国際線「羽田シフト」に危機感 成田のアピールは「歌舞伎」

新型コロナウイルスの水際対策緩和でインバウンド(訪日外国人)の回復に期待が集まる中、首都圏の国際空港の座を巡り、成田空港(千葉県成田市)の地元が危機感を募らせている。羽田空港(東京都大田区)の再国際化で航空会社が羽田に移る「羽田シフト」が起きたためだ。成田市は「歌舞伎のまち」で訪日外国人に存在感をアピール。〝成田離れ〟を食い止めようと躍起だ。

進む羽田シフト

昭和53年の開港以来、日本の空の玄関口を担ってきた成田空港。だが平成22年10月、羽田空港に4本目の滑走路が完成して羽田が再国際化されると、「国際線は成田、国内線は羽田」というすみ分けが崩壊。26年3月に国際線の発着枠が拡大されると、羽田シフトが加速した。「羽田シフトが進めば、少なからず影響がある」。成田市の担当者は危機感を募らす。

国土交通省によると、成田の旅客数は平成30年に4千万人の大台に乗り、コロナ禍前の令和元年に過去最多の約4241万人に達した。このうち約8割に当たる約3477万人が国際線の旅客。一方、羽田の元年の旅客数約8741万人のうち約8割の約6887万人が国内線の旅客だった。

羽田は今も国内線がメインだが、国際線の新規就航や増便が相次ぎ、再国際化前の平成21年に約259万人だった国際線の旅客は令和元年に約1854万人と10年で約7倍も増加した。

成田と歌舞伎の縁

正月三が日には約300万人の初詣客でにぎわう成田山新勝寺。その参道に10月、歌舞伎を前面に押し出した高級ホテル「和空(わくう) 成田山門前」が開業した。テープカットを担当したのは、江戸歌舞伎を象徴する大名跡を継いだ市川海老蔵改め團十郎さん(44)。館内には「勧進帳」などを演じる團十郎さんの写真パネルや衣装が並ぶ。

高級ホテル「和空 成田山門前」の館内に並ぶ市川海老蔵改め團十郎さんの写真パネル=千葉県成田市(大竹直樹撮影)
高級ホテル「和空 成田山門前」の館内に並ぶ市川海老蔵改め團十郎さんの写真パネル=千葉県成田市(大竹直樹撮影)

JALグループの職員として26年間成田空港に勤務していたホテルの支配人、小沼さおりさん(51)は「歌舞伎を知らない外国の方も、館内の展示に興味を持ってもらっている」と手応えを感じている。

成田市によると、成田山新勝寺と市川團十郎家とは、初代團十郎が子の誕生を本尊の不動明王に祈願して以来の縁。屋号「成田屋」の由来にもなった。同市観光プロモーション課の麻生英純(えいじゅん)課長(52)は「歌舞伎はインバウンドに向けた新たな起爆剤になる」と期待する。

古き良き文化アピール

インバウンドに詳しい航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は「利便性の高い羽田はビジネス需要があり、羽田シフトの流れはこの先も止まることはないだろう」と指摘する。

ただ、羽田だけでは今後予想される旺盛なインバウンド需要はまかなえないといい、「成田の国際線は観光需要やLCC(格安航空会社)がメインになる。伝統文化で観光客を呼び込むのは正しい取り組みだ」との見方を示す。

政府は両空港を「首都圏空港」と位置づけて機能強化を目指している。成田国際空港会社(NAA)によると、B滑走路を現在の2500メートルから3500メートルまで延ばし、3本目(3500メートル)を新設する計画が進む。年間発着枠は現在の30万回から50万回に増えるといい、将来的には、現在3つに分かれている旅客ターミナルを1つに集約する。

成田山新勝寺に続く参道で和風カフェを営む下田真吾さん(51)は「成田はもともと成田山新勝寺の門前町。歌舞伎をはじめ古き良き文化が残っており、外国人にも楽しんでもらえるはずだ」と話している。(大竹直樹)

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