トップインタビュー:ANAセールス代表取締役社長の稲岡研士氏
ANAグループとして海外旅行事業拡大を-ピーチやアライアンスの商品化にも意欲
今年6月1日付でANAセールスの代表取締役社長に就任した稲岡研士氏。ANAグループの旅行会社3社の統合作業に携わり、2002年に設立されたANAセールス&ツアーズで事業推進部部長を務めるなど、旅行業界での実績も豊富だ。東日本大震災後という大変な時期の社長就任となったが、オンラインビジネスの拡大、アライアンスや全日空(NH)子会社のLCC「ピーチ」の商品化、訪日旅行の強化などにも意欲を示す。社長就任にあたって、現在の状況や今後の取り組みについて話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
-東日本大震災後に社長に就任されました。現在の経営環境をどのように見ていますか
稲岡研士氏(以下、敬称略) 旅行業界全体が大変な状況の中で震災が起こり、大変な時期に社長になったと思っている。しかし、全体の取扱高で見れば、4月は前年同月比80%、5月は同85%、6月は同92%と回復傾向にあるのは確かだ。7月、8月、9月の予約状況を見ると、国内は98%、海外は120%、トータルで前年を若干上回っているのが現状だ(7月上旬時点)。
旅行事業はこれからも大変厳しい状況が続くだろう。そのひとつの要因として、インターネットでの取引がますます増えていくことがある。そのシェアは、ある調査によるとアメリカでは59%、欧州では34%、アジア太平洋では21%、日本では16%。それからすると、日本でのインターネット取引が増えていく余地は大きい。消費者への直販が増え、既存の旅行会社、ホールセラー事業にとっては厳しくなる。生き残りをかけたビジョンを作っていかなければならない。
-NHグループにおけるANAセールスの役割をどうお考えですか
稲岡 航空会社の戦略のなかで旅行事業を展開していかなければならない。このふたつを両立させながら、しかもホールセラーは旅行会社に商品を売ってもらっている事業なので、舵取りしていくのは難しい。そういったなかで、NHの戦略として国際線を成長の柱としているので、まずANAセールスとしても羽田の国際線を成功させなければならないだろう。また、海外就航地での販売を増やすことも必要だ。現在、日本での販売が65%、海外が35%の割合だが、海外の比率を上げていくことを考えなければならない。
国内線については、総需要が2005年をピークに9500万人から8000万人台へ減少している一方で、競合するサプライヤーは増えている。国内線需要をどのように喚起していくか。そのカギはやはりインバウンド需要だろうと思う。
-NHグループの戦略会社として、アライアンスパートナーとの連携販売や訪日旅行にどう取り組んでいきますか
稲岡 日本国内での航空券販売と同じようなことは外国ではしない。ジョイントベンチャーの枠組みのなかで、将来的には米国内はユナイテッド航空(UA)、ドイツではルフトハンザ・ドイツ航空(LH)といった協力はありうると思う。それについても、やはりカギは訪日旅行の商品をどう扱っていくかだ。
現在の訪日旅行事業では、ランドオペレーターとして収益をあげなければならない。しかし、日本の旅行会社がこの機能を果たしているのは市場全体の5%にも満たない。860万人以上の外国人が訪れても、それで収益をあげるのは難しい。旅行業法のからみもあり、収益の柱にはなりにくいのが現状だ。そうしたなかで、例えば、香港や中国など海外の代理店を通じて訪日旅行商品を売り、利益をあげていく視点も大切になってくるだろう。
-海外旅行事業について、NHグループの戦略を踏まえた目標を教えてください
稲岡 NHの戦略会社として、当然ながらNHの路線計画に沿った事業になる。ボーイングB787型機が導入されるが、中型機なので座席供給量は多くはない。そのなかで海外旅行をどうやって売っていくかも課題だろう。まずは付加価値を持った商品を造成していくことが大切になる。安価に大量ではなく、企画力に長けた高品質な商品を出していくことが重要だ。
また、スターアライアンスパートナーを活用した商品造成も検討に値するものだろう。UAとLHとのジョイントベンチャーは今後、旅行事業でもいい影響を与えていくのではないか。これから2015年までのビジョンを作り始める計画だが、そのなかでアライアンス商品の造成についても言及していくことになるだろう。
-ピーチ・アビエーションの商品化の予定は
稲岡 前向きに考えている。一般的に、LCCはオンラインで安く売るビジネスモデル、旅行会社は正規運賃よりも安く航空券を仕入れて商品を造成するモデルだと思われているが、LCCもコストがかからなければ、旅行会社に航空券を卸すことも可能だろう。一方、旅行会社の方は多少高くても、付加価値をつけて商品化するという考え方になれば、両立するのではないか。安く売らなければ勝てないという発想では、LCCの商品化は無理だろう。適正価格に見合った付加価値を消費者に理解してもらい、購入してもらえるのが旅行業界の健全なあり方だ。
-販売・流通戦略ではどのように取り組んでいきますか
稲岡 オンラインの取引がますます増えていくと思う。現在でも、国内線のダイナミックパッケージや国際線のオンライン販売は好調で、第2四半期では前年比60%から70%の伸びを示している。しかし、オンラインの比率はまだ全体の2割程度。これを増やしていくことが目標だ。やりようによっては、半分はいくのではないか。一方で、8割を占めるホールセールも経営上大切な事業で、今後は少量多品種で付加価値をつけた商品開発がカギになっていくだろう。そういう方向性に賛同してもらえる旅行会社との共同企画も進めていきたい。
旅行会社の店頭では目的のある商品、SIT型商品が大切になってくる。企画力と専門性を高めていかなければ、生き残れないと思う。お客様の方がよく知っている場合が多く、生半可な知識では対応できなくなっている。人事異動スパンの長期化による知識や経験の蓄積など、長期的な戦略の中で変革していく必要があるだろう。
-在任中の目標をお聞かせください
稲岡 まず海外旅行事業の取り扱い規模を増やしたい。NHのダイナミックパッケージでは圧倒的なナンバーワンをねらう。旅行業界の一員として、観光が日本をリードしていく観光立国化に向けても協力していきたいと思う。現在の事業シェアは国内8、海外2の割合で、訪日は地上手配だけなので数量的にはまだ少ない。訪日旅行も海外とすれば、海外で3割か4割までは伸ばしたい。アライアンス商品については相手があることだが、チャレンジしていきたい。
-ありがとうございました