人口も観光資源も十分なのになぜなのか 大阪・金剛バスが路線廃止になった根深すぎる理由

富田林駅バスターミナルを出発する金剛バスの車体(撮影:筆者)
富田林駅バスターミナルを出発する金剛バスの車体(撮影:筆者)

大阪府南東部の南河内地域で路線バスを運行してきた、金剛自動車(大阪府富田林市、以下「金剛バス」と記す)が9月11日に突如、廃業を発表した。これまでバス会社は、乗客数が減少した路線で減便・経路短縮・廃線を行ってきたが、ついにバス事業自体から撤退・廃業するケースが現れたと、全国に衝撃が走った。

金剛バスは、12月20日に全15路線を一斉に廃止。以降は、同社が路線バスを走らせていた富田林市、太子町、河南町、千早赤阪村が10月1日に結成した「富田林市、太子町、河南町及び千早赤阪村地域公共交通活性化協議会」によって、バスが運行されることになった。具体的には、主要5路線で近鉄バス・南海バスを一部各自治体がサポートする形で運行。残りの路線は各自治体が手分けして運行する。

バス事業廃止の掲示(同前)
バス事業廃止の掲示(同前)

金剛バスの突然の廃業は、各自治体ともに寝耳に水の出来事であり、非常に驚いている。そうした中で、急きょ担当者が集まり、何とか路線バスを継続できることとなった。人手不足などの理由により、従来と比較して減便や路線の短縮を余儀なくされるケースも多いが、需要が少ない路線は廃止される一方、一部で新設される路線もある。ひとまず地域の足は確保されたので、住民は安心したのではないだろうか。

金剛バスのターミナルがある、近鉄・富田林駅前で路線バスを待っていた60代くらいと思しき婦人に話を聞くと「かつては本当に富田林の駅前に活気があって、金剛バスはすごくもうかっていたのではないか」という。「富田林はずいぶんと寂しくなった」ともしみじみ語った。街の衰退が金剛バスの撤退につながっているといった認識だ。

近鉄富田林駅。電車の発着時以外は静か(同前)
近鉄富田林駅。電車の発着時以外は静か(同前)

需要減よりも深刻なのが「人手不足」

同社は2020年4月に貸切バス、23年6月にタクシーも廃業している。同社によれば「コロナが収束してきた1年くらい前から、月に1人、2人と運転手が連続して辞めていくようになった。路線バスを運行するのに最低限の乗務員の目途が立たなくなってしまった」とのこと。コロナで人々が公共交通を避けるようになって乗客が激減したことではなく、アフターコロナに起こった異次元の退職者増加が原因としている。

これまで金剛バスは、運転手が辞めたら補充して一定数を確保していたが、昨今は求人を出しても反響がない。現状は約30台のバスを17人の運転手で回しており、既にギリギリの状態で、さらなる退職者も出る見込みだ。コロナの間は、旅行する人が激減したため、むしろ観光バスの会社から転職してきて、運転手は30人と十分に確保されていた。ところが、今は逆にインバウンドをはじめ観光需要が激増して、観光バスにどんどん人材が流出している。

富田林駅前にある金剛バス本社(同前)
富田林駅前にある金剛バス本社(同前)

大阪バス協会によれば「路線バスの運転手は給料が安定している。一方、観光バスは繁忙期と閑散期があって給料が安定しない傾向がある。今の大阪はインバウンドをはじめ観光需要が膨らんでいるため、観光バス運転手の給料が上がっている可能性がある」という。同じバスの運転手でも路線バスと観光バスでは待遇が異なるようだ。

人口もそれなり、利便性も高い、それなのになぜ寂れたのか

金剛バスはなぜ、突然の廃業に追い込まれてしまったのだろうか。

富田林市役所によると、22年の人口は約11万人。玄関口となる近鉄長野線・富田林駅の1日の乗降客数は、近鉄によれば1万1142人(22年11月8日調査)だ。同規模な人口の大阪府松原市の中心駅、近鉄・河内松原駅の乗降者数は2万7550人(同)と、富田林駅の倍以上もある。富田林駅の乗降者数は、大都市圏にある市の中心駅かつ人口規模もそれなりにある割に、少な過ぎると感じる。

現在の富田林駅前は、南口改札を出ると旧金剛バスのバスターミナル以外に、コンビニの「ローソン」、居酒屋の「鳥貴族」「魚民」、カラオケ「カラオケライブ」の入るビルが目立つ程度で、活気があるように見えない。実は歩いて1~2分の至近距離に「ミスタードーナツ」や「関西スーパー」などの店もあるが、駅直結・隣接でないので、駅前がとても寂しく見える。

東口駅前にある店はほぼ、このビルのみ(同前)
東口駅前にある店はほぼ、このビルのみ(同前)

駅の逆側、北口は近鉄バスとコミュニティバスのレインボーバスが発着しているが、駅前はさらに寂しい。ところが北口も2、3分歩けば、家電の「エディオン」、スーパー「コノミヤ」などが入る商業ビルがある。駅の近くは商業地になっているのだが、全般にお店は駅よりも幹線道路の方を向いていて、富田林がクルマ社会になっていることを物語る。

駅前の風景(同前)
駅前の風景(同前)

近鉄に乗れば、長野線から南大阪線に直通する準急によって、30分ほどで大阪の中心部の一つである大阪阿部野橋駅に着く。しかし、市民には利便性がそれほど感じられていないようだ。また、富田林駅に発着する金剛バスは、河南町と千早赤阪村の中心部から鉄道駅を定期的に結ぶ唯一の公共交通だった。交通の要衝でありながら、その強みが生かされていない。

何人かの市民に話を聞くと、金剛バスがカバーしていなかった駅の北側に、国道170号線新道(大阪外環状線)が通っていて「ドン・キホーテ」「ニトリ」「マクドナルド」などもあり、にぎやかなのだという。また「イオン」や「富田林病院」「PL病院」のような市民が利用する施設も、駅の北側にある。これは国道170号線新道のさらに西に「金剛ニュータウン」「金剛東ニュータウン」「パーフェクト リバティ(PL)教団 大本庁」があることと関係している。

富田林の場合、駅から離れた郊外ロードサイドが商業地化していて、駅の周囲が衰退するドーナツ化が進んでいる。それとともに、幹線道路に店舗が無秩序に広がるスプロール現象が顕著となっている。クルマ社会の地方都市では、ありがちなケースの一つだ。中心市街地が空洞化してしまっては、毎日の買いものなどの所用に市民がバスを使わなくなる。

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