現地レポート:オマーン、新しいアラビア観光の可能性を発見
快適な旅行環境とアラビアならではの観光素材
中東旅行の新たな可能性、オマーン
シンドバッドの時代から、アラビア随一の貿易拠点として栄えた国、オマーン。その歴史ゆえか、ここには外国の文化を受け入れる鷹揚さがある。一方、訪れる先々で出会うのは、混じりけのない独自の文化と伝統だ。快適なインフラを享受しつつ、濃密なアラビア体験ができる国。「エッセンス・オブ・アラビア」(アラビアの真髄)と呼ばれる国の、奥深い魅力を探った。
近代化の中に濃い伝統が息づく首都マスカット
玄関口のマスカット国際空港から市内に向かう途中、驚かされたのは広々として美しいハイウェイだ。真っ白な建物が並ぶ市内へと走り抜ける道路は機能美を感じさせ、未来的ですらある。「40年前まで、舗装道路はオマーン全土でたった3キロメートルだけだった」と説明するのはドライバー。帆船の製造などで隆盛を誇ったオマーンだったが、蒸気船の登場以降は衰退し、一時は鎖国状態になっていた。20世紀半ばに石油採掘がはじまり、1970年に現在のスルタン(国王)が即位して以降、再びこの国は開かれ、道路をはじめあらゆる部分の開発が進められてきたのだという。
主都マスカットは、そんなオマーンの近代化を象徴する街だ。とくに新市街には、ビーチに点在する一流ホテルはもちろん、ブランドブティックが入ったショッピングモールも多く、おなじみのファーストフードをはじめ、インターナショナルなグルメ体験も可能。旅行者にも大変便利だ。
それでいながら面白いのは、その風景や空気はどこを切り取っても欧米とは違う、アラブそのものということ。民族衣装を着た人々や、アラビア独特の曲線を多用した建築様式、砂漠に続く乾いた岩山や灼熱の大地、あちこちに建つモスクやそこから流れてくるアザーン(礼拝の呼びかけ)などのせいだろうか、とにかくここにはいたるところに、変化しようのないアラブのDNAともいうべきものがしみ込んでいるように感じられる。
見どころは豊富だ。まず壮麗な「スルタン・カブース・グランド・モスク」。広大な敷地に現スルタンが5年の歳月を費やして建てた、オマーン最大のモスクだ。時間限定でイスラム教徒以外にも解放されており、大理石をふんだんに使った床や壁、きらびやかな天井の細工など、見事な建築や装飾を見学することができる。
また、16世紀に作られた砦や、スルタンの住まいの王宮がある旧市街のオールドマスカットでは、アラビアンナイトの時代にタイムスリップしたような情緒を味わえる。さらに海辺のマトラ地区にある巨大なスーク(市場)やフィッシュ・マーケットも必見。ありとあらゆるものが並び、売り子の声が賑やかに響く。オマーンの人々の、古くから変わることがないであろうエネルギッシュな生活を垣間見られる場所だ。
壮大な山岳ジャバル・アフダルと古都ニズワ
マスカットから車で2時間ほど西に向かうと、いきなり仰ぎ見るような山々が迫る。西ハジャール山脈の中にあるジャバル・アフダル。最高地点は3000メートルを超える山岳地帯だ。高山のなかをうねるように道路が整備されており、四駆車限定だがかなり奥地まで入っていくことができる。マスカットに比べるとさすがに涼しく、緑も豊富。とてもさわやかなドライブだ。
驚かされるのは、深い山中のあちこちに小さな村が点在していることだ。2000メートル近い高地にも、時に斜面に張り付くようにして古い集落が広がっている。そしてどの集落にも小さなモスクがあり、ファラジという灌漑用水がひかれ、フルーツなどのプランテーションが行なわれている。家は道路と同じ赤茶色の日干しレンガや土でできていて、1軒1軒が塀のようにつながり、家屋自体が村の砦となる構造。これはオマーンの古い街に共通する建築だ。斜面に伸びる狭い路地の階段を下りて村の散策をしていると、素朴な人々が笑顔で挨拶をしてくれる。何千年もここで暮らしてきた人々の生活が、そのまま残されたような不思議な空間だ。
このジャバル・アフダルへの拠点として便利な位置にあるのが、古都ニズワ。6世紀から7世紀のオマーンの首都だったところで、広大なナツメヤシのプランテーションに囲まれたなかに17世紀に建てられた要塞のニズワ・フォートがそびえ、迷路のように広がる古いスークや家並みなどが残さている。中世アラビアの世界に迷い込んでしまったような風情が楽しめる街だ。
またこの周辺では、ニズワの後に遷都したジャブリーンの街の城、13世紀に建造され、12キロメートルもの城壁で街を囲む世界遺産のバハラ・フォートなど、オマーンでも重要な史跡が数多く点在しており、見どころも豊富だ。
ドバイとは違う方向性で観光開発
