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世界的な人気スパイ映画「007」シリーズのロケが半世紀以上前に行われた鹿児島県南さつま市で、作品の根強い人気を交流人口の増加につなげる取り組みが進んでいる。ゆかりの地を巡る遊覧飛行を企画したり、映画に登場した古民家を宿泊施設に改修したりと、関係者は往年の名作を通じて国内外のファンを呼び込もうとしている。(古島弘章)
「ボンドガール」は客室乗務員
11月11日、鹿児島空港を離陸した日本エアコミューターのチャーター機「JAC―007」が同市坊津町秋目地区の上空に差し掛かると、機内で歓声が上がった。日本を舞台にした「007は二度死ぬ」(1967年公開)では、主人公のジェームズ・ボンドが愛機のジャイロコプターで、秋目地区周辺や桜島(鹿児島市)、霧島連山・新燃岳(鹿児島、宮崎県)の上空を飛ぶシーンが出てくる。
市主催の遊覧飛行で、ロケ地などの上空を約1時間かけてフライト。東京都や山形県など全国から約40人が参加し、窓からの景色を撮影したり、挿入歌を口ずさんだりして楽しんだ。
機内では007のテーマ曲を流し、客室乗務員はボンドガールをイメージした着物姿で接客した。ファン歴45年という静岡県函南町の会社員男性(61)は「窓から見える風景は映画と同じで、主人公の追体験ができた。演出にも満足した」と笑顔を見せた。
出向JAL社員が企画
薩摩半島の南西に位置し、東シナ海に面した秋目地区。1966年、ひなびた漁村との設定で1週間程度のロケが行われ、ボンド役を務めた俳優ショーン・コネリーさん、ボンドガールを演じた浜美枝さんらが訪れた。
市観光交流課によると、秋目地区一帯は007シリーズのロケ地の中でも、当時の風景がほぼ手つかずで残されている数少ない場所だという。90年には出演者のサインが刻まれた記念碑が海辺に建てられ、国内外のファンが“聖地”に足を運んでいる。
遊覧飛行を実施したきっかけは、日本航空(JAL)から観光デザイナーとして市に出向中の坂本高昭さん(44)と、地区住民らによる約2年前の意見交換会だった。映画人気に着目した観光ルートづくりが話し合われ、坂本さんがJALグループや地元の観光会社と調整を進めた。参加者は遊覧飛行の翌日、ロケ地散策や、当時の助監督のトークショーなども満喫した。1泊2日のツアー参加料は約3万円。予約受け付け開始から10日ほどで定員が埋まり、市はツアーの継続を検討中だ。坂本さんは「イベントを通じて昔からのファンとのつながりを深めつつ、新しい層も取り込みたい」と意欲を示す。
地元住民も知恵絞る
秋目地区の住民も、ファンや観光客を招くために知恵を絞る。
地区にある古民家「岩元家住宅主屋」は、ボンドが結婚を装って漁村に潜入するシーンで外観や石垣が映し出された。NPO法人「がんじん・里づくり秋目ネット」は、所有者の許可を得てトイレなどを改修し、11月から簡易宿泊施設として利用を始めた。
漁師の網元だった岩元家の住宅は、西南戦争(1877年)後に建てられたとされる木造瓦ぶきの建物。歴史的景観にも寄与しているとして、2021年に国の有形文化財に登録された。
8畳間3部屋と6畳間2部屋に宿泊でき、素泊まり1泊2500円(税込み)で定員7人。すでに市民や外国人など幅広い層が利用しているという。秋目ネットの大迫忠興理事長(80)は「宿泊して映画の雰囲気や秋目の歴史を感じてほしい」と話している。
自治体にロケツーリズム専門部署も
映画やCMのロケを地域活性化につなげる「ロケツーリズム」の取り組みは、各地で行われている。
長崎県島原市では2021年度、ロケ誘致の専門部署「ロケツーリズム班」が発足。人気タレントの上白石萌歌さんが出演し、島原鉄道
アニメ映画「君の名は。」の舞台の一つ、岐阜県飛騨市は、効果的に活性化につなげた地域を表彰する「ロケツーリズムアワード」最優秀賞に選ばれた。
◆「007」シリーズ= 英国の小説家イアン・フレミングのスパイ小説を原作とする映画の作品群。007は、主人公で英国秘密情報部のエージェント、ジェームズ・ボンドのコードネーム。1962~2021年に25作品が公開されている。