「富士山観光、量から質へ転換を」山梨県知事 オーバーツーリズムで

日本外国特派員協会で会見する山梨県の長崎幸太郎知事=29日、東京都千代田区(平尾孝撮影)
日本外国特派員協会で会見する山梨県の長崎幸太郎知事=29日、東京都千代田区(平尾孝撮影)

山梨県の長崎幸太郎知事は29日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で会見し、富士山のオーバーツーリズム(過剰観光)問題が極めて深刻な状況にあるとしたうえで、「来訪者数のコントロールが急務で、そのためにも富士山登山鉄道構想を進める必要がある」と強調した。

長崎氏は、10年前の富士山の世界文化遺産登録決定時に「国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)から、『人の多さ』『環境負荷の大きさ』『人工的景観が目立つ』ことの3つの課題とその解消が求められたが、この間、ほとんど進んでいない」と振り返る。そのうえで「このままの状況が続けば遺産登録抹消の可能性もある」と、強い危機感を示した。

このため県が管理する河口湖から富士山5合目までの有料自動車道「スバルライン」を廃止し、軌道に切り替え、次世代型路面電車(LRT)でつなぐ富士山登山鉄道で、これらの課題に対応する考えを示した。鉄道によって来訪者数を制御すると同時に、緊急車両以外の自動車やバスが通行できないため排ガスもゼロになる。鉄道の動力は、地下からワイヤレス給電する方式を想定しているため、自然破壊は最小限で済むという。

さらに5合目のコンクリートでできた駐車場を、自然と融合した形態の駅舎に作り替え、景観の改善を図っていく。5合目は電気、上下水道が通っていないが、軌道整備とともにこれらのライフラインを整備して、発電機の排ガス、騒音問題や、屎尿(しにょう)処理などの課題解消にもつなげる。

長崎氏は「富士山観光を(多くの人が訪れる)量から、質への転換を図る」と説明。来訪者の満足度を引き上げるとともに、「信仰の対象、芸術の源泉としての本来の富士山を取り戻したい」と語った。

一方で地元の富士北麓地域の自治体や観光団体からは登山鉄道構想への反対意見が強い現実にも触れ、「整備手法や技術的課題などを地元とエビデンス(科学的根拠)をもとに対案をぶつけながら、課題解決に向けた議論を進めたい」と当面の方向性を説明した。

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