての機能を果たし、日本発の多くのツアーに同市での宿泊を伴う観光が入っていた。ところが、大型ホテルが不足していることから、この夏のニュージーランド商品は従来とは大きく異なる。
主なパターンとしては、(1)クライストチャーチに空路で入り、1泊目はクライストチャーチ郊外、およびテカポで宿泊。クィーンズタウンに南下、空路で北島へ移動、(2)オークランドから空路でクィーンズタウンに入り、滞在。マウント・クック、テカポまで陸路でピストンして、空路でオークランドあるいはロトルアへ移動、(3)(2)と同じく、クィーンズタウンに入り、マウント・クック、テカポの観光後、陸路でクライストチャーチに入り、空路で北島へ移動、などが挙げられる。
ニュージーランド航空(NZ)は、上期の日本路線はオークランド便のみの運航としている。また、震災後のオークランド/クィーンズタウン線の機材を通常のB737 型機(133席)から、A320 型機(171席)に切り替え、同路線の需要の増加に対応しているため、上記の(2)、(3)のツアーは組みやすい条件が揃っているといえるだろう。
注目を集めるクィーンズタウンとその近郊
クィーンズタウンとその周辺は、湖と山々の絶景と様々なアクティビティが楽しめることから人気が高いエリアだが、近年はラグジュアリー・ロッジや質の高いレストランが増えたため、より洗練されたエリアに成長している。
震災後の日本発のツアーの中には、クィーンズタウンに3、4泊するものも増えているが、近郊には多彩な観光素材が揃っており、旅行者を飽きさせることがない。例えば、クィーンズタウン近郊のアロータウン、カードローナ、クロムウェルは、19世紀のゴールドラッシュ時代のノスタルジックな建物を残すエリア。中でもアロータウンは人気のレストランやカフェが多くランチやティーブレイクに最適だ。
また、峡谷スキッパーズ・キャニオンを訪ねる4WDのツアーも人気が高い。さらに、これらのエリアは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」のロケ地であるだけでなく、世界に名だたるワイン産地でもあり、様々な切り口でツアーを組むことが可能だ。ツアーにアクセントを加えるなら、ヘリコプタ―や熱気球、ハイキング、乗馬、カヤックなどのソフト・アドベンチャーもおすすめだ。
ニュージーランドと日本
ともに震災を経験した国として
クライストチャーチ地震後1ヶ月は、各地で予約のキャンセルが相次いだものの、4月にはオーストラリアと中国市場を中心に旅行客が戻り始めた。NZの副CEO、ノーム・トンプソン氏は、「ニュージーランドの国土の99%は地震の影響を受けておらず、通常通りオープンしています。日本人旅行者が大好きなクィーンズタウンやワナカなども、安心してご旅行いただけます。(TRENZ会場の外の山々を指さして)この風景が見たくて、みんなこの国にやって来るんです」と語り、ニュージーランドの魅力を強調した。
既に日本においてもFIT層は戻りつつある。エアニュージーランド・トラベルサービスのウェブサイトでの航空券販売実績は5月以降、対前年越えが続いている状態だ。同社eコマース&プロダクト部長の池田純一氏は「特に7、8月は好調。家族で3週間程度旅行するケースも多く見られる。同社震災前に旅行を計画していて、いったん取りやめた人々が戻りつつあるのでは」と分析する。
共に震災を体験した国として我々日本人は、旅行者が風評に惑わされず普通に旅行してくれることが、どれだけ地元の経済を支え、地元の人を元気づけるか知っている。旅行者に正しい現地情報を伝えていくことはもちろんだが、今後はクライストチャーチ復興支援のツアーなどが生まれることも期待したい。
取材:塙千春