
- アメリカン航空とユナイテッド航空は、いずれも電動垂直離着陸機(eVTOL)の導入を表明している。
- これはヘリコプターのような電動航空機で、パイロットを乗せずに高速道路の混雑を避けて飛ぶことを目指している。
- 開発に携わるスタートアップや大手航空宇宙企業は、どうすればこの新技術が一般の人々に受け入れてもらえるのかを検討している。
2021年2月、ユナイテッド航空(United Airlines)はアメリカの主要航空会社として初めて電動垂直離着陸機(eVTOL:イーブイトール)を発注し、業界のトレンドを生み出した。それに続いてアメリカン航空(American Airlines)は、イギリスのスタートアップ企業であるバーティカル・エアロスペース(Vertical Aerospace)に10億ドル(約1100億円)を投じて、およそ250機のeVTOLを発注した。
このようにeVTOLが注目されている背景には、空飛ぶタクシーの夢を実現しようとするスタートアップの存在があるが、その実現には数えきれないほどのハードルが立ちはだかっている。これらのスタートアップを支えているのは、航空機に搭載されるシステムを開発するハネウェル・エアロスペース(Honeywell Aerospace)などの航空宇宙産業の大手企業だ。
ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)やボロコプター(Volocopter)といった企業では、「エアタクシー」としてのeVTOLの商業運航を早ければ2024年には実現しようとしている。ハネウェル・エアロスペースで都市型エアモビリティと無人航空機システム部門を担当するバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのステファン・フィマット(Stéphane Fymat)は、このスケジュールは「現実的」なものであり、2024年とまではいかなくても、少なくとも10年以内には実現するだろうとInsiderに語った。
しかし、eVTOLを誰が操縦し、誰が乗るのかという疑問は残る。このコンパクトな飛行機は、ヘリコプターよりも小さく、電池だけで駆動し、パイロットなしで自律的に飛行することを目指した最新の技術だ。

エアタクシーというのは、ほとんどの人にとってまったく新しいサービスであり、不安を感じる人もいるだろう。そんなイメージを払拭するために、ハネウェルでは、まずはパイロットを搭乗させることを検討している。パイロットを搭乗させない自律飛行は、多くのeVTOL企業が目指すところではあるが、始めのうちは利用者に安心してもらうためにパイロットが必要だとフィマットは考えている。
「エアタクシーが受け入れられるかどうかは、いくつかのポイントがあるが、私は制御されている感覚と信頼感が重要だと考えている」とフィマットは述べている。
「最初からパイロットが搭乗しない完全自律型のエアタクシーを運航してしまうと、乗客はきちんとコントロールされているという感覚が得られないだろう」
しかし、パンデミックの影響でパイロット不足が再燃しているため、操縦桿を握るのは資格を持ったパイロットなのか、それとも訓練を受けた「オペレーター」なのか、まだ決まっていない。いずれにしても、ハネウェルはできる限り使いやすいコックピットを準備しているところだ。
フィマットによると、eVTOLのコックピットは「簡単に操作できる」設計にすることで、「シンプルで、直感的で、美しく」、「クール」なものになるという。その目的は、パイロットやオペレーターの育成を容易にするのと同時に、乗客の気持ちを和らげることにある。
ハネウェルは、マルチタッチディスプレイや音声コントロールなど、先進的なコックピットシステムの開発をリードしている。ダッソー・アビアシオン(Dassault Aviation)の新型機ファルコン10Xにはハネウェルの電子機器が搭載され、許可が下りればパイロット1人で巡航できるように設計されている。
乗客は、コックピットの中で何が行われているのか理解できれば、エアタクシーをより前向きに受け入れるだろう。eVTOLの内部には民間旅客機に使用されている既存のフライ・バイ・ワイヤー技術が搭載され、急角度でのバンクターンやストール(失速)といった危険な操作をほぼ不可能にしている。

しかし、新たな輸送手段を成功させるには安全性が最も重要になるため、操作が簡素化されているからといって安全性までおろそかにされているわけではない。多くの航空会社は、、ボーイング737 MAXにおける飛行トラブルを受けて、アメリカ連邦航空局(FAA)の認可要件よりもずっと厳格な欧州航空安全局(EASA)の認可要件に準拠するようになった。
小型のドローンによる荷物の配達を一般の人々が受け入れたように、eVTOLの製品化が進んで空を飛ぶようになると、自動運転の飛行機にも人々は慣れていくだろうとフィマットは指摘する。
また、eVTOLが上空を飛んでいても、地上にいる人はそれにほとんど気付かないという。
「離陸時に発生する音は、家庭の食器洗い機程度にすることを目指している。そして、頭上を飛んでいるときに、その音は聞こえない」とフィマットは述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)