中国・チベット自治区、ラサにあるポタラ宮前の広場。2020年9月19日撮影。2020年にチベットを訪れた観光客は3500万人だった。
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- AFP通信によると、中国政府はチベットの経済を発展させるために、農村をホテルやホームステイ先に変えようとしている。
- 2020年、チベットには多くの観光客が押し寄せたが、そのほとんどが中国国内からの旅行者だ。
- 専門家がAFP通信に語ったところによると、この動きは、少数民族が住む地域でその文化を再構築するという中国政府がよく行うパターンに当てはまるという。
中国政府は、チベットの村人に北京語を教え、牧夫や農民の家をホテルにすることを支援し、その地域での観光収入の増加につなげようとしていると、AFP通信が2021年6月16日に報じた。
2020年、チベット自治区の人口の10倍にあたる約3500万人の観光客が同地域を訪れ、そのほとんどが中国国内からの旅行者だった。外国人観光客数は、2019年で27万人とまだ少ないという。
観光客増加に向けた取り組みの一環として、中国政府は地元の人々に北京語を教える「文化研修」を行っているとAFP通信は報じた。
チベットは、中国の中央政府に抵抗してきた歴史を持つ政治的にセンシティブな地域だ。そんなチベットと中国の文化的ギャップを埋めようとする動きは、チベットの伝統や文化を奪うものだと見る人もいる。
ロンドンにある東洋アフリカ研究学院のロバート・バーネット(Robert Barnett)は、「チベット文化が、高度に管理されたマス・ツーリズムに組み込まれることで失われてしまうのではないかと、非常に憂慮している」とAFP通信に語っている。
「だが、それを見分けるのは困難だ。もちろん、観光地化を推進することでチベット人に利益がある。そして、ダメージの方が数値化するのが難しい」
中国政府は、少数民族の同化に向けた動きを繰り返している。2020年には、新疆ウイグル自治区で57万人のウイグル人が強制的な再教育訓練所で綿花の収穫をさせられていたとの報道があり、その支配力に厳しい視線が注がれるようになった。
また、2008年にチベットで暴動が発生した際にも、中国政府は激しい弾圧を加えたと報じられている。チベットは、宗教をめぐる衝突に苦しめられてきた。チベット人は中国に住む少数民族のひとつで、そのほとんどがチベット仏教を信仰している。一方、中国共産党は公式には無神論だ。
1959年、中国政府に反発する民衆による「チベット蜂起」が勃発し、チベット仏教の最高の精神的指導者であり、かつては政治的指導者でもあったダライ・ラマは、この地域から脱出した。この出来事は多くのチベット人にとって痛手となっており、その記憶が2008年の抗議活動の激化にもつながった。
中国は1950年代以降、チベットに対して何らかの形で統治権を握っているが、チベット人の抵抗勢力は、中国軍によるチベット文化や信教の自由の弾圧に度々抗議してきた。
中国当局は、チベットでの次の目標は、外国人観光客の誘致に力を入れることだとAFP通信に語っている。同通信社によると、現在、外国人がチベットに入るには、承認されたガイドと特別な許可が必要だという。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)