新型コロナウイルス禍の影響で、航空各社はキャビンアテンダント(CA)を含めた新卒採用の中止や大幅縮小という状況に追い込まれている。CA就職などを目指している学生らにとっては厳しい環境だが、JR四国は「観光列車のアテンダントも就職先の選択肢に加えてもらいたい」と、専門学校のエアライン系学科の学生らを対象にした採用説明会と職場体験会を企画した。
観光列車をプロデュース
JR四国では観光列車として「伊予灘」「志国土佐 時代(とき)の夜明けの」「四国まんなか千年」という「ものがたり」3列車を運行している。
令和5年4月入社を対象にした採用説明会は、JR琴平駅(香川県琴平町)の専用待合室「ラウンジTAIJU」で実施され、大阪府や岡山、愛媛、香川各県の専門学校5校から男女学生26人が参加した。
ものがたり列車の推進室や企画室の担当者らが概要を説明し「JR四国の観光列車は車両デザイン、運行時のサービス、PRイベントなどを全て社内で直接行っている。アテンダントが乗務だけでなく多くに携われる機会がある」と話した。
スイーツ紀行や結婚式などのイベント列車や、車内でのサプライズ企画、料理提供先の開拓やグッズ開発、観光列車のPR戦略、周辺観光ガイドの情報収集など、業務は多岐にわたるという。
琴平と松山(愛媛県)の2拠点で約30人のアテンダントが在籍。昨年の説明会参加者のうち数人が入社したとの説明があった。
採用区分は2種類。プロフェッショナル職は駅係員や乗務員、アテンダントといったその道のプロとして働き、将来は現場マネジメント部門の可能性もある。
契約社員は「千年」と「夜明けの」の専属アテンダント業務となる。随時募集で早期就労が可能であり、年2回のプロフェッショナル職への登用制度がある。
こうした採用説明会は昨年に続き2回目で、担当者は「航空会社の採用動向が一つの契機になった。学生は職として、当社は人材としてアテンダントを求める方向で一致しており、お互いにメリットがある」とし「何でも自分たちで考えて自分たちの手でつくり上げるのでやりがいがある。観光列車でのおもてなしに興味がある人はぜひ志してほしい」とアピールした。
乗客として接客を体感
説明会終了後、琴平から始発駅の大歩危(徳島県三好市)に移動。特急で45分強で移動してきた区間を「千年」は2時間以上かけて戻る。職場体験会の参加者は乗客としてアテンダントの接客ぶりを体験する。
2号車に5人、3号車に12人が乗車して出発すると、アテンダントは食事の配膳に取りかかる。車内放送担当は2号車のカウンターから車窓に目をやりながらマイクを握って、風景紹介や車内の案内などを続けていく。大歩危・小歩危峡などでは列車が徐行し、風景をゆっくり楽しめる。
鉄道ファンに秘境駅として知られる坪尻駅(徳島県三好市)にも途中停車する。この区間はスイッチバック方式が採用されており前後の運転席間を移動するために運転士が車内を通ると乗客に拍手で送られた。
食事の後はデザートタイム、オリジナルグッズ車内販売を手際よく、親切丁寧にこなしていた。参加者と乗車したアテンダントとの質問タイムが設けられた。
大阪の観光専門学校1年、杣木希唯(そまきけい)さんは「先輩から参考になると聞いて参加した」、北村真鈴(まりん)さんは「アテンダントさんが周囲をよく見ていて沿線の農作業を中断して手を振ってくれる方たちのこともアナウンスで知らせてくれ、すごいと思った」と話した。
愛媛県の観光専門学校1年の塩田若菜さんは「高校のときに観光列車のポスターを見て興味を持った。実際に接客を受け、自分が料理を給仕するイメージが湧いた」と、思いを強くしたようだった。(和田基宏)