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航空機の運航を支える地上業務「グランドハンドリング」と保安検査の人手不足が続いている。コロナ禍で離職が相次いだが、採用が追いついていないためだ。水際対策が緩和されて航空需要が回復に向かう中、路線の新規開設や空港運営への影響が懸念され、空港運営会社や政府は対策に乗り出した。(杉山正樹、小野田潤)
■一時は半減
ゴールデンウィーク期間中(4月28日~5月7日)、関西空港の国際線出発ロビーの搭乗手続きカウンターや保安検査場前では、日本人客や外国人客が長い列をつくる場面がみられた。
地上業務や保安検査は、複数の専門業者が航空会社などから受託しているが、コロナ禍で多くの従業員が離職した。空港を運営する関西エアポート傘下の地上業務子会社では職員が一時、半減した。需要回復を受けて各社は人員確保を進めるが、現在は便数がコロナ禍前の2割にとどまる中国路線が急拡大すれば、人手不足が再び深刻化する恐れもある。
関空を始め、約50か国の空港で地上業務を担うスイスポートインターナショナルのワーウィック・ブレディCEO(最高経営責任者)は「海外の航空会社から『日本への便数を増やしたい』と依頼があるが、受けきれない」と話す。
■イメージ悪化
国土交通省が昨秋、国内の主な地上業務会社61社を対象に実施したアンケートでは、従業員数はコロナ禍前より旅客ターミナル内業務で22%、航空機周辺業務で12%、それぞれ減った。別の調査では、保安検査員は19%減った。
航空業界は就職先として人気が高かったが、コロナ禍で「不安定」とのイメージに変わった。就職情報サイト「マイナビ」などが2023年卒の大学生を対象に調査した就職企業人気ランキング(文系女子)では、20年に16位だったANAホールディングス子会社のANAエアポートサービスは圏外になった。
■政府が支援
政府は25年までに訪日客をコロナ禍前を超える水準に引き上げる目標を掲げる。だが、人手不足が足かせになりかねず、空港運営会社や政府は人材確保の支援に力を入れる。
関西エアは採用サイトに、地上業務や保安検査の関連企業が求人情報を掲載できるようにした。福岡、成田、中部、新千歳、広島などの空港運営会社は、機内清掃や警備など職種が異なる空港関連企業の合同説明会を開いた。
国交省も2月、有識者で構成する検討会を設置した。長時間労働の是正や、平均年収が326万円と低い給与水準の改善などを盛り込んだ対策を近く取りまとめる。
検討会の委員を務める立教大の首藤若菜教授(労働経済学)は「空港の人手不足の問題は、ホテルや観光産業の回復に水を差す恐れがある。人員確保には、拘束時間の短縮や賃金水準の向上が不可欠だ」と指摘している。
グランドハンドリング 空港での地上業務の総称。航空機の誘導や給油、清掃などの「スポット」と、搭乗手続きや旅客案内、手荷物の預かり・仕分けなど「旅客ターミナル」の二つに大別される。国内では2次請負の事業者も含めると約370社ある。