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韓国旅行ついに解禁…でも日本人が好きだった明洞はもうない?【ソウル発!韓測気球】

2022年07月01日

日本からの渡航ラッシュが心配になる理由

 数日前、韓国ソウルの繁華街・明洞(ミョンドン)を取材していた記者は、韓国料理店でこう言われた。「日本人観光客の皆さんには、昔の明洞はもうないと思ってほしい」。2年半前までの明洞は、日本人や中国人の観光客であふれていた。だが、新型コロナウイルス感染症の影響による観光往来の中断で、ソウル随一の観光地の面影はすっかり消えうせた。

 コロナ禍前までは、午後になるとメイン通りに露天商が立ち並び、韓国料理店やコスメ店、アパレルショップなどが路地裏にまで立ち並んでいた。そんな繁華街も、コロナ禍で外国人観光客が途絶えた現在、シャッター街と化している。

 1950年代から3代にわたって「鍋チゲグルメ店」として知られた食堂や、日本人客でにぎわった創業35年目のソルロンタン専門店、中小規模ホテルなど、どこも新型コロナウイルス感染症の影響で閉店あるいは休業している状況だ。

 韓国の不動産現況を調査する公共機関「韓国不動産院」によると、2022年1-4月期の明洞の商店街空室率(建物内で賃借人がいない空き店舗比率)は42.1%と、2021年に引き続いて40%以上を記録した。ソウル市内の商店街全体の平均空室率6.2%と比べて、はるかに高い数値である。

 明洞と並んで日本人観光客に人気で、「韓国ファッションの聖地」とされる東大門(トンデムン)市場も、状況は変わらない。コロナ禍前、トッポッキや焼き鳥、釜山おでんなどの露店は、夕方になると外国人観光客が長蛇の列をなしていた。しかし、今や閑散としていて、多くの露天商がその日の売り上げを諦める。

 もちろん、ドゥータやミリオレといったファッションビルを訪れる韓国人はいるが、買い物をする人はほとんどなく、カフェを利用する程度である。客がいないテナントは夕方6-7時になると閉店準備に取りかかる。

 その半面、にぎわっている街もある。江南駅(カンナムヨッ)と梨泰院(イテウォン)、弘大入口(ホンデイック)などだ。週末だろうが平日だろうが、昼夜を問わず混雑している。これらの街は、新型コロナウイルス感染症がまん延していたにもかかわらず、昨年には活気を取り戻した。不況が長引かなかった理由は簡単だ。外国人観光客のための街ではなかったからである。

 明洞と東大門市場は外国人観光客に焦点を合わせた商店街だった。コスメ店では日本語や中国語で話しかけられるし、各店舗前の看板も「ここが果たして韓国なのか」と思うほど日本語や中国語など外国語があふれていた。

 飲食店も同様だ。明洞と東大門の飲食店や露店は、韓国人からたびたび「外国人プレミアム価格で量が少ない」と非難を浴びるほどだった。

 記者がたびたび利用する明洞のクッパ専門店の店員は「外国人観光客はコロナ禍以前の95%以上も減った。韓国人の会社員が昼食を食べに来てくれるのでなんとか店を維持できるが、週末は明洞に人が来ないので休んでいる。周辺の店もほとんど同じ状況」と話す。また、「かつて明洞は外国人観光客が中心で、韓国人をまともに相手にしなかったことが、街に人が来ない理由だ」と指摘した。

明洞商圏の回復をさらに難しくした前政権の失政

 韓国政府は今年6月から国際線の運航を正常化した。PCR検査で陰性となった外国人入国者の隔離義務を廃止するなど規制を緩和したため、日本国内で韓国旅行の関心も高まっている。

 6月1日から観光ビザの発給申請受け付けが始まると、前日5月31日の夕方から東京都港区の韓国大使館領事部前には人々が集まりはじめ、申請受付開始日の1日には数百人が列をなした。韓国旅行の問い合わせが増え、東京の領事部は1日当たりのビザ発給申請を150人に制限し、大阪の韓国総領事館はインターネットで訪問予約をした人に限ってビザ申請を受け付けることにした。

 多くの日本人が韓国旅行に関心を持ち、観光を再開できると期待していることだろう。しかし、日本人の記憶にある明洞と東大門はすでになく、数年間はにぎわいを取り戻すことはないと思われる。店の営業時間の短縮や人数制限などが解除されたうえ、入国規制も緩和された。今後、外国人観光客が戻ってくるだろう。明洞や東大門が再び活気を取り戻すと考える人もいるだろうが、それに否定的な人も少なくない。

 その理由の一つが、文在寅政権の失策により暴騰した不動産価格だ。文在寅政権は2020年6月、保守党などが反対するなか、「庶民中心」の不動産政策を掲げて規制を強行した。しかし、不動産価格が下がることはなく、むしろ政府の引き上げた関連税が不動産相場を上昇に導いた。

 韓国大手銀行「KB国民銀行」によると、不動産政策の施行から4カ月たった2020年10月、ソウルのマンションの平均取引価格は施行前の6億ウォンから10億ウォンにまで急騰した。韓国政府機関の国土交通部は今年3月、文在寅政権の5年間で全国の共同住宅の公示価格が約70%上昇したという分析結果を発表した。

 文在寅政権の失策による不動産価格の高騰は、明洞にも打撃を与えた。ソウル市の今年4月の発表によると、市内で公示価格が最も高いところは明洞駅近くの化粧品ブランド「ネイチャーリパブリック」明洞ワールド店で、1平方メートル当たり1億9000万ウォン、店舗全体で約320億ウォン以上と策定された。韓国不動産価格1位の座を20年にわたって維持している場所である。

 国土交通部が2021年12月に発表した資料を見ると、韓国で単位面積当たりの地価が高い箇所の上位1位から10位までを明洞が占めている。多くの店が高額な賃貸料に耐えられなくなり廃業したが、空き店舗が増えても「ソウルの中心商圏」というプレミアムが付いているため不動産価格は下がらない。文在寅政権下で暴騰した不動産価格が以前の水準まで戻る兆しも見えない。

 新型コロナウイルス感染症が収束し、外国人観光客が戻ってきても、明洞の店舗数は以前のようには戻らないと考えられている。高額な保証金や賃貸料を払ってまで明洞でビジネスをする価値があるのか懐疑的な人が多いし、2年以上にわたるコロナ禍を経験した国民は、再びパンデミックが訪れるかもしれないという不安を抱いている。

 過去の思い出を抱いて韓国旅行をすることは自由だが、2年で変わってしまった街に失望する人は少なくないだろう。

 ◇  ◇  ◇

ノ・ミンハ ジャーナリスト。韓国ソウル出身。日本の大学を卒業後、韓国の新聞社に勤務し、国際部の記事を担当。現在は日韓の芸能、政治、時事分野のフリージャーナリストとして活動中。

(2022年7月1日掲載)

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