「何もない」秘境駅人気 北海道、廃止寸前に町救済
北海道の山あいにあるJR室蘭線小幌駅(豊浦町)は「日本一の秘境駅」と呼ばれる人気の駅だ。周囲に人家も車道もなく、元はすれ違う際に汽車が退避する場所だった。近くの海岸を使う漁師などのために駅になったが、利用客が減りJR北海道は町に廃止を打診。ただ、その「何もなさ」に、逆に観光資源の可能性を感じた町が管理を申し出、存続させている。
山中の2つのトンネルに挟まれた、長さ80メートルほどの草地に駅はある。8月の雨上がりの午後、町職員2人は駅に降りると、慌ただしく点検を始めた。駅に止まる列車は1日6本。戻りの列車は35分後だが、乗り逃すと約4時間待ちぼうけになるため、手分けして、ホーム床板の損傷具合など、リストにある20項目をチェックしていった。
大事なのは人気の「秘境感」を守ること。にぎわいすぎると「駅が秘境でなくなる」というジレンマがある。町産業観光課の朽葉昌生さん(39)は「整備の手を入れすぎないよう、来訪者の安全を守りたい」と話す。町職員と一緒に降りた5人の乗客は、せみ時雨の中、思い思いに記念撮影などを楽しんだ。
JR北海道などによると、国鉄時代の1943年に信号場として造られた。その後駅になったが、利用客は低迷し、2015年にJRが廃止を打診。ただ、秘境駅としての知名度を見込んで町は存続を希望した。経費負担と管理を条件に維持する協定を毎年更新している。
駅の維持費目的で町がふるさと納税を募ると、全国から寄付が集まり、現在の積立額は5年以上の運営が可能となる約4千万円にもなった。
町としては駅だけではなく、周辺にも人を呼び込むのが狙いだ。駅名看板と一緒に撮った写真を見せると入手できる「秘境到達証明書」は、町中心部に近い道の駅などで発行している。その際、特産のホタテやイチゴなどをアピールしたい考えだ。
JR北海道は、21年のダイヤ改正に伴って利用者の少ない18駅を廃止にした。現在、道内で自治体が維持管理する駅は19駅。経営難で今後も廃止や自治体管理への移行を進めるという。〔共同〕
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