オマーンを訪れる旅行者の多くはヨーロッパ人。とくにドイツ、イギリス、スイス、オランダなどからのリゾート客が多い。マスカットや第2の都市サラーラなどにあるビーチリゾートにゆっくりと滞在し、海を楽しみながら時々ニズワなどの史跡を巡ったり、山岳地帯へのドライブを楽しんだり、というのが主な旅のスタイルだ。
また、オマーンの国土の8割を占める砂漠へのツアーも人気だ。マスカットの西に広がるワヒバ砂漠を訪れ、そのなかにあるキャンプに滞在。どこまでも続く砂丘を散歩したり、サンセットや星空を眺めたり、砂漠の民ベドウィンの家族を訪れたり、といった体験を気軽に楽しむことができる。
「アラビア半島ではドバイの人気が圧倒的に高いが、オマーンがめざしているのはドバイとは別の方向だ。独自の文化や伝統、それから美しい自然、これを大切に維持し、上手にアピールしていきたい」と語るのは、今回の旅のガイドも引き受けてくれたオマーン情報省メディア・エキスパートのシャカール・M・アルアライミ氏。ドバイよりも物価が安いこともあり、最近ではヨーロッパからの旅行者にも、ドバイで買い物などを楽しみ、そのあとオマーンでゆっくりとリゾートや観光を楽しむ、というスタイルが増えているという。
日本ではまだあまり知られていないオマーンだが、その旅行地としての可能性は非常に大きい。表情豊かな自然、イスラム世界ならではの神秘的な文化、それは日本とは全く違う、またヨーロッパともアジアとも違う、新鮮な空間だ。しかも一流のインフラが期待でき、さらにオープンでフレンドリーな人々にも出会える。はじめて訪れるアラブとしては、理想的な国ではないだろうか。
中東旅行の新たな可能性、オマーン
シンドバッドの時代から、アラビア随一の貿易拠点として栄えた国、オマーン。その歴史ゆえか、ここには外国の文化を受け入れる鷹揚さがある。一方、訪れる先々で出会うのは、混じりけのない独自の文化と伝統だ。快適なインフラを享受しつつ、濃密なアラビア体験ができる国。「エッセンス・オブ・アラビア」(アラビアの真髄)と呼ばれる国の、奥深い魅力を探った。
近代化の中に濃い伝統が息づく首都マスカット
玄関口のマスカット国際空港から市内に向かう途中、驚かされたのは広々として美しいハイウェイだ。真っ白な建物が並ぶ市内へと走り抜ける道路は機能美を感じさせ、未来的ですらある。「40年前まで、舗装道路はオマーン全土でたった3キロメートルだけだった」と説明するのはドライバー。帆船の製造などで隆盛を誇ったオマーンだったが、蒸気船の登場以降は衰退し、一時は鎖国状態になっていた。20世紀半ばに石油採掘がはじまり、1970年に現在のスルタン(国王)が即位して以降、再びこの国は開かれ、道路をはじめあらゆる部分の開発が進められてきたのだという。
主都マスカットは、そんなオマーンの近代化を象徴する街だ。とくに新市街には、ビーチに点在する一流ホテルはもちろん、ブランドブティックが入ったショッピングモールも多く、おなじみのファーストフードをはじめ、インターナショナルなグルメ体験も可能。旅行者にも大変便利だ。
それでいながら面白いのは、その風景や空気はどこを切り取っても欧米とは違う、アラブそのものということ。民族衣装を着た人々や、アラビア独特の曲線を多用した建築様式、砂漠に続く乾いた岩山や灼熱の大地、あちこちに建つモスクやそこから流れてくるアザーン(礼拝の呼びかけ)などのせいだろうか、とにかくここにはいたるところに、変化しようのないアラブのDNAともいうべきものがしみ込んでいるように感じられる。
見どころは豊富だ。まず壮麗な「スルタン・カブース・グランド・モスク」。広大な敷地に現スルタンが5年の歳月を費やして建てた、オマーン最大のモスクだ。時間限定でイスラム教徒以外にも解放されており、大理石をふんだんに使った床や壁、きらびやかな天井の細工など、見事な建築や装飾を見学することができる。
また、16世紀に作られた砦や、スルタンの住まいの王宮がある旧市街のオールドマスカットでは、アラビアンナイトの時代にタイムスリップしたような情緒を味わえる。さらに海辺のマトラ地区にある巨大なスーク(市場)やフィッシュ・マーケットも必見。ありとあらゆるものが並び、売り子の声が賑やかに響く。オマーンの人々の、古くから変わることがないであろうエネルギッシュな生活を垣間見られる場所だ。
壮大な山岳ジャバル・アフダルと古都ニズワ
マスカットから車で2時間ほど西に向かうと、いきなり仰ぎ見るような山々が迫る。西ハジャール山脈の中にあるジャバル・アフダル。最高地点は3000メートルを超える山岳地帯だ。高山のなかをうねるように道路が整備されており、四駆車限定だがかなり奥地まで入っていくことができる。マスカットに比べるとさすがに涼しく、緑も豊富。とてもさわやかなドライブだ。
