中国訪日旅行の回復へ、準備と今後の対応-インバウンドビジネスフォーラム

  • 2011年8月3日

 訪日旅行者数は6月に前年比36%減となり、減少幅が震災直後(3月12日~3月末日)の72.7%減の半分まで回復し、戻りつつある。観光庁の調査では、26%の人が訪日旅行について「友人・知人が行って安全が確認されれば行く」と回答しており、本格的な回復には訪日客に旅行を満足してもらい、日本の安全性とともにその魅力を伝えてもらうことが重要だ。特に中国は10月に国慶節という大型連休を控えており、訪日客に日本の魅力を伝えてもらえるチャンスとなる。ポータルジャパンが先ごろ開催したインバウンドビジネスフォーラムでは、中国市場に詳しい中国市場戦略研究所上海CMPCグループ代表の徐向東氏と、レジャーサービス研究所所長の斉藤茂一氏が登壇しており、2人の講演から今後の誘客に向けたヒントを探る。


日本を訪れる中国人はまだ少ない
中流層、内陸へも目を

中国市場戦略研究所上海CMPCグループ代表の徐向東氏

 中国市場戦略研究所上海CMPCグループ代表の徐向東氏は、「富裕層だけでなく、ボリュームの真ん中にある中流層」を視野に入れるよう、提言した。海外旅行を楽しむ中国人は現在、約5000万人だが、そのうち日本を訪れるのは約140万人で、これは韓国の約180万人、シンガポールの約1300万人、香港の約2000万人と比べると少ないという。

 そのうえで、「今、日本に興味を持っているのは、必ずしも富裕層ではない。上海のOLなど、沿岸部の中流層が来ている」と指摘。統計によると、中国の中流層は約4億8000万人で、毎年8000万人の規模で増えており、携帯電話を使用する人は9億人いるという。「上海では7割の人がアンドロイドの携帯端末を使っており、こうした中流層が携帯を使って日本を調べている。これからは普通の中国人が来るようになる」と、ビジネスに取り込む準備をするようにアドバイスをした。

 また、「北京、上海は飽和してきているが、内陸部が稼いできている」と、これまでの沿岸部中心から内陸部へ目を向けることもアドバイスする。徐氏によると、地元で稼げるようになったため、上海や広州などの沿岸部へ出稼ぎに来ていた労働者が減少しつつあるといい、「こういう人たちに日本製品を見せると、素直に欲しいと反応する」と日本に対する需要があることも示唆。「上海は流動人口が約2000万人だが、中国13億人の中では小さい。内陸部にはまだ巨大マーケットがある」と、新たな可能性を示した。



「日本人が受けるサービスは日本でしか買えない」
中国人が求めるのは日本の付加価値

 さらに徐氏は「日本人は中国人が欲しいものをまだ理解していない」とも指摘する。今、中国人が求めているのは「安心・安全」で、購入したい項目は化粧品や育児用品、子どもの教育、マイカー、マイホームなど。その質に対する執着は「日本人と中国人が逆転したのでは」というほどだ。このなかで、徐氏が日本製品で買ってもらえそうなものとしてすすめるのは「化粧品など顔につけるもの」と「サービス」だ。

 徐氏によると、「中国人は日本が品質に対して一番厳しく、サービスも一番良いと思っている」とし、「中国人は中国で買えないモノや受けられないサービスにお金を払う。日本は大きな強みを持っている」と強調。日本で販売されているものがたとえ、メイド・イン・チャイナのものであっても、「日本人に向けて売っているものは良いものと見る。中国で売っているものはスペックが落ちる」と考え、そこに日本に行く価値があるのだという。だから旅行は安くあげて、日本でたくさん買い物をしたいと考えており、「それを日本の旅行会社は理解する必要がある」と指摘する。

