電車で移動すれば、二酸化炭素排出量を削減することができる。
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- ビジネス旅行者はその移動方法を変えてでも二酸化炭素排出量を削減したいと考えている。
- 企業は、社員たちの考え方の変化に対応するため、サステナブルな旅行プログラムを導入している。
- だが、標準化された二酸化炭素排出量計算式がなく、報告の方法も統一されていないため、なかなかうまくいっていないのが現実だ。
出張する人の多くは、仕事のために飛行機に乗ったり、車を運転したりすることは、気候変動に見合うだけの価値がないと考えている。
ビジネスで出張していた人の大半は、新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンにより、空港のラウンジより自宅のソファで仕事をする時間の方が長くなってしまっている。再び出張が増えている現在、多く人は、飛行機のマイレージやレンタカーのポイントを貯める意味を改めて考えている。しかし、なかなか明確なイメージを持つことができていないのが現状だ。
出張・経費管理に特化したクラウドサービスを提供するSAP Concurが、1000人の出張者を対象に実施した最近の調査では、回答者の88%が、環境への影響を減らすためなら、あまり高級でないホテルでもよいし、車ではなくバスで移動してもよいと考えていることが分かった。
この調査では、回答者の約10人に4人が「出張の回数を減らし、その期間を長くする」、40パーセントが「好みではなくても環境に優しいホテル」に泊まる、そして約3人に1人が「公共交通機関を利用する」と回答している。
全体では若い世代が出張のプランを変更することに高い関心を示しており、Z世代では93%、ミレニアル世代では89%が移動手段などを変える意思があると回答している。
従業員は出張が気候に与える影響についての情報を求めており、回答者のほぼ9割が、宿泊施設や交通手段のサステナビリティ対策を比較する手段を求めている。
SAPで旅行商品と出張管理サービスを統括するブライアン・ヘイス(Brian Hace)は「より包括的なサステナビリティの報告書は、組織をより環境に配慮した方向へと導くだけでなく、世界的な業界標準を確立し、出張による排出量に実質的な影響を与えるだろう」と述べ、この調査データに励まされたと付け加えた。
「ビジネス旅行のプログラムをより持続可能なものにすることは、企業がネットゼロの目標を達成する上で画期的なことだ。今、我々は企業が気候変動に対応するための抜本的な変化の中にいる」
サステナブルな出張への転換
SAPが実施した関連調査によると、アメリカの出張管理者の76%が過去12カ月間に自社の出張のガイドラインやポリシーを改訂し、よりサステナビリティに重点を置いたものにしたと回答した。
それだけではない。2021年には、気候変動や水の安全保障、森林破壊に関するデータを公開した企業が約1万3000社に上り、前年比で37%も増えた。また1000社が地球温暖化を産業革命以前の水準から1.5度までに抑えることを目指す「パリ協定」に沿った目標を設定している。
大きな動きが始まっているようだ。
サステナビリティに配慮した組織は次第に増えている。多くの企業はその一環として、環境面、社会面、ガバナンス面での目標達成に向けどのように取り組んでいるかという報告書を発行している。
出張専門会社TravelPerkでESGとサステナビリティを担当するジェームス・デント(James Dent)は、科学的根拠に基づいた排出量削減の目標を設定をする企業が増えていると話している。
「最近、企業が気候変動に関して情報開示することが非常に増えている」
デントによると、企業への出張旅行者からの要望は一つの要因に過ぎないという。
その他の要因は、顧客や投資家からの圧力だ。顧客や投資家の多くは企業が気候危機対策に積極的に参加することを望んでいる。さらに、こうしたサステナビリティへの取り組みを行うことで、最近人気が高まっているESG投資ファンドに組み入れ対象になることもある。
それに対して企業は、直行便を優先する、出張を必要不可欠なものに絞る、飛行機よりも鉄道を選ぶ、コーポレートカードの代わりに決められた予算を使うなど、さまざまな方法で応えている。
「企業が温室効果ガスをオフセットするプログラムを通じ、排出量を補うこともある」とヘイスは話している。
さらに改革が必要
しかし、森に種をまくオフセットプログラムで排出量が相殺されたとしても、我々は気候危機を脱したわけではない。SAPのヘイスが言うように、標準化された二酸化炭素排出量の計算式がないことと、サステナビリティに関する報告形式が異なっていることが、正確ではない報告につながる可能性があるからだ。
TravelPerkのデントは「必要な改革が思うように進んでいない」と話す。
「航空業界の脱炭素化のペースは十分ではない。電動飛行機の実現まだまだ先の話だが、それが現れれば、ビジネスだけでなく、より一般的な短距離移動にも革命をもたらすだろう」
さらに、サステナブルな旅行を選択すると高額になってしまうことも多い。サステナブルな航空燃料は従来のジェット燃料の価格の3倍から4倍もするのが普通で、環境に優しい直行便で行くと、通常の乗継便で行くよりも高くつく場合が多いとヘイスは言う。
これは気候変動に配慮した支出をするための予算が出せる大企業にとっては、さほど大きな問題ではないかもしれない。だが資金が限られている中小企業にとっては、サステイナブル・ルートを選択するのは難しいだろう。
ヘイスは、「利用しやすいかどうかが問題だ」だとし、早急な対策が必要だと話す。従業員は企業が行動を起こすことを望んでいる。
[原文:In response to employee demands, companies are making business-travel programs more sustainable]
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)