「昭和型社員旅行」を再現 日本経済の長期低迷、脱却の鍵になるか

昭和型社員旅行を再現し、お土産を選ぶメンバーら。参加できなかった社員へのお土産も大事な心配りだ=7月16日午前、静岡県伊東市(大森貴弘撮影)
昭和型社員旅行を再現し、お土産を選ぶメンバーら。参加できなかった社員へのお土産も大事な心配りだ=7月16日午前、静岡県伊東市(大森貴弘撮影)

畳敷きの大広間に集まり朝までどんちゃん騒ぎ…。今では珍しくなった「昭和型社員旅行」を完全再現し、有用性を確かめようとする試みを研究者らの有志グループが始めた。かつて「経済大国」として名をはせた背景には「日本型経営スタイル」があり、結束を高める社員旅行はその象徴ではないか-。研究者らはこんな仮説に基づき、経済の長期低迷脱却の鍵を探ろうとしている。

ハトヤホテルで〝実験〟

民間シンクタンク「富士通総研」の池上敦士研究員(33)は米ハーバード大に留学中の昨年、交渉術の授業で、日本社会で重視される「根回し」などが「戦略」として紹介されているケースを知った。

以前からバブル崩壊後の日本経済停滞の要因を探っており、「前時代的とか古臭いと考えがちな日本型経営こそ、組織の力を引き出す仕組みだったのでは」と考えるに至ったという。

 社員の親睦を深める昭和スタイルの社員旅行が、日本型経営の象徴だと仮説を立てた池上氏。その強みを探るため、同じくハーバード大に留学中だった電通PRの関口響研究員(30)に企画を持ち掛けた。

 関口氏は長年、日本企業のPRコンサルタントに従事し、池上氏と同じ問題意識を抱いていたため参加を快諾。経済産業省などの留学仲間も加わり、7月15~16日、かつて社員旅行が盛んだったハトヤホテル(静岡県伊東市)で実行に移した。

行きの電車から缶ビールで乾杯し、到着後はホテルに直行。浴衣に着替えて温泉に入り、夕飯は全員でテーブルを囲んだ。畳敷きの和室での宴会まで忠実に再現した。

池上氏は「裸で温泉に入り、浴衣で開放的な気分になる。己をさらけ出し、互いの人となりを知ることができる極めて有意義な仕組みだと実感した」と成果を強調。さらに仮説を裏付けるため、来夏には数十人規模での実施を計画している。

実施率は3割弱

バブル期をピークに、社員旅行は減少傾向にある。シンクタンク「産労総合研究所」が民間企業3千社に行った調査によると、社員旅行の実施率は令和元年時点で27・8%にとどまる。

若手社員の間で、会社のイベントを敬遠する傾向が出てきたほか、福利厚生として費用負担することも多かった企業側に経済的余裕がなくなった点も見過ごせない。

一方で、社員旅行を見直す動きもあり、旅程の相談などに応じる旅行会社「ホワイト・ベアーファミリー」(大阪市)によると、5年ほど前から問い合わせが増え始めたため、社員旅行専用の部署を新設したという。

新型コロナウイルス禍でテレワークが定着したことも踏まえ、「社員同士の顔合わせのチャンス」と位置付ける企業も多い。水際対策の緩和で、海外での社員旅行の問い合わせも増えつつある。

旅行アナリストの鳥海高太朗氏は、自身が役員を務める会社で実際に社員旅行を企画・実施しており「社長ら経営層と社員がゆっくりと話せる貴重な機会。一体感を高める仕組みとして有効であり、経営判断として再び取り入れようとする動きも今後出てくるのではないか」と述べた。(大森貴弘)

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