 ただし、顔につけるものとして人気の化粧品「BBクリーム」は、日本ではなく韓国で購入している。日本製品が韓国製品に比べて高額だからだ。一方で、中国人の化粧はこれまでスキンケアが中心だったため、メイクアップはあまり得意ではない。日本で人気なものとして目薬をあげる。品質が良く小さくてパッケージもかわいく、比較的安価に購入できるため、大量に買ってお土産に配るのだという。

 なお、中国人は訪日の際、すでに現地で計画を練り、購入希望リストを作ってくる。そのため、中国国内での情報提供が大切だとも語った。



団体客はリピーターになる
消費金額も高額に

レジャーサービス研究所所長の斉藤茂一氏

 中国で従業員研修と日本での訪日ツアーアテンドなどを展開するレジャーサービス研究所所長の斉藤茂一氏は、団体客の取り込みをすすめた。同社では中国で研修を実施した企業に対し、休憩時間などに日本観光を紹介する映像などを放映したところ、必ず研修を兼ねた訪日旅行の問い合わせが入るといい「企業の視察・インセンティブは単価が大きい」とメリットを話す。

 例えば、ある企業のインセンティブでは、研修時に予め、訪日旅行のピーアール映像とともに、航空会社が舞台となった人気ドラマの「グッドラック」や「アテンションプリーズ」を流し、インセンティブ旅行の計画が出たら「搭乗した時から研修になる」と、日系の航空会社利用をすすめた。これを含め、1人あたり単価が25万円増加したという。

 中国企業にとって、日本は「観光にもなるし勉強にもなる」デスティネーションで、一度来日すると、リピートすることが多いのもポイント。中国企業は昇進が早く、当初の担当者が4年後には役員クラスになることもある。そのため、気に入った旅行先を再訪する率が多く、「今いる団体客が大切」と、繰り返し受注を得るヒントも語った。


今後、必要な準備
中国市場へのアプローチ方法

 今後、中国市場へのアプローチとして欠かせないのが、クチコミなどSNSだ。斉藤氏は中国で一番影響があるメディアは新聞、雑誌、ラジオであるとしながらも、SNSが新しい広告として雑誌と同じ効果があるという。

 例えば、中国系旅行分野でナンバー1といわれるブログ「七色地図」のブロガーを招請し、4月20日に日本で視察旅行を実施。その結果を同ブログと、斎藤氏の会社が運営するグログ「日本宅人」に載せたところ、七色地図が約20万、日本宅人で約10万のアクセスがあり、「人気ブロガーと協力して日本に来てもらうことができる」とアドバイス。また、SNSを使う際は日本人が書くものはヒットしないという。例えば、同じ題材のテーマでも、斎藤氏が書いたものは100、現地のアルバイトの人に書いてもらったものは4000のヒットがあり、中国人の考えでコメントを掲載することが重要のようだ。

 また、今後、力を入れていくべきは90年代生まれの新世代。斎藤氏によるとすでに、富裕層のサロンには父親に連れられて来店する子ども達が多く、家庭の消費の主導権を握っているという。今後2年から5年後の話だというが、彼らの消費傾向を掴み、準備をしておくことも必要だ。

 最後に、斎藤氏と徐氏が強調したのは、中国人に対する日本人の対応だ。斉藤氏によると、日本人は一歩引いたサービスが良いと考えているが、中国人からは「中国人のことが嫌いなのか」という感想がいまだにあるという。「失礼と思わず、日本語でもいいから『どうぞ』と一歩前に出て行くことが大切だ」とアドバイス。「それだけで消費単価が2、3万円、簡単に変わる」と話す。

 一方、徐氏はビジネスの場面でも、積極的で柔軟な対応との重要性を語る。今年1月、広州で北海道観光の誘致イベントを実施した際、北海道から参加した旅行会社の人が現地の旅行会社に「旅行の契約をしたいからサインをしてほしい」と持ちかけられたという。「中国人は直接商品を見て話をし、良いと思うとその場で契約をしたいと思う。どんどん現地へ行き、その場で契約ができるならその方がよい」と、積極的で臨機応変な対応が必要であることを語った。