「飛鳥・藤原」の世界遺産登録、夏の国内推薦にらみ地域盛り上げへ正念場

飛鳥時代の遺跡「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」(奈良県橿原、桜井両市、明日香村)の令和8年の世界文化遺産登録を目指して、地元自治体が地域の盛り上げを図ろうと、追い込みをかけている。今年夏ごろに国の文化審議会が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)への国内推薦の可否を決めると見込まれるためだ。昨年12月と今年1月には奈良市や橿原市で講演会を開催。世界遺産登録には住民の理解が重要な要素を占めるだけに、後押しを期待する。

■切迫感

「平成19年に暫定リストに記載されてから、すでに15年以上も経過した。今や大詰めを迎え、何としてでも令和8年の世界遺産登録を勝ち取りたい」

1月20日、橿原市内で開かれた世界遺産登録推進協議会(県と3市村で構成)主催の講演会「地域とあゆむ世界遺産」で、橿原市の亀田忠彦市長が訴えた。

地域と世界遺産との関わりなどについて意見が交わされた奈良県橿原市での講演会
地域と世界遺産との関わりなどについて意見が交わされた奈良県橿原市での講演会

暫定リストへの記載は「世界遺産候補」という位置づけだ。平成22年に暫定リスト入りした「百舌鳥(もず)・古市古墳群」(大阪府)が令和元年に登録となり、先を越された。

「飛鳥・藤原」も昨年の国内推薦を目指したが、同年夏に国の文化審議会から「登録に必要な保護措置が十分でない」と指摘され推薦は見送りとなり、今年はまさに正念場といえる。

世界遺産登録は、海外の状況を見ても厳しくなっている。現在の世界遺産は文化遺産933件を含め計1199件(1月現在)。千件を超えて以降はハードルが高い。

■古代の国際情勢

「飛鳥・藤原」の最も重要なアピールポイントは、激動する国際情勢にもまれながら、生き残りをかけて新しい国づくりを進めた過程が「遺跡」からたどれる点だ。

中国・唐の台頭で朝鮮半島の百済や高句麗が滅亡するなど東アジアが不安定化する中、日本は大陸の法制度や知識を取り入れて天皇中心の中央集権国家を整備した。その歴史的歩みが、天皇や皇族の墓とされる古墳や宮殿跡などとして今も残っている。さらに、他国の脅威に備えて国家体制を強固にする動きは、激動する現代世界にも通じる。

明日香村の森川裕一村長は「古代の人が、世界情勢を見据えながらどのような思いで国のかじ取りを担ったか。遺跡を通じて世界中の人に感じてもらいたい」と述べた。

世界遺産登録には遺跡や景観の保存に向けたさまざまな開発規制が避けられない。宗田好史・関西国際大教授は「開発すれば街が活性化するという時代ではない。すばらしい景観を保つ地域に人々が集まるのが世界の潮流。景観保全は観光など地域の発展につながる」と強調。「日本国のはじまりの地である飛鳥・藤原は、美しい日本を世界に発信する絶好の場所」と、暮らしへの影響を懸念する住民に理解を求めた。

■3つの世界遺産

地元の飛鳥・藤原地域だけでなく奈良市の平城宮跡で昨年12月に講演会を行ったのが、明日香村の小池香津江文化財課長。「飛鳥の魅力について平城宮跡を訪れる人にも知ってもらいたい」との思いだった。

古代衣装を身にまとって飛鳥の遺跡について語る小池香津江課長=昨年12月10日、奈良市
古代衣装を身にまとって飛鳥の遺跡について語る小池香津江課長=昨年12月10日、奈良市

「高松塚古墳で壁画が発見された昭和47年は、ユネスコで世界遺産条約が採択された。世界的に歴史遺産の保護に関心が高まった年でもあった」とし、世界遺産と明日香との縁を紹介。その上で、飛鳥時代の歴史的位置づけについて「大陸の脅威に備えるには、古墳時代のような各勢力による連合政権では対応できず、強固な国家としてまとまる必要があり、法律や官僚機構を整備した」と解説した。

すでに世界遺産に登録された先輩格の「百舌鳥・古市古墳群」と奈良時代の「古都奈良の文化財」を引き合いに、「この2つの世界遺産をつなぐのが飛鳥・藤原。日本の国家形成を考えるうえで3つの歴史遺産がそろってこそ意義がある」と説いた。(小畑三秋)

「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」

推古天皇即位(592年)から平城京遷都(710年)までの約120年間の飛鳥時代に築かれた宮殿跡や古墳、寺院跡、香具山などの大和三山の22件で構成。天皇中心の律令国家が成立した政治の中枢の藤原宮跡(橿原市)、飛鳥美人壁画で知られる高松塚古墳(明日香村)、石舞台古墳(同村)などがある。

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