驚かされるのは、深い山中のあちこちに小さな村が点在していることだ。2000メートル近い高地にも、時に斜面に張り付くようにして古い集落が広がっている。そしてどの集落にも小さなモスクがあり、ファラジという灌漑用水がひかれ、フルーツなどのプランテーションが行なわれている。家は道路と同じ赤茶色の日干しレンガや土でできていて、1軒1軒が塀のようにつながり、家屋自体が村の砦となる構造。これはオマーンの古い街に共通する建築だ。斜面に伸びる狭い路地の階段を下りて村の散策をしていると、素朴な人々が笑顔で挨拶をしてくれる。何千年もここで暮らしてきた人々の生活が、そのまま残されたような不思議な空間だ。
このジャバル・アフダルへの拠点として便利な位置にあるのが、古都ニズワ。6世紀から7世紀のオマーンの首都だったところで、広大なナツメヤシのプランテーションに囲まれたなかに17世紀に建てられた要塞のニズワ・フォートがそびえ、迷路のように広がる古いスークや家並みなどが残さている。中世アラビアの世界に迷い込んでしまったような風情が楽しめる街だ。
またこの周辺では、ニズワの後に遷都したジャブリーンの街の城、13世紀に建造され、12キロメートルもの城壁で街を囲む世界遺産のバハラ・フォートなど、オマーンでも重要な史跡が数多く点在しており、見どころも豊富だ。
ドバイとは違う方向性で観光開発
オマーンを訪れる旅行者の多くはヨーロッパ人。とくにドイツ、イギリス、スイス、オランダなどからのリゾート客が多い。マスカットや第2の都市サラーラなどにあるビーチリゾートにゆっくりと滞在し、海を楽しみながら時々ニズワなどの史跡を巡ったり、山岳地帯へのドライブを楽しんだり、というのが主な旅のスタイルだ。
また、オマーンの国土の8割を占める砂漠へのツアーも人気だ。マスカットの西に広がるワヒバ砂漠を訪れ、そのなかにあるキャンプに滞在。どこまでも続く砂丘を散歩したり、サンセットや星空を眺めたり、砂漠の民ベドウィンの家族を訪れたり、といった体験を気軽に楽しむことができる。
「アラビア半島ではドバイの人気が圧倒的に高いが、オマーンがめざしているのはドバイとは別の方向だ。独自の文化や伝統、それから美しい自然、これを大切に維持し、上手にアピールしていきたい」と語るのは、今回の旅のガイドも引き受けてくれたオマーン情報省メディア・エキスパートのシャカール・M・アルアライミ氏。ドバイよりも物価が安いこともあり、最近ではヨーロッパからの旅行者にも、ドバイで買い物などを楽しみ、そのあとオマーンでゆっくりとリゾートや観光を楽しむ、というスタイルが増えているという。
日本ではまだあまり知られていないオマーンだが、その旅行地としての可能性は非常に大きい。表情豊かな自然、イスラム世界ならではの神秘的な文化、それは日本とは全く違う、またヨーロッパともアジアとも違う、新鮮な空間だ。しかも一流のインフラが期待でき、さらにオープンでフレンドリーな人々にも出会える。はじめて訪れるアラブとしては、理想的な国ではないだろうか。
注目ホテルも続々誕生
オマーンはマスカットやサラーラを中心に、国際的な
ブランドのホテルも多い。たとえばマスカットではイン
ターコンチネンタル、シェラトンなどをはじめ、ブティ
ックホテル・スタイルのチェディ、シャングリラの3つ
のホテル群が広がる「バールアルジサ・リゾート」など、
注目のホテルが次々とオープンしている。2012年にはフ
ランスのLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)が初
めて手掛けるリゾートホテルもオープンする予定だ。
また別格ともいえるのが、マスカット郊外の海岸にひ
っそりと建つ「アル・ブスタン・パレス」。これは1985
年に湾岸諸国のサミット会場として建てられたもので、
スルタンが所有する。大きな吹き抜けのロビーから華麗
な客室、広大な庭園やビーチに至るまで、アラブ様式の
贅が尽くされている。スルタン専用フロアをのぞき、一
般の旅行者も宿泊可能。ハネムーナーなどにぜひおすす
めしたいプレミア感あるホテルだ。
11月にはスルタン在位40周年のビッグイベントも
11月18日は、オマーンのナショナル・デー。スルタン
の誕生日であり、毎年各地できらびやかなイベントが開
催される。特に今年はスルタンの在位40周年という節目。
マスカットでは何日も前から大々的な記念イベントが行
なわれる予定だ。
ちなみに旅行のベストシーズンは10月から4月頃まで。
この時期なら暑すぎることなく、さわやかな気候のなか
で旅を楽しむことができる。
取材協力:オマーン情報省
取材:吉沢博子