移動の自由巡り不協和音 イタリア、域内移動に検査要求
EU首脳会議
【ブリュッセル=竹内康雄】欧州連合(EU)は16日開いた首脳会議で、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(ブースター接種)と未接種者への接種を推進することで一致した。一方でEU域内を移動できる条件としてイタリアなどがワクチン以外の検査を要求するなど、足並みの乱れが目立つ。
「医療システムを守るためだ」。EU当局者によると、イタリアのドラギ首相は16日、首脳会議で同日から導入した措置の理由をこう説明したという。EU域内からの渡航者に、ワクチン接種者はPCR検査か抗原検査の陰性証明を提示することを義務付けた。ワクチン未接種者は、5日間の隔離が求められる。
背景には新型コロナの感染者の増加がある。米ジョンズ・ホプキンス大学によると、イタリアの1日当たりの新規感染者数は足元で10月時点の約6倍になった。
ギリシャもEU域内外問わず、国外からの渡航者に対して陰性証明の提示を義務付けることを決めた。適用は19日からで、クリスマス期間中の一時的な措置だという。ミツォタキス首相は「追加接種を行き渡らせるために時間を稼ぐためだ」と理解を求めた。ポルトガルも12月から同様の措置を始めている。
EUのほとんどの国は「シェンゲン協定」を批准して相互の国境を開放し、原則としてパスポートのチェックなしに行き来できる。だがコロナ禍で一部で制限が復活したことから、移動の自由をとりもどすため7月にワクチン証明書「デジタルCOVID証明書」を導入した。
ワクチン接種などを電子的に記録し、スマートフォンなどで提示すれば、これまで通り国境の検問なしで域内を自由に移動できるようにした。同制度のおかげでバカンス期に多くの人が旅行できるようになり、かき入れ時の南欧の観光産業が潤い、EUの景気を下支えした。
首脳が採択した合意文書には「いかなる対策も客観的な基準に基づくべきで、加盟国間の移動の自由を妨げないことが重要だ」と明記した。事実上国境を閉じれば、人に加え、モノの移動も滞りかねない。欧州の景気にマイナスに働くのは明白だ。イタリアなどは緊急措置と説明しているようだ。
首脳会議ではイタリアなどが決めた措置への異論が相次いだ。ルクセンブルクのベッテル首相は「国境の閉鎖は何の解決にもならない」と主張。ベルギーのデクロー首相は「加盟国がバラバラに行動することはEUの優れた制度を損なうことになる」と訴えた。フォンデアライエン欧州委員長は「協調した行動が必要だ」と力説した。
懸念は経済面だけではない。とりわけ域内を制限なく行き来できる「移動の自由」は欧州統合の歴史で最大の成果の1つだ。これが実質的に失われることになれば、統合が逆回転しかねないとの警戒感がEU首脳にはある。
首脳会議ではワクチン証明書の有効期限を9カ月とする欧州委の案も議論した。大きな異論は出なかったもようで、事務レベルで詳細を詰めた上で、近く正式に合意する見通しだ。
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