ふるさと納税返礼品にも「モノ」から「コト」への波「体験型」が拡大中

整備格納庫で航空機を見学する参加者=6月、大阪空港
整備格納庫で航空機を見学する参加者=6月、大阪空港

航空機の機内サービスやはしご車の乗車、プロスポーツチームの練習からニュースキャスターまで…。ふるさと納税で「体験型」の返礼品が目立ち始めている。この3年間で体験型は約1・8倍、寄付件数は約1・6倍になった仲介サイトも。物品の返礼品では差別化が難しくなったことや、コロナ後のお出かけ需要の高まりが背景にあるとみられ、識者からは「地域の特性を生かしたアイデアが必要」との声があがる。

企業と連携

「お飲み物はいかがですか」。6月下旬、大阪空港周辺にある日本航空の訓練施設。実際の航空機内を模した施設内で「JAL大阪国際空港施設見学ツアー」の参加者がワゴンを押しながら、機内サービスを体験していた。現役の客室乗務員が付き添い指導する。

参加者は機内アナウンスなどもこなした後、整備格納庫に移動し航空機を間近に見ながら整備士から解説を受け、操縦席で記念撮影をするなどした。

同ツアーは、同空港が立地する大阪府豊中市、池田市、兵庫県伊丹市の3市が合同で実施した、10万円のふるさと納税者に対する返礼品だ。JALが空港周辺自治体で開いている見学会が人気を集めていることに着目し、同社と連携して初めて企画した。

4月に豊中市8人、池田市3人、伊丹市4人の定員で募集したところ、伊丹は即日で受け付け終了、豊中、池田は約2週間で満員という人気ぶりだった。

参加した東京都武蔵野市の会社員、加納寿浩(としひろ)さん(54)は「実際に救命胴衣を膨らませるなど貴重な体験ができた」と笑顔を見せた。豊中市は「住宅都市でもある豊中市は特産品などがなく、こうした体験を提案するのは今後にもつながると思う。空港のまちとしてのアピールにもなった」と狙いを話す。

連携する企業側にも期待がかかる。日本航空は昨年、熊本県や北海道などでも返礼品として空港ツアーを実施した。同社グループのジェイエアの本田俊介社長は「地域活性化に貢献するのは航空会社の使命」としたうえで「これまでの返礼品は特産品や食料品などが中心で、観光業界や飲食業界は恩恵を受けられなかった」と指摘。「体験型ツアーで、新たな人の動きを作りたかった」と話す。

プロ選手と

大阪府箕面市は、同市を本拠地とする男子バレーボールVリーグ「サントリーサンバーズ」と連携したふるさと納税の返礼品を展開している。

昨年は3万3千円の寄付者を対象に「サポート体験日帰りプラン」を実施。先着5人で募集したところ、初回はわずか22分で埋まった。

ふるさと納税の返礼品でサントリーサンバーズの練習を手伝う参加者ら=昨年10月、大阪府箕面市
ふるさと納税の返礼品でサントリーサンバーズの練習を手伝う参加者ら=昨年10月、大阪府箕面市

プランでは、同市のサントリー箕面トレーニングセンター体育館を訪れ、選手たちと昼食をとり、練習もアシスト。選手たちがスパイクしたボールを拾って渡すなど、普段は近づけない選手との交流やプロの練習の臨場感を体験した。

現在は「練習拠点でのサポート体験」(寄付金額5万5千円)と「ホームゲーム試合前チームサポート体験プラン」(同7万7千円)に加え、今年度は選手から直接指導を受けられる「サントリーサンバーズバレーボール教室プラン」(同3万3千円)も追加。ラインアップが広がり、市にとって効果を実感できる返礼品という。

スポーツを生かした体験型は広がり、「みえ松阪マラソン」の出場権(三重県松阪市)▽パラグライダー体験(埼玉県毛呂山町、長野県白馬村)▽シーカヤックの半日体験(千葉県南房総市)-などが登場。変わり種では、町のケーブルテレビで「ニュースキャスターになれる券」(兵庫県多可町)が現れ、体験型の返礼品は拡大の一途だ。

アイデア勝負

ふるさと納税の仲介サイト「ふるさとチョイス」によると、同サイトに登録されている体験型の返礼品数(今年6月時点)は約1万5千。直近3年では約1・8倍、また、同期間の寄付件数実績も約1・6倍で増加を続けている。

同サイトを運営するトラストバンク(東京)によると、ふるさと納税の経験者(約300人)へのアンケートで体験型の返礼品を「受け取ったことがある」は33・2%、「もらったことはないが関心はある」は44・1%にのぼる。

同社関係者は「物品の返礼品は肉や魚介類などに人気が集中し、商品開発も限定される。体験型はアイデア次第で企画しやすく、人の動きも作ることができる。アフターコロナ、ウィズコロナで旅行需要が高まっていることも注目される理由では」とする。

「モノ」から体験などの「コト」にラインアップが広がり始めた返礼品。競争が激化するなか、自治体側にも対応が求められる。

慶応大総合政策学部の保田隆明教授(経営学)は、交流人口を増やすことが自治体共通の課題になっているとし「体験型の返礼品は地元に来てもらうきっかけになる。地元企業にとっても新規顧客を獲得するチャンス」と解説する。

一方で、体験型の急増に伴い人気に差が出てきているといい「各自治体にとってアイデア勝負の段階に入った。地域の特性を理解して、多くの人が参加しやすいよう試行錯誤を重ねる必要がある」と指摘する。(格清政典)

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